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学生たちの休日10

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学生たちの休日10
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    ★    ★    ★
 
「はい、受け取りのサインですわ。御苦労様でした」
 高嶋 梓(たかしま・あずさ)が、配達してもらったおせち料理の山を受け取ります。
「これは厨房へと運べばいいのですね」
 ソフィア・グロリア(そふぃあ・ぐろりあ)が、それを土佐の厨房に運び込みました。
「それは、このお皿に盛ればいいんですね」
「はい、お願いしますわ」
 山口 順子(やまぐち・じゅんこ)に聞かれて、高嶋梓が答えました。
 厨房では、作っていた手料理を加えてどんどんお皿に盛っていきます。これらは年越しパーティー用ですが、それとは別にお蕎麦と天ぷらも用意しなければなりません。厨房は大忙しです。
「それじゃ、お願いします」
「お任せですわ」
 盛りつけの終わったお皿を、山口順子がソフィア・グロリアに渡しました。
 できあがった料理は、ソフィア・グロリアが、順次、甲板に作られたパーティー会場へと運んでいきます。
テーブルはここにおいたから、この上にお皿は順番に載せていっていただけます?」
「ここですね。分かりましたわ」
 天城 千歳(あまぎ・ちとせ)がならべていったテーブルの上に、ソフィア・グロリアが食べ物のお皿を載せていきました。
「ブリッジにも持っていきますね」
 そう言うと、出前持ちよろしく、ソフィア・グロリアが年越し蕎麦を運んでいきます。
「おっ、ありがとう」
 ブリッジでは湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)がソフィア・グロリアの持ってきた蕎麦を受け取りました。出港準備に追われる船長としては、ブリッジを離れるわけにはいきません。
「岡島様と太田川様もどうぞ」
「ごちそうになるぜ」
 艦橋にいた岡島 伸宏(おかじま・のぶひろ)大田川 龍一(おおたがわ・りゅういち)も、一緒に蕎麦をもらいます。温かい汁蕎麦は、冷え切った身体を温めてくれました。
「それにしても、初日の出クルーズとは、さすが、兄貴。豪快だねえ」
「まあな。たまにはこういうのもいいだろう」
 大田川龍一に褒められて、湊川亮一が答えます。年に一度のことですから、多少豪快な方がいいでしょう。
 そのころ、坂本 竜馬(さかもと・りょうま)は、船室の炬燵に入って、海京から放送されている年末番組を見ながら年越し蕎麦を食べていました。
「ほう、これが今の日本か。ずいぶんと変わったものだのう」
 お寺の除夜の鐘の生放送と共にときおり映る都会の大晦日の風景を見て、坂本竜馬がつぶやきました。幕末の大晦日の名残があるようなないような、坂本竜馬にとってはこれが今風かと感嘆すること多しです。
「ずいぶんと変わってしまったものじゃのう。わしの知る昔は、文字通り昔となったんじゃな」
 蕎麦を啜りつつ、坂本竜馬はそうつぶやかずにはいられませんでした。
 年の瀬をお蕎麦で締めくくりつつ、時間は過ぎていきました。
 いよいよ、カウントダウンです。
 元旦クルーズに参加した者たちが、甲板に集まってきます。
「3、2、1……!」
 新しい年の始まりと共に、湊川亮一が思いっきり汽笛を鳴らしました。
 甲板に集まっていた人々の頭の上で、新年を告げる汽笛が鳴り響きます。船乗り式の新年祝いです。
 ソフィア・グロリアが、ミサイルランチャーから花火を打ちあげて花を添えます。
「あけましておめでとう」
「あけましておめでとうございます」
 甲板に料理を運んでいた女性陣が、空を見あげてから挨拶を交わしました。
「あけおめですわー」
 ソフィア・グロリアが、景気よく残弾を全部発射しました。
 その様子は、艦橋からも見えます。
「あけましておめでとう」
「あけましておめでとうございます」
 艦橋にいた岡島伸宏と大田川龍一が、湊川亮一と新年の挨拶を交わしました。
「時間だ。出港する」
 湊川亮一が、全艦に出港の合図を送りました。
 蕎麦で身体を温めた坂本竜馬と岡島伸宏と大田川龍一が、出港作業のために艦外へと出ていきました。手早く、舫い綱を外して回ります。
「微速前進!」
 ウィスタリアの隣に停泊していた土佐が、ゆっくりと港から離れていきます。
 ドックには、伊勢の姿がチラリと見えています。
 しばらく航行して、土佐が止まりました。
「それでは、あらためて『新年会、初日の出クルーズ』のパーティーを開始したいと思います」
 高嶋梓が、司会をしてパーティーが始まりました。
 アルコールは用意してありませんが、みんなで一斉に乾杯します。
 少し遅れて、艦長の湊川亮一がやってきました。絶好の初日の出ポイントに土佐をオートクルーズで停泊させてきたので、一番最後の登場です。待ち構えていた一同から拍手が起こりました。
「これ、梓さんが作ったのか。うまいぞ!」
 テーブルの上に所狭しとならべられた料理に舌鼓を打ちながら岡島伸宏が言いました。
「半分は、デパートのおせちセットですけれど」
 高嶋梓が謙遜します。
「いやいや、日本のお正月を堪能できて感激してるって」
 遠慮なくおせち料理をつまみながら、大田川龍一が言いました。
 料理の支度が一段落ついた女子たちも、のんびりとおせちを楽しんでいます。
 満点の空の下、新年の時間は楽しく過ぎていきました。
「日の出だ」
 明るくなってきた東の水平線を見つめて、湊川亮一が言いました。
 オレンジ色の太陽が、紺色の海を金波銀波を生み出しながら、オレンジ色の影をのばしていきます。
「うん、やっぱり海で見る初日の出はいいな」
 今年もいい年になりますようにと心の中で祈りつつ、湊川亮一がじっと初日の出を見つめました。
「綺麗な光景。ここまで見に来てよかったわ」
 荘厳な朝日に見とれながら天城千歳がつぶやきました。
「こん、大きな船の上で、初日の出を見ることになるとはのう。バラミタの夜明けは近いぞよ」
 海風に面をむけながら、坂本竜馬が言いました。
 海京をぐるりと一周すると、土佐は元の桟橋へと戻っていきました。
 楽しかった新春の航海ももうじき終わりです。
「そちらは、お任せしますわ」
 テーブルを元の船内に運びながら、天城千歳が言いました。
「ゴミは順次纏めてます」
 パーティーの後片づけをしながら、山口順子が言いました。紙皿などを、ゴミ袋に分別しながら詰めていきます。
「それ、持ってくぜ」
 大田川龍一がゴミ袋を受け取ります。
「ちゃんと後片づけまでが、航海だよね」
「そうだな」
 分別し終えたゴミを両手に持ったソフィア・グロリアと岡島伸宏が言い合いました。
 
    ★    ★    ★
 
「せっかくのお正月だって言うのに、ごめんなさい……」
 別途の中で真っ赤な顔をしながら守凪 那月(かみなぎ・なつき)守凪 夕緋(かみなぎ・ゆうひ)に言いました。
「なあに、どうせ外に出たって寒いだけだ。初詣だって、面倒くさいだけだしな」
「ああ、初詣もできなくなっちゃって……。ごめ、げほげほ、ごめん、げほ、なさい……」
 謝ろうとしつつも、無理にしゃべると咳が出てしまいます。
「だから、謝らなくったっていいって。初詣なんて、小正月までに行きゃいいんだろう。いや、七草までだったかな? まあ、どっちでもいいや。そのくらい、いつ行ったって変わりゃあしないってこった」
 そう言って、守凪那月が肩をすくめました。
 ものぐさそうに言ってはいますが、実際はそんな行事よりも妹の方が万倍も大切です。ただ、それをはっきりと表に出すのは少し恥ずかしいだけなのでした。
「とりあえず、ちゃんと食べて薬を飲まなきゃな」
 作ったばかりのお粥を持ってきて、守凪那月が言いました。
「どれ、起きられるか?」
 そう言うと、守凪那月が、守凪夕緋の背中に手を回してだきかかえると、その上半身を起こしました。だきすくめられて、ちょっとドキドキしながらも、守凪夕緋が守凪那月の身体につかまってなんとか上半身を布団の上に起こします。
「身体が冷えないように、これを羽織れ」
 半纏を持ってくると、守凪那月が守凪夕緋に袖を通させます。
「まだ熱いから、注意して食べるんだぞ」
 木のスプーンにすくったお粥をフーフーしてやってから、守凪那月がそれを守凪那月の口許へと運んでやりました。ぱくりと、守凪夕緋がそれを頬ばります。
「なんだか、昔に戻ったみたい」
 強化人間になる前の、まだ病弱だったころのことを思い出して守凪那月が言いました。
「もう、戻ったりはしないさ……。これはただの風邪だ。だから、早く治せよ」
「うん」
 守凪那月の言葉に、守凪夕緋はしっかりとうなずきました。
「食べられそうか?」
「うん。美味しい」
「そうか、ほら」
 守凪那月が、再びフーフーしてから、匙を差し出します。
「それじゃだめ」
「なんでダメなんだよ」
「昔みたいに、あーんしてって言って……」
 ちょっとはにかみながら、守凪夕緋が甘えた声を出します。
「仕方ないなあ。ほら、あーんして」
「あーん」
 ちゃんとしてくれる兄に甘えながら、守凪夕緋はお粥を食べていきました。無事に、全部食べきります。
「よし、いい子だ。後は一眠りするんだぞ」
「はーい。後で、また様子見に来てね。お願い」
 布団の中に戻りながら、守凪夕緋が言いました。
「ああ、ちゃんと寝ていたらな。お休み」
「おやすみなさーい」
 風邪に負けないで、言い初夢を見るんだと守凪夕緋は思いました。できれば、兄妹一緒の初夢希望です。