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第3章 暴走の予感しかしない

「いらんかねー。レア物じゃよー」
「ええいそんなテンションで物が売れるか! さあさあとくと見よ、今を時めく悪の清純派アイドルグッズの数々! ここでしか買えないフィギュアやひみつの写真集だ!」
「フィギュア……」
「まさかあの写真集が再び!?」
「ククク、フィギュアは手作りの一点もの、写真集は再録なし、全て新ショットだ!」
「おぉおおおお!!」
 多数のファンに囲まれながら、ドクター・ハデス(どくたー・はです)奇稲田 神奈(くしなだ・かんな)はスタジオ前でグッズショップを広げていた。
 扱っているのは全て、ハデスが悪の清純派アイドルとして売出し中の高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)のグッズ。
 身内だからやりたい放題もとい秘密結社オリュンポスのための宣伝と資金集めなのだ。
 傍らではハデスの 発明品(はですの・はつめいひん)が警備のために周囲に目を光らせている。
 しかし、邪魔は思いもかけない所からやって来た。
「兄さんを神奈さんと二人っきりにはさせません! 兄さんにはずっと私と一緒にいてもらいます!」
 嫉妬という煩悩に取りつかれた咲耶が、自身のフィギュアや写真を押しのけハデスらの前に立つ。
「はぁあっ!」
 回避不可能な咲耶の手刀がハデスに襲い掛かる。
 がきっ。
 それを受け止めたのは、ハデスの首でもハデス当人でもなかった。
 神奈の刀の鞘。それが咲耶の手刀が重なり合う。
「一体どうしたのじゃ、咲耶よ!」
「邪魔、するんですか……」
 ハデスを中心に、二人の間に火花が散る。
 当のハデスは。
「むむむ、カモが逃げるではないか! 貴様らそれでもファンか! ファンならば火中に飛び込んででもアイテムを購入するのだ!」
 女の戦いを意に介せず荒稼ぎ中だった。
「容赦、しませんよ」
「どうやら何かに憑かれているようじゃな。ならば……っ!」
「ぷろぐらむニ原因不明ノえらーヲ検知。たーげっとヲ設定シマシタ」
 咲耶と神奈の間に割り込む2本の手。
 いやそれはもっと細い……
「えっ」
「な、なんじゃ!?」
「暴走ヲ、開始シマス」
「きゃーっ!?」×2
 ハデスの発明品がいつものように暴走を起こし、その機械の触手を二人に絡ませてきたのだ。
「ちょ、邪魔しないで……ひぁあっ!?」
「くっ、何を……はぅっ!」
 悶える二人を触手で抱え上げたまま、発明品は暴走する。

   ◇◇◇

 その小さな胸に、ネージュはある煩悩を秘めていた。
 したい。
 立って。
 あのつるりとした曲線を描く白く輝く壁に駆けられた陶器製のあそこで……
 そう、男子用お手洗いで、してみたい!
 何をってそれははっきり言葉にせずとも察してください。
「女の子だったら、一度は考えてみたことがあるはずよね。お兄ちゃんみたいに、弟みたいに、幼馴染みたいに……」
 煩悩が、唇を割り歌となって流れ出る。
 それを聞いた観客たちは、一斉に走り出した。
「あぁあ私もう我慢できないっ!」
「ここでは? ここでやっちゃダメなのぉ?」
「馬鹿ね、あの場所でないといけないの……っ!」
 トイレを。
 男子トイレを目指して。
 そこにもう一つの歌が被さる。
「くくくくく、くりきんとーん!」
 雪乃が歌うくりきんとんの歌は、ネージュの小さな歌声を圧倒する。
 彼女は、はじめはアイドルの歌を聞いて同調しているだけだった。
 しかし、いつの間にか彼女の燃えるくりきんとん欲求は彼女自身を煩悩の塊へと変化させてしまったのだ。
「もうじきやってくるおせち料理。そう、この時期にしかめったに食べられない貴重なお料理」
 雪乃は歌う。
 技術も経験もない。あるのはただくりきんとんへの愛。
「お高い感じがするけども、一度だけ、一度でいいからお腹いっぱい食べてみたい……くくくくく、」
「くりきんとーん!」×全員
 トイレを探していた群衆の足は止まり、くりきんとんを探し始める。
「くりきんとんはどこだー!」
「あああ食べたくて仕方ないっ!」
「くりきんとん、ない? おせちは何処!?」
 そんな少女たちの元に、細長い何かが延びてきた。
「はうっ!」
「えっ!?」
 それは、エースが操る蔦だった。
 煩悩に操られたネージュと雪乃たちの動きと歌を封じるため、エースの蔦が彼女たちの身体を、口を拘束する。
「にゅ、うぅ……」
「ぅんっ……」
 口に蔦を噛まされたことで歌が止まり、観客たちは次第に我を取り戻していく。
「よし、これで、後はメシエに任せれば……ん?」
「あれ」
 先程の混乱からやっと抜け出してきたエースの肩を、メシエが叩く。
 そして指差すある方向。
「何だかきみのやってる事、あれと変わらないね」
 その方向にあったものは。
「あぁっ……なに、これ、絡みついて離れない……っ、けど、だるいしこのままでいっかぁ」
「やぁんっ! セレアナも一緒なのに、あたし以外のモノに抵抗しないセレアナなんて嫌ーっ!」
「やっ、マスター、アリッサちゃん、何です、これは……」
「はぁあ、丁度良かったですぅ。このままおねーさまと縛られて二人っきりの世界に……」
 ハデスの発明品によって絡まれあれこれ攻められているセレンフィリティとセレアナ、そして魔鎧のアリッサ・ブランド(ありっさ・ぶらんど)を纏ったフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)だった。
「あ……あれと、同じ…… いやこれはそんな意図があったわけではなく……っ!」
 新たな精神攻撃を受け、エースは再び蔦を取り落した。
 そしてその一部始終を手持ちのカメラで撮影しているのは、睦月だった。

「ここは、真っ向勝負であります!」
「あぁあ……」
 混乱するエースの横を通り抜けたのは、剛太郎。
 そのまま真っ直ぐネージュに向かう。
 右手を高く掲げ、斜め45度に振り下ろす。
「下ネタかっ!」
 ゴーン!
 ネージュの後頭部に当たったツッコみは、見事な音を響かせた。
「次はあたしよ!」
 望美が両手を広げ、雪乃に近づいていく。
 そのまま、ハグ。
 ぎゅうっと音がしそうなほどの勢いで、望美の大きな胸が雪乃を包み込む。
 ゴーン!
 ぎゅっという音こそしなかったものの、その代わりに低音が鳴り響いた。
「よし、成功であります!」
「うふふ、役得役得ぅ!」
「うぅ、お嬢さんたちを助けるはずが……」
 落ち込むエースを横目に、剛太郎たちは次第に調子づいていく。
 お弁当を貪るアイドルのほっぺに、つん。
 ゴーン!
 壁から半身を乗り出して悔しがるアイドルのお尻を、ぽん。
 ゴーン!
 そして今にもぽろりと零れそうなアイドルのお胸を……
「たぁあああーっ!」
 みしり。
 遠野 歌菜(とおの・かな)のチョップが剛太郎の頭に炸裂した。
「あ、ごめんなさい間違えちゃった」
 何も音がしないことに気付いた歌菜が意識が飛んだ剛太郎に平謝りする。
「いえ、全く持って正しい措置ですわ」
 恐縮する歌菜に、ソフィアが冷静に告げた。
「そ、そうなの? よーし、気を取り直してみんなにチョップよ……って、あら?」
 気合を入れた歌菜は、その姿のまま何者かに抱え上げられた。
「あ、あれ、羽純くん?」
 歌菜の夫、月崎 羽純(つきざき・はすみ)が彼女をお姫様抱っこしていた。
「は、はわわわわ、羽純くんっ! どうしたの、何?」
「歌菜は、俺だけを見てろ。他に構うな、ただ俺の側にいろ」
「―――――え?」
 突然の言葉に、返す言葉も思考も失う歌菜。
 あ、これは……嫉妬だ。
 煩悩の影響で、羽純くんは嫉妬してるんだ。
 理解はした。
 だけど、それと感情は別物で。
(どどどどどどうしよう……う、嬉しい!)
 羽純くんの燃えるような視線。
 熱い言葉。
 そんな瞳で見られるだけで、こんなにもキュンキュンしちゃうなんてっ!
「えっとね……私、羽純くんの傍にいるね」
「それに何だ、この短いスカートは」
「ご、ごめんね! これはアイドルの衣装で」
「俺以外の奴に、そんな姿を見せるな」
「は、はわわわわ……」
 そのまま人気の少ない場所へ歌菜を引きずり込もうとする羽純を見て、歌菜はやっと心を決める。
「は、羽純くん……ごめんねっ!」
 歌菜のチョップが炸裂する。
 ゴーン!

 ……後に、正気に戻った羽純は恥ずかしさのあまり立ち直るのに多少の時間を要したという。