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リアクション
★全然怪しくないし、商品でもない!★
「美味かったな」
「ええ、そうですね」
店から出てきて伸びをするジヴォートに、牡丹も安堵しながら返す。ちょっと? 変わっていたが店長は悪い人ではなさそうだ……世界征服がなんだとぶつぶつ言っていたが、あまり深く考えないほうがいい気がする。
「あ、良かったらうちの店に寄っていってみませんか? イコプラなんかも置いてるので」
「それは構わないけど、いこぷら? なんだそれ」
「え、ご存じないんですか?」
イコプラを知らないジヴォートに説明していると、彼の服が引っ張られた。見下ろせば白い犬のような、けど犬とは違う不思議な生き物? がつぶらな瞳でジヴォートを見ている。
白澤(はくたく)という伝説の生き物に似たそれは、どうやらギフトのようだが。
「ん? どうしたんだ?」
くいくいっと引っ張り、道を挟んだ逆の建物へと導こうとしていた。その建物には『全然あやしくない八卦術師の便利屋さん』と書かれている。……逆に怪しい、というのはつっこんではいけない。
すると中からドアが開き、黒い麒麟のようなギフトも出てきてジヴォートたちを出迎える。どうやら店の看板犬? らしい。
「壱式、弐式。一体どこへ行って……あら?」
「誘われたんで、ちょっとお邪魔してるぜ。賢いな、こいつら」
店の奥から店主である東 朱鷺(あずま・とき)がやってきて、ジヴォートたちを見て驚き、客を連れてきてくれた2匹の頭を優しく撫でる。
「便利屋って、結局なんの店なんだ?」
「いろんな依頼を受ける店ですよ。最近改装したばかりでまだ整理が追いついてませんが、札や呪術に関するグッズなんかも展示や販売してますよ」
朱鷺の店は一階建ての小さなものだったが、このたび一気に5階建てになった。もちろん工事の祭は周辺住民に通知している。
増築して空きができたフロアにはコレクションを展示したり、ソファなどを置いて休憩フロアを作ったり、内緒の依頼を受けるための特別な応接室を作ったりと、大分変化した。
その際に新たなマスコット、試作型式神・参式【大百足】も店へ導入。壱式・弐式にはない安定性とパワーがある。これで依頼の幅も広がり、店の改装の際も大活躍した。
もちろん朱鷺自身も動いた。広告を3種類用意し、
1 全然、全然あやしくない八卦術師の便利屋さん
2 全然、怪しくなんてないんだからね 八卦術師の便利屋さん
3 夏だ! アガルタだ! 便利屋だ! 八卦術師の便利屋さん
というキャッチコピーで配った。そのおかげもあって、最近は依頼の方も増えてきた。
「朱鷺の自慢の子たちなのです。店にいる時はマスコットとして頑張ってくれています」
「ああ、ほんとどのこも賢くて、あんたのことが大好きなのが伝わってくるよ」
内部の説明や式神の自慢を聞いたジヴォートは笑顔で頷く。隣の牡丹も頷き、名刺を差し出す。
「あ、私は『佐々布修理店』の佐々布 牡丹です。少し離れてるんですが、同じ区に店を出すことになりまして……よろしくお願いします」
「そうですか。朱鷺は東 朱鷺です」
和やかに挨拶を交わす。
「残念ながら今は依頼することねーんだけど、今度こっちに支局作る際は何か依頼するかもしれねーな。そん時はよろしくな」
「はい。そのときはぜひお願いします」
* * *
そしてこちらは、牡丹の店。1人留守番をしているレナリィ・クエーサー(れなりぃ・くえーさー)は、時折商品と間違われて「僕は商品じゃないのですよぉ」と言い返しながら、修理依頼をリストにまとめていた。
「え〜っと、こういうルートで回るのが一番かな。この人のは僕でも修理できたから大丈夫だし」
広く煩雑なC区をどう回れば効率がよいかも考える。構造が比較的単純な機械ならばレナリィにも修理できるのだが、依頼の内容はそう単純なものばかりではない。というより難しいことが多い。
他の区に比べて収入が少ないこの区の住民は、物を大事にする。買い換えるお金がないからだ。壊れたのならばできるだけ自分たちで修理をする。しかしどうしても無理なものを、修理店へと持ってくるのだ。
もちろん客は他の区からもやってくるが、彼らのお目当てはほとんどがイコプラだ。逆にC区の住民がイコプラ目当てで来ることはほとんどない。彼らにとってソレは贅沢品になる。
「でもできたら、イコプラの良さをこの街の人たちにも知ってもらいたいなぁ……う〜ん」
買わなくても楽しんでもらえる方法は何かないものか。
考え込んでいたレナリィだが、ぽんと手を叩いた。
「イコプラの大会を開催するのはどうかな。これなら見るだけでも楽しいし、何か施し物を開催すれば人も集まって、この地区がもっともっと賑やかになるかもしれないからね〜♪」
牡丹が帰ってきたら、提案してみよう。早く帰ってこないかなぁ〜。
わくわくと期待しながら待っていたレナリィの元へ、ジヴォートを連れた牡丹が帰ってきた。早速提案をしたかったレナリィだが
「え、これがイコプラ?」
とジヴォートに言われ
「僕は商品じゃないよぉ〜」
と叫ぶ方が先だった。
* * *
それぞれの自由時間が終わり、全員集合したところで、今日の夕食の場へと向かう。今晩は『アガルタ食堂』だ。
「ランディ。ここは変わった食材とショーが見れるんだってよ。楽しみだな」
「おう! たっくさん食べるぞ。ジヴォートもたくさん食べろよ」
「もうっ少しは遠慮しなさいよ」
「まあ理沙。楽しんでいるようなのですからよろしいではありませんか」
「あら、大食いなら私も負けないわよ」
『むっ。わしも負けへんで。ゲテモノファイターの血がうずきよるわ!』
「何の勝負なのよ、それ」
「あそこはすっごく楽しいよね! きっとアレ今日もやってるはずだよ」
「ああ。アレか……できれば静かに食べたいが」
「ダリルったらノリが悪いわよ。たしかに大変だけど、楽しいじゃない」
「……みと。アレ、とは何のことだ?」
「たしか(ごにょごにょ)のことかと思いますわ」
「さすが変な土産売ってる街アガルタってところかー。ある意味すげーな」
「……ジヴォート様。あまり私から離れないようにお願いします。以上」
「え? よくわからねーけど、分かった」
知っているものは遠い目をしたり、悪戯っぽく目を輝かせたり、知らないものは不安に駆られたり、期待に目を輝かせたり、しながら一行は食堂へ向かう。
* * *
どうやら何事もなく終わりそうだ。
「C区に行った時はどうなるかと思ったけど、大丈夫そうだね」
「ああ……な、なんのことだ?」
ほおっと息を吐き出したドブーツに天音が声をかければ頷きを返したドブーツだが、すぐにハッとして明後日の方向を向いた。しかしながら楽しげなジヴォートたちを見る目がどこか寂しさを語っていたので、天音は「……そろそろ、きちんと話した方が良いと思うけどね」ぽつりと呟くが、ドブーツは聞こえないフリをした。
その様子をじっと観察していたイブが、静かに口を開く。
「ドブーツ様。ソンなニモ心配ナラバ、お傍ニいラレてはドウでショウ。イクら言葉デ否定サれヨウと、アなタ様ノ真意にマスターも感ヅイてオラレマス」
それはドブーツにだけ聞こえるような小さな声で、機械が喋ったかのような起伏のないものだった。だがそこには微かに。そう微かに感情がこもっていた。
「……それは」
何か言い返そうとしたドブーツに、しかしそれを遮ったのはイブだった。
「マスターかラ連絡。ジヴォート様タチの向かっテイル食堂で、食材タチが暴レテイルそうデス」
先行して様子を探っていた刹那からの情報を伝える。ドブーツには意味不明なその言葉も、天音には分かったらしい。
「食材というか、魔物というか。そんな類だと思えば間違いないかな」
「なにっ?」
ドブーツが驚いて、それからすぐ真剣な顔になる。
「イブ。奴にジヴォートたちの足止めをするよう伝えろ。俺たちは現場へ向かう」
「了解シマシタ」
悩んだのは一瞬で、すぐさま指示を飛ばす。誰が聞いてもジヴォートを守るための指示について、ドブーツはもう言い訳しなかった。
「いいのか?」
ブルーズが問いかける。
「……ああ。もう言い訳はしないよ。僕にとってジヴォートは大切な友達で……でも大切だからこそ、僕は自分が許せない」
* * *
「まったく。シーニーはどこへ行きおった」
ラフターストリート(B)を歩いている猿。もといジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)は、一緒に歩いていたはずのシーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)の姿を探していた。どこかでお酒を飲んでいるのだろうとは思っているのだが。
「む、すまんがお主。酒ビンを抱えているショートヘアの女性を見なかったか」
「え? 猿? あ、ああ。見た、けど」
周囲にいた人に尋ねると、驚かれた。が、ジョージは慣れているのか気にせず、どこで? とさらに問う。
「俺が見たときはこの先にある『アガルタ食堂』で飲んでたけど……まだいるかはしらねー」
「いや。助かるわい」
「あ、でも今は行かないほうが……」
早速得た目撃情報を元に向かう。尋ねた人が止めた方がいい、と言っていたのを最後まで聞くことなく……。
そうしてもう少しで食堂だ、というところで。ジョージは巨大な生き物と遭遇していた。
硬そうなうろこ。何もかもを見透かすような目。鋭い牙に爪。大きなコウモリに似た翼。――ドラゴンにとてもよく似た凶悪そうな生き物だ。
「むう、なんじゃこれは〜!!」
「あれ? ジョージ?」
叫んだことでシーニーがその存在に気づくも、目を向けた次の瞬間にはジョージの姿は吹き飛ばされてお空の星になっていた。
「あ……ジョージ星が綺麗やねぇ……猿星のがええんかな?」
シーニーはまったく動じず、手に持ったジョッキの中身を一気に空にするのだった。
「それがしを料理するのはまだまだ早い」
逃げ出した食材の一体(雑魚)をしとめた上田 重安(うえだ・しげやす)だったが、目の前にはあの『ドラゴンに似た生物』がいた。いつのまに現れたかも。どうやってこの巨体で静かに動けるのかも分からなかったが、逃げるわけには行かない。ナタを握り締め、果敢に向かっていく。
「たああああっ」
振り下ろしたナタは
「ぶぉおおおおおおっ」
吐き出された炎のブレスで持ち主が丸焦げになったことで、相手に届くことはなかった。
「かはっ」
倒れこんだ重安を横目に、ドラゴンに似た生き物以外の食材を戦車に乗って相手しているのは鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)だ。時折周囲を見回してドラゴンのような生き物の位置を確認している。
「さすがに他の区へ逃げ込まれると不味いのでな」
他の区にまで被害が及ばないよう、注意を払っているようだ。
「どいつもこいつも……」
怒りのままに重火器をぶっ放しているのはコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)。その怒りの矛先は、言葉通り多数に向けられていた。
騒動の原因を起こした吹雪が
「胴体は撃っちゃ駄目でありますよ、食べるところが吹き飛ぶでありますから」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょうが!」
などと暢気なことを言っているのもそうであるし(イスで思い切り殴……ツッコミを入れておいた)、あっさりとやられた重安に対してでもあるし(ツッコミを入れたイスを投げた)、先ほど連絡した警備隊の対応が事務的であったことに対してでもある。……ただ単に普段のストレスが爆発したともいえるが、なんにせよ。コルセアの勢いはすさまじかった。ブレスをものともせずに近づいて至近距離から重火器を放つ様子は、周辺の野次馬すら口をつぐむほどの迫力だ。
とはいえドラゴンのような生き物は、ドラゴンに似ているだけあって中々手ごわく、さらに他の食材たちも抑えなければならないために中々倒せない。
「……本当にアレらが食材なのか?」
「食材とのバトルも名物なんだよねぇ」
「賭ケ モ 行ワレテイルヨウデス」
そこへドブーツたちが駆けつけた。ドブーツや秘書は周囲の住民たちを避難させ、イブや天音らが食材たちへと向かっていった。
その協力もあって、なんとかドラゴンのような生き物を倒すことが出来たのだった。
* * *
一方。ジヴォートたちはと言うと。
「なんだか随分と混んでるな」
観光バスの中、中々動かないことに首をかしげていた。
「……今連絡が入った。どうもこの先の信号が倒れて、道をふさいでいるらしい」
「信号が?」
首をかしげるジヴォートたちだが、実はこの騒動。刹那が起こしたものだった。
(あまり派手なことはしたくないんじゃがな。今回は仕方なかろう)
道をふさいだことで、ジヴォートたちだけでなく他の者の危険も回避できるのだ。直接ドブーツから命令を受けたわけではないが、おそらく攻められることはないだろうと刹那は分かっていた。
暗殺家業を請け負っている刹那の、人を見る目はたしかだ。
その後、すぐさま信号は撤去されたものの、やってきた警備隊は食材脱走のことを知っていたため、そちらの方角を通行止めにした。
ジヴォートたちは遠回りをして食堂に向かわざるを得ず、その間に食材たちは無事に料理され、ジヴォートたちの腹に収まった。
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