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失われた絆 第1部 ~火花散る春の武道大会~

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失われた絆 第1部 ~火花散る春の武道大会~

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■幕間:武道大会ペア部門−ラグエル&ケルピーVS綾原&アデリーヌ−

「あー……東雲さんたちは負けちゃいましたか」
 応援してたんだけどなあとリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)は残念そうな面持ちで、運ばれていく東雲姉弟を見送る。どうやら対戦相手が手加減した様で大きな怪我などはしていないようだった。
「それにしてもラグエルちゃんどこにいったのかな……」
 彼女が観客席を見回している間に次の試合に出場する選手たちが姿を現した。
(――あれ? あれはケルピーさんと……誰でしょう、どこかで見たことあるような……)
 ケルピー・アハイシュケ(けるぴー・あはいしゅけ)の傍らにはすらっとした長身の女性の姿があった。桃色の長い髪を垂らし、途中から三つ編みにされている。彼女はラグエルの姿を見つけると両手を大きく振った。
「リース、ラグエル大人になったんだよー」
「え? ……え? ――えーっ!?」
 満面の笑みを浮かべて手を振っていたのはラグエル・クローリク(らぐえる・くろーりく)その人である。
 リースが驚いているその最中に試合開始の銅鑼が鳴り響いた。

                                   ■

「アデリーヌは支援をお願いね」
 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)はパートナーのアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)に声を掛けると剣を構えて前へと踊り出た。降り注ぐ光の雨を避けながら彼女はリースとの距離を詰めていく。
 対してアデリーヌはハンドガンを構えると、放電を起こしながら駆け寄ってくるケルピーに狙いを定めた。ダダンッ、ダン、と続けざまに発砲する。
「うぉっ! ちょっ、あぶねえっ!! 当たったらどうしてくれんだよ」
 ケルピーは嘶くと前足を上げて回避する。
 彼の驚きに共鳴して放電の範囲が広がった。
 ラグエルは翼を広げて空へと逃れると周囲に光輪を出現させる。
「いくよーっ!」
 彼女は手を振り下ろした。
 その動きに合わせていくつもの光輪が綾原目掛けて殺到する。
「腕には多少、覚えがあるのよ。この程度なら――」
 綾原は剣を振るって光輪を破砕していく。
「さゆみ、後ろっ!」
 アデリーヌの声に綾原は振り返った。
 死角から二つの光輪が迫っているのが見える。

 ――キィンッ!

 薙ぎ払うと音を立てて光輪が割れた。
 だが壊せたのは一つだけだ。
「んーっ!」
 彼女は耐えるように身体を縮こまらせる。
 だがいつまで経っても衝撃はやってこない。
 とんっ、と背中に軽く重みが生まれた。見ればアデリーヌが銃を構えて背中を預けていた。硝煙が風に紛れて消える。どうやらもう一方の光輪は彼女によって撃ち壊されたようであった。
「選手交代。飛んでる相手に剣は分が悪いわ」
「じゃあ私はお馬さんの相手をわね」
 互いに手を合わせて次の行動へと身を転じた。

                                   ■

「今度は逃げねぇ! ぜってぇー、逃げねぇ!!」
 ケルピーは迫る刃を躱しながら放電を起こした。
 綾原の着ていた服の一部が焦げて焼け落ちる。直撃を受けたらその程度では済まないだろう。
 彼は前足を起こし、踏み倒すように綾原に襲い掛かった。
「あんまり躾がなってないと爪切りしちゃうわよ」
 ヒュンッと蹄に合わせて剣を振るう。
 すぱん、と音を立てて蹄の端が斬り飛んだ。
「お、俺の蹄がーっ!? ひでぇことしやがる!」
 一度態勢を整えるべく距離をとろうとするが蹄が切れたせいか走り方がぎこちなかった。互いに衝突するたびにケルピーの蹄は無残な姿へと変貌していく。
「おい……俺が歩くたびに地面に爪痕みたいな穴が開くんだけどよ……」
「悪魔的ね」
「てめえがやったんじゃねーか! これすっげえ歩きにくいんだぞ……」
 精神的にも肉体的にもまいっているようで、ケルピーはその場でぐったりと寝転んでしまった。その様子を見ていたラグエルが心配そうにケルピーに近づく。
「ラグエル。すまねえ、俺様はもう駄目だ。繊細な俺様にこの仕打ちは地獄だぜ」
「ケルピーかわいそう……」
 ラグエルは彼の頭を撫でると綾原に告げる。
「ラグエルたちのまけー!」
 ケルピーを気遣ってのことなのだろう。
 彼女自身には怪我という怪我はなかった。

 試合の様子を見て怪我をしないように色々叫んでいたリースは肩の荷が下りたようで『はあぁぁぁ……』ため息を吐いた。安堵も含まれていたようでどことなく穏やかな面持ちである。
「ラグエルちゃんたちに大きな怪我がなくてよかったー」