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【ぷりかる】水無月スーパーライブ

リアクション公開中!

【ぷりかる】水無月スーパーライブ

リアクション


オン・ステージ

「さぁ、ここからはいよいよ本日舞台デビューするアイドルたちの登場だー! まずはこの2人! アイドルというには凛々しすぎる2人組ユニット、【Wi’s(ウィズ)】の登場だー!!」
 ユニット名が呼ばれた、いよいよ出番だ。
 初めてのステージ、初めてのスポットライト、立っているだけで圧倒されてしまう観客の熱気。どれも初めての経験だが、ウィノナ・ライプニッツ(うぃのな・らいぷにっつ)は不思議と心静かに落ち着いていた。
「ウィル、これがボク達【Wi’s】の始まりの舞台よ」落ち着いたウィルヘルミーナに言う。『アイドル用インカム』も『機晶シンセサイザー』にも問題はない。やるべき事はやってきた、その自信が彼女に落ち着きを与えているのかもしれない。
「……初舞台」ウィルヘルミーナ・アイヴァンホー(うぃるへるみーな・あいばんほー)は、少し緊張しているだろうか。当然だ、これほど大人数の前で歌った事など一度たりとも経験していないのだから。
「思い出に残るような舞台にしたいわね」
「はい……いい思い出にしたいです」
 スタンバイは出来ている。まもなく前奏が始まる。
「そのためにも、思いっきり楽しもっ!」
「はいっ! 私も、いえ、一緒に楽しみましょう、ウィノナさん!」
 会場の熱に溶かされたように、迷いも固さも消えてゆく。顔を上げれば観客の顔も幾つかはっきりと見えてきた。
「(がんばって! 2人とも!)」
 舞台裏では広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)が祈っている。今日は2人のサポート役、曲のサビ前で2人に『旋律と輝きの剣』と『ル=クァットロ=スタジョーネ(ディオニウススタッフ)』を投げ渡す役回りだ。
 ウィルヘルミーナは輝く剣跡を描くように、ウィノナはバトントワリングのように杖を多彩に振り回してシンセサイザーと合わせた演奏とダンスで歌いきる予定だ。
 ダンスフルでカッコいい曲調の前半部分を2人は全力で歌い上げた。ウィルヘルミーナの緊張もすっかり溶けたようで……というより思いの外ノリノリハイテンションなようで、
「はぅっ!!」
 『♪君の笑顔を〜空に描き〜想い奮い立たせ〜♪』オリジナル曲を歌いつつも無意識に『ペネトレイト・ザ・ハート』を発動していた。
 両手を合わせて作ったハートの形が胸の前、そこにとびきりの笑顔が重なれば―――本人は恥ずかしがっていたが、観客たちは一気に虜のフォーリンラブ、デビューステージながらに確実にファンを獲得していた。
『♪遙かな未来(さき)〜君の元へ〜帰るよ空へと誓い〜♪』
 少女が戦いの中で遠く離れた想い人へ恋心を綴る曲を、最後は叫び、見事に歌いきった。
「ボク達【Wi’s】を、これから応援! よろしくお願いしまーすっ!!」
 2人手をつないで声援に応える。
 舞台裏で2人に拍手を贈るファイリアはの涙ポロポロ号泣していたが、ステージ上の2人は何とも晴れやかな笑顔で胸を張っていた。


【Wi’s】が華々しいデビューステージを披露する最中、舞台袖ではソフィア・アントニヌス(そふぃあ・あんとにぬす)小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)がモメていた。
「いいかげんにして下さいです……そんなわがままは許しませんですよぉ……」
 ソフィアの身ぐるみを剥ごうと……いや、彼女のプレートアーマーを脱がそうと、美羽は一杯に力を込めているのだが、
「御免蒙る、断固拒否する」
 抗うソフィアも必死に決死で、彼女の手を引き剥がしにかかっていた。
「その衣装に鎧は似合わないですよ! 脱いで下さいぃぃ……」
「そんな事はない、ペルムの鎧はどんな服の上に着ようとも決して埋もれる事はないのだ」
「だから脱いで欲しいんですっ! 一人だけ鎧を着ていたら、そればっかりが目立つでしょう!」
「今のアイドルに求められるのは個性だと聞いている」
「ここで正論?!!」
 確かにフリフリな衣装に鎧を着たアイドルとなれば、それだけで個性は爆発するだろうが、求めているのはソレではない。美羽がプロデュースするデビューステージのテーマは「4人の調和」と「溢れる可愛らしさ」なのだ。
「シェヘラちゃん! ヨーカちゃん! 手伝って!」
「仕方ないわね」
「ふふふ、りょうかーい」
「えっ……ちょっ、止めっ…………あー!!」
 ステージの出番が迫っている事もあってか、シェヘラザード・ラクシー(しぇへらざーど・らくしー)楊 霞(よう・か)の手つきは何とも荒く、あっという間にソフィアの鎧を剥いでしまった。
「さぁ、みなさん、出番ですよ」
 グィネヴィア・フェリシカ(ぐぃねう゛ぃあ・ふぇりしか)が笑顔でシェヘラザードの手を握る。シェヘラザードはそれぞれソフィアの手を一つずつ取って握った。
「ちょっ……あの……本当に私…………」
「往生際が悪いですよ」
 鎧を取り返そうにも喚いて抵抗しようにも、両手を取られていてはそれも叶わない。連行されるようにしてソフィアは暗がりの舞台袖を歩んでいった。
 繋いだ手を高く上げて。【ぷりかる】の4人がステージの中央へと歩みゆく。
「みんな。とっても可愛いよ」
 スタンバイ完了で曲が始まると、歓声が一気に沸き立った。
 フリフリの短いスカートがヒラヒラピラピラ、リズミカルなダンスに合わせてなびいてゆく。
 4人それぞれのイメージカラーに合わせた明るい色調の衣装もばっちりキマっていた。ソロパートが順に交互にやってくる曲構成は、まるで自己紹介をしているかのようだった。
 観客の反応は上々、すべては美羽のプラン通り。4人が4人ともに最高のパフォーマンスを披露していて―――いや、
「ソフィア………………」
 胸やおへそを隠すように。自分だけは全裸で舞台に放り出されてしまったかのように体を隠しながらに踊っていた。
 顔は真っ赤で、体はモジモジ。
「可愛い! でもそれじゃない!」
 美羽は複雑な気持ちのままに4人のデビューステージを見届けたのだった。


「はぁ……はぁ……はぁ……」
 無事にステージを終え、舞台から逃げるように降り来たソフィアは、舞台袖に座り込んで膝を抱えた。
 誰の顔も見たくない、誰も私に話しかけないで……。
 恥ずかしさばかりが気になって、歌もダンスも覚えていない。デビューステージだというのに自分は一体なにをしていたのだろう。
「まずは鎧を着るといい」
 誰だろう。知らない声だった。
 白衣姿に丸い眼鏡。腰を折って顔を覗かせたその男は「紫銀に輝く鎧」を手にしていた。
「気持ちを落ち着かせるのだ第一だろう? 何をするにもまずはそれからだ」
 いつもの鎧ではない。代わりになんてなるはずがないと、そう思いながらも―――
 彼女はすがるようにその鎧に手を伸ばしていた。