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【琥珀の眠り姫】密林深く、蔦は知る。聖杯の謎

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【琥珀の眠り姫】密林深く、蔦は知る。聖杯の謎

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 浮かんできた映像の場所は、薄汚い店だ。
 棚には髑髏や黒い水晶のように魔術に関連するようなものが置かれ、天井からはねじ曲がった植物の枝が吊り下がっている。
『あんた、ここいらの義賊を大層憎んでいるそうだね』
 そこの店主なのか、老商人風の男が話しかけているのは、あの女首領だ。
『ならば、ちょうどいい。この呪われた杯にまつわる面白い話をしてやろうか』
『薄汚いこの杯か?』
『まあ、この杯はレプリカだがね、本物の杯は呪いの杯さ。あんた、琥珀の眠り姫の伝説は知っているだろう?
 その眠り姫の呪いを解くと言われている杯だ』
『眉唾物だな』
 首領は、胡散臭そうに店主を見やる。
『いいや、一獲千金を狙うチャンスさ。まあ、昔話を聞いてくれ。
 かつて、不老不死の秘宝を持たせた令嬢に禁呪を施したとある領主がいた。
 その領主は、今現在義賊として活動しているロスヴァイセ家と交流があったらしい』
『ロスヴァイセ……』
『数千年生きたと自称する吸血鬼が、死ぬ寸前に話しておきたいと語ったとかなんとか。とある筋から聞き継いだ話だがね。
 ま、不老不死にはなれなくとも、あんたの嫌いな義賊の弱みか何か、掴めるかもしれないって話さ』
 老人は杯をランプの光にかざす。その杯に首領は手をかける。
『ふん……あたいについてきてくれる奴らを養うためにも、その話信じるぜ。少額でも財宝があるかもしれねえしな』
『そうかい。なら、あんたに呪いを解く方法も伝えておこう』
 店主は、そう言って低い声を出した。
「三つの杯を聖なる血で満たした時、呪いの楔は解け、その者は目覚める」
 領主は、その言葉を聞いてにやりと笑った。
『血を満たせば、いいんだな?』
『さあ、詳しい事は分からん』
『ありがとよ。この杯はもらっていくぜ。本物の聖杯が見つかったら、フェイクにでも使わせてもらう』
 不敵な笑みを浮かべて、女首領は杯のレプリカを受け取ったのだった。

◆ ◆ ◆


「なるほど……女首領を焚きつけたのは、胡散臭え老店主ってことか」
 見えた映像についての話を聞き終えると、キロスはそう呟いた。
「ひっそりとそんな噂が聞き継がれていたんですね……」
「それにしても、聖なる血で満たせ……か……」
 キロスは唸って、考え込んだ。
「もしかしたら、別の解呪方法があるかもしれません。それに、噂なのですから、間違っているかもしれないんですよ」
「……そうだよな」
 キロスの心中を察したように、ユーフォリアが声を掛ける。
 それに励まされるように、キロスは先ほど見付けたプレートを再度手に取った。
「ん? 裏に、何か書かれてるみたいだな」
 キロスがひっくり返したプレートをユーフォリアが覗き込み、その文面を読み上げた。

『私は戦いから戻った。しかし、私にはもう何も残ってはいない。
 戦いの最中で、私は恋人を失った。そして、自らの手で妹を失わせた。
 古王国の崩壊で、私の持っていた領地の大半もなくなってしまった。
 唯一私に残ったのは、君が残してくれた私たちの子供だけだ。
 私は生涯をかけて、この子を、そしてまたその子供を、育ててゆく。
 いつか君が、ロスヴァイセ家に戻ってくることを願いながらーー』

「ロレンスが、フリューネに連なる現在のロスヴァイセ家を立ち上げた人……。じゃあ、この『君』ってのは……」
「私の、ようですね」
 キロスや、調査隊の皆の視線を受けて、ユーフォリアは静かに口を開いた。

「ロレンスは……私の恋人でした」
 その言葉を皮切りに、ユーフォリアは覚えていることや思い出したことをぽつぽつと話し始めた。
 ユーフォリアとロレンス――シャンバラ女王の影武者と一領主の恋は、決して周囲から祝福されるものではなかった。
 公には行動ができなかったが、この鍛練所で二人はこっそりと会うこともあったのだという。
「だから、ここの扉の開け方を知っていたのか」
「あの裏口から、よく遊びにきていたんです」
 キロスの独り言に、ユーフォリアは話を中断して答える。
「……続けてくれ」
「はい。……ええと、今どこまで話しましたか?」
 結婚こそできなかったが、ロレンスとユーフォリアとの間には子供が生まれていた。
 ユーフォリアはシャンバラ女王アムリアナの影武者として鏖殺寺院との戦いに参加し、ロレンスもシャンバラ女王に仕える一領主として鏖殺寺院と戦った。
 そして、二人はそれきり、二度と会うことはなかった。
「ずっと、忘れてしまっていましたけれど、確かに、ロレンスにはヴァレリアという妹がいました。
 私とロレンスは戦わざるを得ない環境にありましたが、ヴァレリアはそうではなかった。
 ロレンスはヴァレリアだけ逃がそうと、禁呪を施したのでしょう……」
 ユーフォリアが口を閉ざす。その表情は、遠くにある何かを――五千年の時を越えた何かを思い起こそうとしているようだった。
「そしてロレンスは、きっと私が帰ってくれば分かるように、あの銀のプレートにメッセージを残したのですね。
 けれど、私は石となり、帰ってくる事ができなかったんですね……」
「帰ってきたじゃねえか」
 キロスは真剣な眼差しでユーフォリアを見つめた。
「ロレンスが立ち上げたロスヴァイセ家に。五千年という時は経たとしても、帰ってきたんだろ」
「……ええ、そうですね」
「だからこそ、眠り姫様を起こしてやろうぜ」
 キロスは、天井にぽかりと開いた巨大な穴から空を見上げる。
「五千年かかりはしたが、ロレンスの願いを叶えてやらないとな。ロレンスは他でもないユーフォリアに、ヴァレリアを託そうとしているんだからな」
 キロスは再度、琥珀の眠り姫を……ヴァレリア・ヴァルトラウテを目覚めさせる決意を固める。
 崩れた鍛錬所に集まった一行とユーフォリア、そして辺りに蔓延る蔦は、その心の内を読み取っていた。


担当マスターより

▼担当マスター

八子 棗

▼マスターコメント

 初めましての方は初めまして。そしてこんにちは、八子 棗です。
 今月は何だか寒すぎる気がしますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。そろそろ春になってほしいものです。

 というわけで今回は【琥珀の眠り姫】の2回目のシナリオでした。戦闘がメインの回となりましたが、いかがでしたでしょうか。

 この【琥珀の眠り姫】に関するシナリオも、次回が最終回となる予定です。あくまでも、予定です。
 ヴァレリアは目覚める時が来るのか、盗まれた聖杯の行方は、不老不死の秘薬についても空賊から守りきる必要性が……と、まだまだやることは盛りだくさんです。
 どのような結末を迎えるのかは、皆さんのアクションに掛かっています。

 それでは、【琥珀の眠り姫】最終回や、他のシナリオでお会いする機会を楽しみにしております。