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されど略奪者は罪を重ねる

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されど略奪者は罪を重ねる

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 廃ビル。四階への階段。
 踊り場についたティーは足を止め、振り返り首をかしげた。
 彼女の前を行く小暮はその行動を不思議に思い、問いかける。

「どうしたんだ、ティー殿」
「今、イコナちゃんに呼ばれた気が……?」
「それはないだろう。彼女は多目的ホールで立派に戦ってくれているんだ。ここまで声が届くわけがないよ」
「……そうですよね」

 ティーは前を向きなおし、小暮に微笑みかけた。

「足を止めてしまってごめんなさい。シエロさんのもとへ急ぎましょう」
「ああ。早くシエロ殿のもとへ行かないと」

 二人は踊り場を越え、四階にのぼるために階段へ足をかけた。

「厄介事そうだけどよ。ま、相手してもらうぜ」

 階段の上、そこに待ち構えるように一人の青年が立っていた。
 柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)
 恭也は親指で手榴弾のピンを弾き、数秒待って踊り場の二人に放り投げる。
 対イコン用に開発されたその手榴弾は、取り扱いこそ難しいが、その分威力は桁違いだ。

「んじゃ、サクッとお帰り願おうか」

 手榴弾は、二人の頭上で見計らったように爆発する。
 轟音。
 閃光と火炎が弾け、衝撃波が吹きつけ、階段の踊り場を破壊した。
 恭也が義腕で顔を覆う。黒髪が後方になびく。
 轟音が薄れていった。飛んでくる破片に気をつけながら、恭也は眼下を見下ろした。

「不躾な挨拶だ。教養に欠けているな」

 小暮とティーを守るように、エドワード・リード(えどわーど・りーど)が合金製の盾を構えていた。
 二人に傷はない。だが、エドワードの服は焼け付き、皮膚のあちこちが焦げていた。
 エドワードは射抜くような視線を恭也に向けた。

「久しぶりだな、恭也。このような形で再び出会うとは思わなかったが」
「ああ、そだな。俺もおまえと敵対するとは思わなかったぜ」

 言葉の終わりと共に、恭也はわずかに身を沈めた。
 足のバネを最大限に使い、信じられないほどの跳躍。天井に足を着け、そこからさらにジャンプ。

「悪いが、しばらく眠っとけ」

 体重と重力と速度を乗せ、エドワードの背後の二人に渾身の力で剣を振るった。
 盾を構えようとするが、間に合わない。
 二人に斬撃が迫った時――剣の横っ腹を抜刀術の一閃が直撃した。
 剣は軌道を変え、二人の横に振り下ろされる。

「優喜。あなたも二人と共に先に行ってください」

 赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)は刀を鞘に納め、背後の凪 優喜(なぎ・ゆうき)にそう言った。

「ワカッタ。イクゾ、オフタリサン」

 優喜は頷き、小暮とティーを起こすのを手伝い、共に階段を駆け上がっていく。
 恭也は剣を床から引き抜くが、霜月とエドワードのせいで三人の後を追えない。

「ちっ……面倒くせぇな」

 苛立たしげに舌打ちすると、恭也は横薙ぎに剣を振るった。
 霜月は鞘を正面に持ち、わずかに刀身をさらけ出して、その斬撃を受け止める。
 青白い火花を咲かせ、金属の悲鳴があがった。
 恭也は素早く階下に飛び降り、剣を構えなおす。霜月は腰を深く落とし、階下を見下ろしながら問いかけた。

「恭也さん。なぜ、あなたがダオレンに肩入れなど?」
「まぁこんなに怪しく、厄介事になりそうなこと、普段ならお断りだけどよぉ」

 恭也は足のバネを最大に使うために、再びわずかに身を沈めた。

「傭兵ってさ、貰う物に見合った働きをしなけりゃいけない訳よ」

 大きな跳躍。踊り場まで一気に駆け上がる。
 推力を加えた必殺の刃を、霜月は抜刀術で迎撃した。
 剣と刀の激突。
 押し勝ったのは霜月の刀だった。
 恭也は思い切り剣を弾かれ、そのまま踊り場の床に転倒。
 しかし、返しの刃が来る前に、転がった慣性を水面蹴りに替え、霜月の軸足を払う。
 恭也は背筋と足腰のバネで半回転し、転倒から立ち上がろうとする霜月の顔に拳銃を突きつけた。

「運が良けりゃ死なねーだろ!」

 恭也が引き金を絞る。
 だが、突然の右からの引力によって銃口がずれ、銃弾は霜月の横の床に着弾した。

「やらせはせんよ。私もいることを忘れるな」

 引力の正体は、エドワードによるトラクタービームの照射。
 霜月は咄嗟に手で拳銃を払うと、上になる恭也を押しのけ、素早く立ち上がった。
 恭也は間合いをとるために離れる。
 同時に、霜月はエドワードの隣へと移動した。

「申し訳ありません。助かりました」
「気にするな。今は戦闘に集中しろ」

 恭也がありったけの弾を銃口から吐き出させる。
 エドワードが前に立ち、その全てを盾で防御。
 銃弾が空になるタイミングを計算し、霜月が駆けた。
 水平に発生した雷のような一閃を、恭也は屈むことで回避。銃を捨て刃に手を添え縦の斬撃を発生させた。
 平家の篭手で受け止め、ヒビが走る。
 霜月は瞬時に体勢を立て直し、前蹴りを放った。
 恭也の体がくの字に折り曲がり、背後の壁に激突――息が詰まる。
 間合いを詰めた恭也の抜刀術が袈裟に奔り、恭也はすぐに飛び退く。完全には避けきれず、右腕の義手が半分ほど切り裂かれた。

「……はっ、やるじゃねぇか」

 恭也は小さく笑い、階下から二人を見上げた。