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【第三話】始動! 迅竜

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【第三話】始動! 迅竜

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 同日 某所 エッシェンバッハ派 秘密格納庫
 
「シャンバラ上層部きれいなだけでは政治は出来ないでござるが、『偽りの大敵事件』とは誰の利権を守るためだったのでござろうか」
 秘密格納庫内の組み立てスペースに一人立ちスベシア・エリシクス(すべしあ・えりしくす)が呟くと、そこに丁度スミスが入ってくる。
「お待たせ致しました、スベシアさん。お話は彩羽さんから伺っていますよ」
「うむ。それがしも彩羽殿専用機建造のお手伝いをするでござる」
 するとスミスは微笑し、深く頷いて見せる。
「おお。これは心強い。是非、よろしくお願い致します」
 そう言うと、スミスはスベシアに向けて深々と低頭する。
 やがて顔を上げると、スミスはコンソールの前に立った。
 かなりの速度でコンソール上に指を走らせていくスミス。
 ほどなくしてデータ入力を終えると、周囲に設置されていたロボットアームが一斉に動き出した。
 ロボットアームは淀みなく動き、次々に部品を組み立てていく。
 効率良く動くロボットアームのおかげで、彩羽専用機の建造はスムーズに進んでいった。
「スミス殿、よろしいでござろうか?」
 問いかけられたスミスはロボットアームを一時停止すると、スベシアを振り返る。
「何でございましょう?」
 振り返ったスミスに向けて、スベシアはマスティマの設計図を差し出した。
「これも彩羽殿が依頼して設計されたワンオフ機でござる。スミス殿の機体ほどではござらんが、これも中々の高性能機。どうにかして、このマスティマの技術を組み込めないでござらんか?」
 するとスミスは顎に手を当てて考え始める。
「なるほど。その設計図、拝見してもよろしいでしょうか?」
 スベシアから設計図を受け取ると、スミスは再び考え込んだ。
「確かに、これはかなりの高性能機ですね。ならば早速、この技術も組み込みましょう」
 設計図に一通り目を通すと、スミスはコンソールを叩き、先程入力したデータに修正を加えていく。
 それが終わると、ロボットアームは再び動きだした。
 その後も快調に進む彩羽専用機の建造。
 やがて工程はコクピットブロックの取り付けに入る。
「彩羽さんがあなたと乗ることを考え、この機体は従来機と同様に複座にしてあります」
 ロボットアームによって複座式のコクピットが取り付けられるのを見ていたスベシアは、ふと他の機体は単座であることを思い出し、それから一つの推測に至る。
 ちょうどその時、コクピットの取り付けを終えたロボットアームは謎のパーツを組み込んでいる所だった。
「なあ、スミス殿。もしかして……で、ござるが――」
 振り返ったスミスにスベシアは問いかける。
「――この機体に限らず、スミス殿が開発したエッシェンバッハ派の機体にはすべて『人の意思か魂が封入?』されているのでござるか?」
 しかしスミスは苦笑を返すだけだ。
「これはこれはご冗談を。ちなみに、どうしてそのようなことをお考えに?」
 するとスベシアもそれ以上深入りすることはせず、流すだけだ。
「いやなに、イコンとは地球とパラミタの者が二人一組で動かすもの。しかし、エッシェンバッハ派の機体はすべて単座ゆえ、もしかすると機体自体に人の魂が封入されているのでは、と思ったのでござるよ。戯言を失礼つかまつった」
 二人が話していると、組み立てスペースのドアが開く。
 振り返った二人の前で、ドアから入ってきたのは夜愚 素十素(よぐ・そとうす)だ。
「迅竜へダミーのハッキングを仕掛けといたよぉ〜」
 眠そうな声で素十素は語り始めた。
「過去の戦闘のデータ移行や搭載イコンとの情報リンク立上など、システムがごちゃごちゃしている内に、セキュリティの甘い回線経由で、ハッキングプログラムを送り込んだよぉ〜。でも、すぐにブロックされちゃった。向こうにも腕の良いハッカーがいるみたいなのぉ〜」
 だが、素十素には焦った様子はない。
「別に成果を期待しているわけじゃなかったからぁ〜。ただ、ハッキング手口とかで彩羽が犯人扱いのみたいだから、それなりの技術者の手口を真似たボットプログラムを作って送り込んでおいたよぉ〜」
 素十素の声は更に眠そうなものになっていくが、語り自体には些かの遅滞も無い。
「盗んだ情報自体の転送先も、有名どころにしての偽装にしたし、また情報自体もダミーの可能性が高いから全部破棄しといたよぉ〜」
 一通り語り終えると、素十素はスミスに向き直った。
「最近、いいマクラがないんだもん。スミス、エッシェンバッハ製でいいのないのぉ〜?」
 するとスミスは微笑を浮かべて頷いた。
「お任せください。我が主の企業――エッシェンバッハ・インダストリーはかつて日本の評論家に『割り箸から宇宙ステーションまで』と称されたほどに幅広い分野の品を製造しております。すぐに最高級の枕を手配いたしますよ」