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とある魔法使いの飲食騒動

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とある魔法使いの飲食騒動

リアクション

◆未確認物体シンドローム

 うーん……と、うなされていた小暮と三月は、観客の歓声により目を覚ました。
「うえぇ……気持ち悪い」
「自分もだ。これ以上物を食べたくないと胃が反応してる」
 二人がそう言いながら、簡易ベッドの上で寝がえりを打つと、その声を聞いたロレンツォが二人の所にやって来た。
「二人とも気が付いたネ。調子はどうだい?」
「胃がむかむかして食べる気力が無い」
「……あれ? 柚は?」
 三月は、いつもそばにいるパートナーの姿を探したのだが救護室には姿が無かった。
「ああ、杜守さんは高円寺さんの方に行ったネ。もうすぐ帰って来るヨ」
 三月がもうすぐ? と聞く間もなく、救護室のドアが開けられて外から海が担架で運ばれて来る。もちろん柚も一緒だ。
「三月くん。大丈夫? さっき【ヒール】をしたんだけど、内臓に効いたかな?」
 柚は起きた三月に気が付くと、反対側に近づいて三月の手をそっと握った。
「ああ……大丈夫。と言いたい所だけど胃がやられたみたいで戦線復帰できそうにないや」
 少し残念そうな表情を浮かべながら三月を見るとロレンツォが、
「それは大丈夫ネ。さっき胃腸薬とパイプの汚れを取る薬を飲ませたからすぐに回復するよ」
 笑顔で言ったのだ。
「……まさか、それは自分も?」
 さぁっと青い顔で小暮がロレンツォに聞くと、軽く頷いただけだった。
 ロレンツォの頷きを見ると、小暮はそのままベッドに倒れた。
「あいや。小暮さんまた倒れたヨ」
「だから本人に言わない方がいいって言ったのに」
 呆れた表情をしながら、アゾートは肩をすくめた。
「ちょっと! ハーティオンに刃が刺さらないわ!」
 奥のカーテンから美羽の声が聞こえると、アゾートがカーテンの奥を覗き込んだ。
「わーん! それよりもおとーさん回復してよー!!」
 大粒の涙を流し、未来がサイドテーブルに乗っているベアードを差しながら美羽の肩をがくがくと揺らしているのだ。
「ハーティオンの後に回復してあげるから頭を揺らすのやめなさいってば!」
 そう美羽が言った瞬間、未来の肩揺らしが止まり涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔が一気に明るくなる。
「絶対に、絶対にだよ!」
 一歩後ろに下がった未来は両手を組み、祈り始める。
 美羽は目を閉じて、神経を集中し始めると手に持っていた【死と復活の槍】の復活の刃を上にすると咆哮を上げながら、槍をハーティオンの腰と胴の隙間を狙い刃を差した。
 突如眩しい光がハーティオンを包み込むと、ぶぅん。と低い音が聞こえハーティオンの両眼が光り出した。
「私は蒼空戦士ハーティオン! 正々堂々、勝負!」
 ハーティオンはすぐさま立ち上がると、ポーズを決めたのだった。
「……あれ。私は何を?」
 迷惑そうな顔で見上げている美羽と、ハーティオンの足元で抱きついている未来に、カーテンの隙間からこちらを見ているアゾートに気が付くと、ハーティオンは首を傾げた。

「おとーさん!」
「ムスメヨー!」
 未来とベアードの感動的な再開を横目で見ながら、ハーティオンはコハクとアゾートの説明を聞いていた。
 天ぷらとわんこそばの回が終わった後、倒れた三人を椅子に座らせ休憩も挟まずにお好み焼きとゲテモノリゾットが来た。
 綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)が舞台から出て来た瞬間、ぐつぐつと煮えたぎっている溶岩色のスープが入った寸胴から強烈な匂いが周囲を包む。
 その強烈な匂いでかは知らないが、寝ぼけていた三人は目を見開き覚醒をする。
「くくくっ……この料理で……偽アッシュだかノーマルアッシュだかを轟沈してやるのよ……!」
 とさゆみは独り言を呟きながら、支給テーブルに乗っているスープ皿にゲテモノのスープを注ぎ、各自のテーブルへと配膳する。
「こっちも忘れないでほしいわ」
 パッと一つのスポットライトが、ターラ・ラプティス(たーら・らぷてぃす)に当たると、もう一つスポットライトが増え、シンディ・ガネス(しんでぃ・がねす)リィナ・ヴァレン(りぃな・う゛ぁれん)を照らし出した。
 ターラが熱くなった鉄板に生地を流すと、生地に絡んだ千切りキャベツが焼ける匂いが漂ってくる。
 十数分後、シンディのヘラさばきでひっくり返った生地は見事なまでの黒焦げだ。裏はあまり焼けていないと言うのに、リィナが焦げている面にハケでお好み焼きのソースを塗り始める。仕上げに青ノリとかつお節を掛けるとお好み焼きの完成だ。
「一つ上がりー!!」
「いやいやいや。裏生焼けだし」
 画面外からアッシュの声が聞こえる。
 ターラ達は、アッシュの声を無視した後さっきの工程を三度繰り返して同じ大きさのお好み焼きを焼いていった。
「それで……今現在は、アッシ『ェ』達はリゾット・スープとお好み焼きを食べている最中なのか」
 中継機材が置いてある部屋にはテレビモニターが所狭しと置いてあり、右下のモニターには、時々アッシュ達がアップになりながらもリゾットとお好み焼きを食べている映像が映し出されている。
「よかった。あんなゲテモノ俺は食べきれる自信は無いよ」
 美羽の突いた槍の効果で復活した海が、コップに入っている水を飲みながらぽつりと言ったのだ。
「あのお好み焼きには、リィナ特製の消化を助ける薬が入っているからな。その力を借りながらあのゲテモノを食べないと攻略は無理だと思うぞ」
 ジェイク・コールソン(じぇいく・こーるそん)がそう言いながら、海の飲んでいるのとはちがう清涼飲料水が入ったコップを傾ける。ちなみにジェイクが救護室に運び込まれた理由は、ターラ達が作った試食用のお好み焼きを食べたからである。つまりは、毒見係として呼ばれたのだ。
「確かに。少し前のマッスルよりかは皆食べるスピードが速くなっている気がする」
 コハクがモニターを見ながら分析をする。
「……ところで、なんで皆さんここに居るんですか?」
 モニターチェックをしていたプロデューサーの高柳が、アゾート達を振りかえりながら言った。
「だって。現在の状況を説明するにはうってつけだと思って」
「救護室に戻って下さいよ。……ほら、葛城さんが倒れましたよ」
 真顔でそう言った後に高柳に突っ込まれ、しょんぼりとした顔でアゾート達は中継室から追い出された。