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サマーオールナイトクルーズ

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エピローグ


 船に仕掛けられた爆薬は、恐らく全て回収されたが、一部ではあるが非常に目立つ場所が破壊されてしまったことで、クルージングは中止ということになった。
 とは言え、航海については当面問題なかったので、とりあえずテ・ヘヌア・エナナの港に方向を変えつつ、航海自体はこのまますることになって、パーティーも続けられていた。
 明日の昼過ぎには、港に帰還できるだろう。
 ドクター・ハデスがシャンバラの有名人と判ったことで、エイリークは外交問題云々と言い出していたが、外交問題の先頭にエイリークを出すのは、どうにも恥ずかしいことになりかねなかったので、イルヴリーヒが黙らせることにした。
 結果的に犠牲もなく、大きな問題にもならなかったのだから、騒ぎ立てる程のことでもないだろう、と。
 ハデスではなく、人魚の咆哮によって怪我人が出たが、いずれも重傷ではなく、御神楽舞花がてきぱきと介抱し、治療技能を持つ者達が順次駆けつけてそれを手伝ったりしたので、乗船していた医師達は、殆ど出番が無かった程だ。


「何だか気が抜けちゃったね」
 陽が沈もうとする海を見ながら、歌菜羽純に苦笑した。
 人魚は海の泡とならず、王子も死ななかった。
 けれど何だか、ハッピーエンドとはちょっと違うような気がする。

 アリーは帰る前に、歌菜達に、
「ま、まあ、親身になってくれたことには、一応、礼を言っておくわ。
 ぎ、義理でね!
 別に感謝なんてしてないから。余計なお世話だったし!」
と、解りやすくツンデレな礼を言い残して去って行った。
 彼女も、やがてツンデレを通り越して、姉達同様に高慢な性格になってしまうのだろうか。
 けれど今日、歌菜達の「想いは伝えるべき」という説得に、真摯に耳を傾けていたあの表情は、嘘ではないと思う。
 色々読み間違えてしまったが、アリーの様子に演技はなかったと確信できるからだ。

「まあ、一応は一件落着ということで、今は明日までの船旅を楽しむか」
「そうだね」
 デッキに並んで海を見つめながら、二人はそっと寄り添う。


 また、アリーと人魚達が帰って行く中、何処からか美しい歌声が流れているのを天音達は聴いた。
 声の方へ行ってみると、船尾に一人の人魚が腰掛けて、歌を歌っている。
 水底に差し、たゆたう美しい光の賛歌。
 歌い終えると、人魚は確かに天音を見て、それから海に飛び込んで行った。

 天音は微笑む。
 彼女に、人魚の歌が知りたい、と言った言葉に応えてくれたのだろう。
 高慢ではあるが、全く性格が悪いだけではないのだと、そう思う。
 タイトルを聞きそびれてしまったな、と苦笑した。


 そして夜になり、舞台音楽は、華やかなだけのものから、ムードのあるものも交ぜられてきている。
 天音は、タキシードに身を包んだパートナーのブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)と共に、歌姫マオして舞台に立った。
 一曲目は、『人魚の唄』。
 地球のとある町に伝わる切ない恋の歌だが、しっとりと落ち着いた雰囲気も醸し出す今の時間なら、こんな歌もいいだろう。
「次の曲は、『緑の中で』……」
 ブルーズのピアノ伴奏がイントロを奏でる。
 客の中には、憶えのある者もいるだろうか、エリュシオンの豊かな大地を歌った曲を、マオはルージュを引いた唇に乗せた。