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―アリスインゲート2―

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【ノース】ESC社からさほど離れてない場所に新築のビルがあった。
 4階ほどのこじんまりとしたビルだが敷地的には量販店ほど、それなりの広さを有する。
 竣工してはいるがまだ看板は掲げておらず、ここが宝石店として開店するのは些か先のことになるだろう。
 ガラスの内側に何も飾られてないのを外から眺めて感慨深くマネキ・ング(まねき・んぐ)メビウス・クグサクスクルス(めびうす・くぐさくすくるす)が頷いていた。
「とうとうここまできたなか……」
「苦労した甲斐がありましたね……」
 そんな彼らに荷運びをするセリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)が水を刺す。
「……ほとんど御神楽 舞花(みかぐら・まいか)の功績だろうが。このビルが建ったのはよ」
 そもそもこのビルはパラミタからの調査隊の活動拠点として舞花とノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が建造していたものだ。
 いつも忙しい御神楽 陽太(みかぐら・ようた)の銀行口座から資金を勝手に前借りし、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)【第三世界】において重宝される貴金属、宝石類をパラミタ及び地球の資産家から安価で買い集めてこちらの市場で売る。そうしてある程度の資金を得ていた。
 これに際し、マネキ・ングもこの商売に一枚噛む。【第三世界】では採れることのないかつ絶対量の少ない機晶石を市場に大量流入させ破格を一時的に暴落させていた。これに目をつけた舞花はマネキ・ングたちと結託し機晶石の出荷量を調整、更に搬入先を軍部に限定して機晶石の価格帯を底上げする。その間に安値で出回っている機晶石を買い戻し、市場高値で安定するのを待って一般企業へ売りつけて更に儲けを膨らましていた。これも御神楽の血筋か。《財産管理》はメビウスが担当し資金内から使用出来る限度ギリギリの工事費用を捻出して4階建て地下倉庫付きの店舗が竣工した。
 なお、この工事費用をケチるために。測量土木基礎工事重機運用資材搬入の一切をノーンがクリスタルゴーレムを使って行った。最近では安全第一の黄色いヘルメットをかぶってない彼女に違和感を覚えるほどだ。今日も首にタオル、タンクトップ、汚れた作業ズボン、MISUNO製ツルハシを持って最後の左官工事に汗を流していた。
「今日も精が出るぜ……だよ」
「ノーンの口調ってあんなんだったけ……」
 ガテン系に変わり果てたノーンの姿を尻目に資材を詰めたダンボールを店内に運ぶセリスだった。
「おうおう、やってるか〜い」
 パイポをピーっと鳴らしながら来客が一人舞花に連れられてやってくる。ESC社研究員のミナミ・ハンター博士だ。竣工パーティーに呼ばれて来たのだ。腕にはリボンのかかった大きめの『くまちゃん』人形が抱えられている。
「皆さんお疲れ様です。準備はどうですか?」
 舞花の問にメビウスが「上々」と答える。
「パーティーの準備は完了してますよ。あとはみなさんを呼んで始めるだけだもん」
「ノーン様の作業は?」
「ここのコンクリートを均したらだぜ……だよ!」
「なんかあの自称精霊変わり果ててない?」
「ミナミ様気のせいです。ノーン様それが終わったら《テレパシー》で皆をお誘いください。アリサ様あたりは暇そうでしょう」
 勝手に暇扱いされるアリサだった。
 と、頭上で低い唸り声が鳴った。黒い雲行きに皆が目をやる。
「これは一雨くるかな……」
「降り始める前に中に入るのだよ」
 マネキ・ングの招きに一同は店内へと入った。
 雷雲は徐々に北へと流れていく。