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学生たちの休日11

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学生たちの休日11

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    ★    ★    ★

「なんだか、今となっては、何もかも懐かしいな。悪夢でもあったけれど、今じゃ本当に夢の中の出来事のようだ」
 ごく普通のショッピングセンターの店のならびを見回しながら新風 燕馬(にいかぜ・えんま)がつぶやいた。
 以前、ここで大規模なテロ事件があったなどと言うことは、本当に嘘のようだ。だが、それによって、新風燕馬はサツキ・シャルフリヒター(さつき・しゃるふりひたー)と出会ったのだった。
「結構、普通に戻すってことは、簡単なことでもあるんだなあ」
 綺麗に改装されたショッピングセンターは、本当にありふれた光景となっている。
 そういえば、あの日のように、刃物を持ったサツキ・シャルフリヒターに追い回されるという夢も、最近は見なくなった。このショッピングセンターが復旧されたのとだいたい時を同じくしているが、つまりは、それほどの時間が自然と過ぎたと言うことなのだろう。
 この間、ためしに思い切ってサツキ・シャルフリヒターに刃物を持たせて確かめたりもしたが、別段新風燕馬がなますに斬り下ろされることもなかった。
「なんだ、こんなに簡単なことだったんだ」
 あらためて、新風燕馬はそう認識した。
『御来場の皆様にお知らせします。間もなく、当館名物、ぶっちゃけ投げ売りタイムバーゲンセールが開始されます』
 新風燕馬が感慨に浸っていると、突然出品具センター全体に大谷文美のアナウンスが響き渡った。
「なお、最終日である本日の目玉は、卵一グロス、牛乳一ガロン、共に通常価格の一割にて御提供させていただく予定です。なお、先着100名様限りとなりますので、御希望の方は当館一階、食料品売り場までお急ぎくださ……」
「うおおお、タイムセールだと、しかも、なんだ、この安さ。九割引なんて、ありえないだろ。なんて太っ腹な企画なんだ」
 いきなり思いっきり下世話な現実に引き戻されて、新風燕馬が叫んだ。
「いかん、ここでこうして黄昏れている場合じゃない。簡単なことだ、買いに行くぜ!」
「きゃー、特売よ、特売よー!」
 気合いを入れたとたん、怒濤の暴れ主婦の群れが押し寄せてきて、あっけなく新風燕馬を踏みつぶしていった。
「ま、負けるものか。卵と牛乳が俺を待っている。待っていろ、サツキ、今日は特大プリンだ! うおおおおお!!」
 不屈の闘志で立ちあがると、新風燕馬は主婦の群れを追いかけていった。

    ★    ★    ★

「レストランにむかっているようね」
「そのようであるな。ふむ、興味深いことだ」
 物陰から、ひょいと顔半分だけをのぞかせて、アルディミアク・ミトゥナ(あるでぃみあく・みとぅな)ジャワ・ディンブラ(じゃわ・でぃんぶら)が言った。
 デートと称して、空京商店街を連れ立って歩くココ・カンパーニュ(ここ・かんぱーにゅ)風森 巽(かぜもり・たつみ)の後を、ずっと尾行しているのである。
「君たち、いいかげん人のデートをのぞき見するのは……」
「あなたは、心配じゃないの?」
 やれやれという困り果てた顔で注意するアラザルク・ミトゥナに、アルディミアク・ミトゥナが言い返した。
「心配するほどのことではないと思うのだが……」
 ねえとばかりに、アラザルク・ミトゥナがそばにいるチャイ・セイロン(ちゃい・せいろん)ペコ・フラワリー(ぺこ・ふらわりー)に同意を求めようとした。
「そうですねえ、まあ、大丈夫なんじゃないでしょうかあ。お相手も、悪い人ではなさそうですしい」
 風森巽からもらった高級お菓子セットをもぐもぐとツマミながら、チャイ・セイロンが言った。
「むしろ、心配なのは、お相手の方ですね。思わず、リーダーがブリッ子を装って、キャーとかだきついたら、相手の肋骨が無事ではすまないかもしれませんし、ははははは、こいつうっとかツッコミを入れたら、どこまで吹っ飛んでいくか分かったものではありません」
 こちらはパラダイスイーツをツマミながら、ペコ・フラワリーが言う。
「それよ。無駄な犠牲者を出すのは忍びないわ。それにしても、いつの間にデートの約束を……」
「ああ、なんだか、事前にいろいろと聞かれたぞ。好きな物とか、誕生日とか、暇な日とか……」
 アルディミアク・ミトゥナの疑問に、ジャワ・ディンブラがあっけなく答える。どうやら、ペコ・フラワリーたちが今食べている高級スイーツも、そのお礼と言うことらしい。
「賄賂ね。なんて用意周到な……」
 やはり徹底的に、マークする必要があると、アルディミアク・ミトゥナが決意を新たにする。もし、風森巽がココ・カンパーニュにふさわしくない行動をとるのであれば、大型飛空艇を塵も残さず消滅させた星拳スター・ブレイカーの最大出力で、風森巽の存在自体を無に還す気満々だ。
「いや、スター・ブレイカーは、ココの協力がないと、今じゃ使えないだろう」
 落ち着きなさいと、アラザルク・ミトゥナがアルディミアク・ミトゥナをなだめた。
「まあ、リーダーがあ、男がほしいーとお、騒ぎだしたのはあ、お二人に見せつけられたせいですしい」
 ここぞとばかりにチャイ・セイロンが、アルディミアク・ミトゥナたちに突っ込んだ。
「そんなこと、気にしすぎよ」
 さすがに、ちょっとまずかったかなっと、アルディミアク・ミトゥナが目を伏せる。
「それより、どうやらレストランに入るようだぞ」
 ジャワ・ディンブラの言葉に、ゴチメイたちがわたわたと移動を開始する。
 レストランの中では、風森巽が、ココ・カンパーニュに言われるままにいろいろと買い込んだ品物をウエイターに預かってもらって、ちょっとほっとしたようにテーブルへと案内されていった。
「ちょっと、買いすぎちゃったかなあ。重くなかった?」
 調子に乗って、目につく物をいろいろと風森巽に買わせてしまったココ・カンパーニュが、少し反省したように言った。もっとも、元々がそんなに贅沢というわけでもないし、高価な貴金属にはあまり目をむけなかったので、風森巽の金銭的負担は、覚悟して全貯金を下ろすほどのことでもなかった。そのあたり、ココ・カンパーニュは変に庶民的で常識的だった。
「いえいえ、体力だけは自身がありますし、大して重くありませんでしたから」
 むしろ、かかえた箱とかで、せっかくのココ・カンパーニュの姿が見えにくいことの方が問題だったと風森巽が内心で思った。
 途中でブティックで服も買って着替えたため、今のココ・カンパーニュはいつものゴスロリドレスではなく、真っ赤なワンピースを着て、下ろした髪には黄色い大きな花飾りをつけている。艶やかなピンク色のリップで唇を艶やかに輝かせ、アイラインにはわずかにシャドウを入れてもいるようだ。何気なく化粧品を見ていたらお試しメイクされた結果なのだが、いつもよりはちょっと大人っぽくなったその姿に、ちらちらとココ・カンパーニュの顔をのぞき込んでは風森巽はドキドキしてしまっている。
 これなら、これから渡すプレゼントもきっと似合うだろう。
「ちょっと遅くなってしまいましたけれど、渡したい物があるんです」
 そう言うと、料理が届くまでの短い間に、風森巽がココ・カンパーニュに綺麗に包装されてリボンのつけられた小箱を差し出した。
 今日買った物の中にはこんな箱はなかったと思うので、これは、風森巽が事前に買ってあったものだろうとココ・カンパーニュが思う。
「開けてもいいかなあ」
「どうぞ、開けてください」
 風森巽に断りを入れると、ココ・カンパーニュがリボンと包装を解いて、中の箱を開けた。出て来た物は、ムーンライトイヤリングだった。
「遅れてしまいましたが、お誕生日おめでとうございます。本当は、誕生日同日にお渡しできればよかったんですけど。すみません、気に入ってもらえると嬉しいんですが……」
「もちろん。ありがとう」
 そう言うと、さっそくココ・カンパーニュが耳にムーンライトイヤリングをつけた。決して派手な物ではなく、品のよいイヤリングは、ずっとつけ続けていたかのようにココ・カンパーニュの耳許になじんでいた。
「よく似合ってますよ。気に入ってもらって、とても嬉しいです」
 そして、そのイヤリングのように、すぐそばで守るつもりだと、風森巽は心の中で誓った。
 そこへ、オードブルが届き始める。
「さあ、食べましょう。あれ、どうかしましたか?」
 食事を始めようとしたとき、ちょっとココ・カンパーニュの雰囲気が変わったのに敏感に気づいて、風森巽が訊ねた。
「ううん、なんでもないわ。さあ、食べるわよー」
 ちょっとわざとらしく、ココ・カンパーニュが食事を食べ始めた。が、一瞬、チラリと後ろの方のパーティー席に視線を流す。
「帰ったら、後で全員締める……」
 そう静かにつぶやくココ・カンパーニュであった。

    ★    ★    ★

「うーん、やっぱりプールは涼しくていいね」
 バシャバシャと水を跳ね上げながら、綾原さゆみがアデリーヌ・シャントルイユに言った。
 レンタル水着を借りて、空京遊園地脇のプールで思いっきり水を楽しんでいる。
「そろそろ、図書館に戻って……」
「あー、波来るよ、波。早く、身構えないとひっくり返されちゃうよ!」
 そろそろ勉強の続きをと言おうとしたアデリーヌ・シャントルイユの手を取って、綾原さゆみが叫んだ。
 直後に、大きな波がプールの端から押し寄せてくる。
「きゃあ」
「ちょっと、大きすぎますわよ!」
 波にひっくり返されまいと、二人がだきあって姿勢をキープしようとする。
「また来る!」
「つかまって!」
 キャアキャアと騒ぎながら、しっかりとだきあって波と戦っているうちに、いつの間にか日は沈もうとしていた。