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新米冒険者のちょっと多忙な日々

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■第四幕:機晶姫と新米冒険者

 大きな荷車がある。
 多くの荷が積まれており、布を上から被せていた。
 中に何があるのかは定かではない。
「今日はヨロシクお願いします」
 荷物運びの依頼主、機晶姫がゆったりとした動作で頭を下げた。
「依頼を受けた東雲優里です」
「同じく風里よ」
 東雲姉弟が挨拶をした。
 彼らの後ろ、同じように依頼を受けた仲間たちが各々挨拶を交わす。
「それにしてもあなたたちがこんな仕事受けるとは思わなかったわ」
「うん。それは僕も思った」
 二人はエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)に話しかけた。
「……ん、俺みたいな中堅コントラクターがこういう依頼受けるのは意外か?
 これでも金欠病持ちなんだよ……相方、実は合体可能なんだが、それ故に装甲が特殊でな。ほぼ特注品だったりするんだよな……」
「中堅……ねえ?」
 風里は疑わしそうにエヴァルトを見やる。
「……あ、エヴァルトはね、『自称』中堅だから。前の訓練のとき、肌で実力を感じたから分かると思うけど、実際ベテラン近いし。けどね、どんな時でも『自分はまだまだ弱い』って思うことは大事だよ」
「言われなくても毎日の訓練で痛感してますよ」
 優里の言葉にロートラウトは笑った。
 微笑ましい、とそう感じさせるやり取りだ。
「交流を深めるのも良いけど、やるべきことはやるわよ」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が東雲姉弟の前に地図をもって現れた。そこには現在地から目的地である街までの経路が書かれている。
「護衛なんかの依頼で重要なのは安全を確保することよ。他の依頼ならそれに応じた事前準備が必要になるわ。情報収集に関しては運ぶ荷物や依頼主の素性も調べないと、自分の身が危うくなる可能性もあるのよ――」
 と、そこまで話して機晶姫を見やる。
 釣られるように二人も依頼主を見た。
「彼女は知らない仲ではないし……今回は気にしなくてもいいわね」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が言った。
 うんうん、とセレンフィリティが頷く。

                                   ■

「義肢を運んでいる機晶姫と聞いてクウではないか、というオレの予想は正しかったな」
「ナイス推理ですね。グッジョブでしょうか、それともハラショー?」
「どっちでもいい」
 玖純 飛都(くすみ・ひさと)は苦笑した。
「これは久瀬の義肢か?」
「うん。タノマレタ。依頼料も実は久瀬持ち。ついでに試作品もアル」
「……財布の中身が飛んでそうだ」
「無駄遣いデキナイとか言ってた」
 くすくす、と依頼主の機晶姫クウが笑う。
「なにはともあれキョウはよろしく」
「ああ、優里たちと一緒に頑張らせてもらおう」
 玖純は言うとクウから離れて東雲たちの元へ向かう。
 セレンフィリティたちから話を聞いていた優里の様子を見た。
「――でも捕まったんですよね?」
「そうねえ……」
 セレンフィリティが玖純に視線を向けた。
 促されるように玖純が口を開く。
「終わったことだと考えてると足元をすくわれるぞ。終わった事でも繋がった事件や類似の事件はいくらでも起こりうるものだ。囚われる事と忘れない事とは違う」
「つまり事前に安全が確かめられても実際に通るときは気をつけろってことね」
 風里の言葉に玖純が頷いた。
 というわけで、とセレンフィリティが話をつなげる。
「襲撃する側の立場で考えるのよ。あなたならこのルートのどこで襲撃を仕掛けるか、あるいは盲点を突くならどこを選ぶか? 判断を間違えたら……その時は最悪、死ぬだけよ」
「私なら――」
「僕は――」 
 しばらく話し合いが続いた。