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暴走せよ! 房姫&ハイナの仮装バトルロワイヤル

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暴走せよ! 房姫&ハイナの仮装バトルロワイヤル

リアクション


其の四


 第四の関門――。
 ここまで生き残った参加者たちの前に、厚く積雪した真白い光景が広がった。
 雪が光を反射して、キラキラとまぶしい。

「この雪のなかから小判を探し出すでありんす! ハズレ小判は無数、アタリ小判はたった1枚
でありんす! アタリを持った者のみが、ゴールを許されるでありんす!!」

「ナルホド、なかなか骨が折れるな。が、しかし! 我がオリュンポスの人海戦術の前に不可能
なことなどはないッ!」
 『悪の天才科学者の仮装』として登録されたドクター・ハデスが手を勢いよく払う。
「さあ、我がオリュンポスの戦闘員たちよ! 小判を探し出すのだ!」
 どこからともなく戦闘員たちがワラワラと現れた。【優れた指揮官】と【トレジャーセンス】
で次々に指揮を与えていく。
 その戦闘員たちが、急にパタパタと倒れ始めた。何者かの【ブラインドナイブス】を受けたの
である。
「雪の中に敵が潜んでいるぞ! 総員、気を引き締めてあたれ!」
 ドクター・ハデスの檄が飛ぶ。

「あ、あれっ。も、もしかして隠れてるのばれちゃったんですかね、ひいっ、ヤだ、怖いいいい
……! 黒実殿助けてください!」
「数が多いどす。こらいったん引いたほうがよさげどすなぁ」
 雪の中から姿を出したのは、おじゃま係の2人。雪女の仮装をした伊達 黒実(だて・くろざね)
と、雪んこの上月 鬼丸(こうづき・おにまる)だ。
 戦闘員たちが襲ってくるのを、
「ひいいっ、追いかけてこないでくださあい……!」
 と、鬼丸は【トラッパー】で落とし穴を作りながら逃走する。

「ふ、ふう。うまく逃げ切れたようですね。な、なんかもうずっとこうやってひっそり平穏に隠
れていたいんですが……」
「あ、ティファニーはんとゲイルはんどすよ」
 あちらでは、かの2人が戦闘員たちを相手に大立ち回り。睡眠不足のせいか、凶暴化している
のがよくわかる、容赦ナシの戦いっぷりだ。
 ゲイルといえば、鬼丸が心の底から尊敬している忍びである。
「う、うわっゲイル殿、怖い! でも、普段みないお姿から学べることがあるかも……、だが怖
い! ゲイル殿、あんな戦い方もされるのですね、って怖いいいいいやああああ……!」
「なんや、普段見られないティファニーはんとゲイルはんの姿、面白いどすなあ。わてらも寄せ
てもらいましょ」
 黒実と怯えきった鬼丸が2人に加勢する。
「よく来てくれたネ。さあっ、ブラッディカーニバルの開幕デース!」
「血祭り、という意味ですな」
 殺気立つ2人を、鬼丸は【隠れ身】で逃げ回りながら【ブラインドナイブス】で補佐した。彼
らの攻撃範囲外の敵を、黒実の【シャープシューター】による正確な一撃が狙う。――


     ×   ×   ×


「はあ、またハズレだぜ」
 朝霧垂がボヤく。【トレジャーセンス】を使っても、アタリ小判探しは難航を極めた。
 なにしろ、ハズレとはいえ本物の小判である。小判に『アタリ』と『ハズレ』が油性マジック
で書き付けられているだけ。【トレジャーセンス】にはアタリもハズレもおなじように反応して
しまうようだ。
「ハイナのやつ、一応対策してきてるみたいだな。ここらにはもうなさそうだぜ」
 垂はゴクっと酒を飲み、【妖精の領土】を発動させると軽い足取りでここを後にした。


「うう、手がかじかみます」
 両手を合わせて、はあーっと呼気で温める。一雫 悲哀(ひとしずく・ひあい)の仮装はこの雪原に似
合わず、とっても南国チックだ。
 花柄の刺繍が愛らしい水色の着物と花笠という琉装。着物はウシンチーという帯を締めない着
方をしているので、なんとも風通しがよすぎるが、そこは流行の吸湿発熱繊維のタートルネック
&レギンスでバッチリ対策してある。
「これだけ広い場所ですと闇雲に探していても見つからないですね……。かといって雪を溶かし
てしまうと、他の方の目を欺けませんし。難しいところです」
「悲哀ー♪ みてみて、罠をつくったよ!」
 と、すぐそばから声がした。一見誰もいないようだが、よくみれば何かが動いている。全身に
綿を付けて『雲』の仮装をしたカン陀多 酸塊(かんだた・すぐり)だ。
 白い雪に溶け込んで見事に擬態している。
 彼はおじゃま役に見つかりづらいのを活かして、アチラコチラに罠を設置したようだ。
 雪の上に敷いたベニヤ板の下に空洞を掘って、上に雪を被せてある。
「ぐはっ」
 通りがかりの誰かが向こうの罠にかかった。ベニヤを踏むと、雪が顔に飛んでくる仕掛けだ。
「わあい! やったよ、悲哀♪」
「ふふっ」
 大喜びではしゃぐ酸塊に、悲哀もまた、つられ笑いをした。


「つ、冷てぇ……。誰だよ、こんなもん作ったのは」
 柊恭也は文句をいいながら顔の雪を払い落とした。
 気を取り直して、【ディメイションサイト】で小判の気配を探る。
「うし、あるなあるな。次こそ、当たってくれよ」
 【パイロキネシス】であたりの雪をとかす。炎にふれた部分から、水蒸気がモウモウと立ち昇
った。
 その煙が晴れて――。
「あ、あったああああ!」
 地には幾枚かの小判が転がっているが、その中の1枚に書かれてある、『アタリ』の文字。
 恭也はそれを急いで拾い上げると、
「よしっ、一気にゴールだ!」
 背中のマルチスラスターを起動する。地から足が浮いた瞬間、
「ぶはあっ」
 恭也は、前のめりに突っ伏してしまった。
「すみませんが、その小判、こちらで頂戴いたします!」
 悲哀のミルキーウェイリボンが恭也の足に巻きついている。
「くっそ、……あっ」
 一発の銃声がして、手元の小判を弾かれた。――酸塊の狂科学者の銃が小判を撃ち抜いたのだ

「アタリ小判はボクたちが貰うね♪」
 目をピコピコ光らせながら、酸塊が落ちた小判を拾い上げた。
「じょ、冗談じゃねえぞオイ! せっかく見つけたもんを渡せるか!」
 慌ててリボンを解いて、恭也が二連射突型ブレード【打鉄】を酸塊に叩き込む。
「安心しろ、この一撃は峰打ちだ。……杭に峰があるかは知らんが。こいつは返して貰うぜ」
「うわああん、ひどいよぉ〜」
「くっ。それ以上先へは、進ませませんよっ」

 この騒ぎに、みんなが一斉に注目した。

「あっ、セレアナ、あっち!」
「賑やかにやってるじゃないの」
 セレンフィリティとセレアナ。
「その小判、自分がいただくでありますっ」
 吹雪とイングラハム・カニンガム。
「かかれー! オリュンポスの勝利の為にも、命を賭してアレを奪うのだ!!」
「夢は寝てから見てな! 小判は俺のもんだっ」
 ドクター・ハデスと朝霧垂。

 生き残りたちが次々に駆けつける。
 様相は大混戦。
 1枚の小判をめぐる激しい奪い合いが幕をあげた――。


     ×   ×   ×


「セレン、ここは私に任せて!」
 セレアナは【インビジブル】で防御力を底上げし、【プロボーグ】で敵の注意を自分に引き付
けた。その隙に、セレンフィリティが小判を奪う。
「あっれー? 小判はどこかなあ??」
 なんて白々しい演技をして小判を背後に隠しながら、こっそーりその場を後にする。

「バレバレであります」
「えっ」
 振り向けば、笑顔の吹雪がバット片手に立っている。ホラー顔負けの光景に、セレンの顔から
血の気が引いた。

「勝った方が正義であります……、むっ!?」
 返り血のようなもので顔を赤く染めて笑うスプラッターな吹雪の体が、ふいに動かなくなった

「し、しびれるであります……っ」
 かたまる指先からポロリと小判が落ちる。それを拾い上げたのはシオン・グラートだ。
「悪いね。でも、今年こそ影が薄いと言われないためにも、この小判は俺の物にしなくちゃなら
ないんだ」
 切実なことを言いながら立ち去ろうというシオンにオリュンポスの戦闘員たちがワラワラとし
がみ付く。
「うわあ」
 転ぶのを踏みつけにし、小判を持って一目散に走り出したのは垂である。
「へっへーん、こいつぁいただくぜ!」
【妖精の領土】でみるみる遠ざかってゆく。
「あっ、ひとり抜けたぞ!」
「追えー!!」
 みんな必死の顔をして、それを追うのだった。


     ×   ×   ×


「まったく、総奉公殿には困ったものだ……」
 龍滅鬼 廉(りゅうめき・れん)の口調はいささか荒れていた。それも当然。寝ていないのと、修行
の時間を潰されたのとで、鬱憤は相当にふくらんでいる。
「この機会に、修行を兼ねて憂さ晴らしといくか」
 抜刀し静かに構えた。
「ええ、手加減は無用ですね」
「あたい、もう眠くて限界! さっさと終わらせましょ!」
 吉村 慶司(よしむら・けいし)リント・ヴィーブル(りんと・う゛ぃーぶる)も迎撃の心構えをする。
「来たな」
 向こう側に雪けむりがあがっている。激闘を繰り広げながら、参加者たちがこちらに走ってく
るのだ。
「では、まずは私から行きましょう。――問答無用だ!」
 慶司の言葉づかいがガラっと変わった。丁寧なのが荒くなり、目つきも鋭く、小判を持つ垂を
遠くに睨み付ける。シングルアクションアーミーで垂の足元を狙った。
「俺の銃口から逃げられると思うなよ!」
「な、なんだあ!?」
 足止めの一撃に、垂の体勢が崩れた。
「よくやった! 慶司、リント、援護は任せたぞ!」
 白刃を翻して廉が駆け出した。ダダダと一気に距離を詰め、【疾風突き】を繰り出した。ひる
んだところ、長い足から蹴りを繰り出す。堪らず垂が小判を放った。
 小判に群がる参加者たちを、リントの尻尾が鞭のように薙ぎ払った。リントには慶司が乗って
、移動砲台のように射撃して参加者を牽制する。
 リントは口から炎や雷を吐き出して、まるで地獄絵図さながらの有様だが、参加者の方だって
負けていられない。
 おのおの持てる限りの力を惜しみなく出し切って、ライバルを出し抜こうと……。

「ふ、ふう……」
 大混戦から、ひとり抜け出した男がいた。
 その手にはアタリ小判が大事そうに握られている。

「手に入れたはいいけど、守りきらなきゃなんだよな」
 あの殺気立つ猛者たちの総攻撃を食らうことを思えば、ちょっと背筋が凍るような気分だが、
「……あれ?」
 彼らは戦闘を続けるばかりで、こちらには気がついていないようである。
「ま、まさか……」
 とっても嫌な予感がする。

 彼の名は、シオン・グラート。『影が薄い』ことに関しては誰にも負けない、そんな男――。

「影が薄くて気が付かれていない、なんてことは……。ないよな、うん、ないない。朧の衣のせ
いだよね、うん。っていいのか、おい。みなさーん、くぐりますよ、ゴール……」
 とっても複雑な気分のまま、易々とゴールしてしまったシオンなのだった……。

■優勝■ シオン・グラート