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リアクション
第六話 わたし、許せません
「っ! 羽純くん!」
「ああ!」
どこからか飛んできた瘴気に、二人はいち早く反応した。身を屈め、口元を抑える。
「これ……」
「一体!?」
弾はアゾートをかばう。
「ロゼ!」
「そうだね……周りの人の安全を確保しよう!」
ロゼとシンは頷きあって走り出す。
「大丈夫ですよ、こっちに来て!」
風花はウサギと客の、両方をかばった。
「アリス……」
ハーサンも立ち上がり、離れのほうを見つめる。
「なんだってんだ!?」
モニタールームから荒神も飛び出し、
「く……強い瘴気であります! みなさん、こちらへ!」
「落ち着くんだ。大丈夫。心配はいらない」
吹雪とハイコドも、客の避難に追われる。
お化け屋敷は、大騒ぎだった。黒い空気が、お化け屋敷をも覆う。昼だというのに、空は真っ黒に染まった。
「イリアさん……なの?」
さゆみは黒い塊に向かって問う。
黒い塊は離れを突き破るほど巨大化していた。皆はすでに離れから避難しており、外で黒い塊と……イリアと対峙している。
「元々幽霊だからな! 強い負の感情で、悪霊化したんだ!」
竜斗が叫んだ。
「そんな……」
ルカルカがイリアだったものを前に言う。
「イリア!」
「イリア様!」
レオーナとクレアも叫ぶが、声が聞こえている様子はない。巨体から瘴気を伴った黒い煙が吐き出され、周囲を黒く覆う。
「ダメです……もう声は届きません!」
アリスが身構えて口にした。
「じゃあ、どうするんですか!?」
ユリナが竜斗に掴まりながら叫ぶ。
「……倒すしかない!」
陽一が叫んだ。
「この瘴気、このままにしておくのは危険だ! 声が聞こえない以上、倒すほかない!」
「そんなの……」
さゆみは一歩前に出た。
「ねえイリア! あなた、ご主人様を待つんでしょ! 待ってるんでしょ! そんな姿でいたら……ご主人様は、帰ってこないわよ!」
さゆみがそう言って叫ぶが、彼女の肩にダリルが手を置いて、少しだけ大きな声で言った。
「ご主人様は……もう帰ってこないんだ」
「え……」
「死んでるんだよ……もう。発掘現場の事故で。彼女はそれを、知ってしまった」
ダリルはさゆみよりも前に出て、銃を構えた。
「倒すしかない!」
「……そうね」
シェヘラザードも一歩踏み出す。
「楽にしてあげましょう。彼女を」
真剣な表情で、呟く。彼らはそれぞれ複雑な表情を浮かべ、身構えた。
「【裁きの光】!」
「メルトバスター!」
エースはスキルを使って、エオリアは二丁拳銃でイリアを撃つ。
「イリア……【レジェンドストライク】!」
「正気に戻れえ!」
ルカルカとダリルも、銃とスキルで攻撃し、
「【ダブルインペイル】with ゴボウ! ShowTimeならぬ、ShowTen!」
「イリア様……【バニッシュ】!」
レオーナはなぜかごぼうで物理攻撃を、クレアはスキルを使って攻撃をする。
「竜斗さん! 【サイコキネシス】!」
「めんどい、竜、任せた」
「頑張ってねぇ」
「あいよ! うおおぉぉ! 【煉・獄・斬】!」
竜斗はユリナの念力で高く飛び上がり、攻撃を仕掛ける。
「イリア……止まって! 【爆炎波】!」
「光よ……飛べぇ!」
アリスと陽一も、スキルを使って攻撃をする。
「いかずちよ……」
アデリーヌも、攻撃を仕掛けた。
「イリア……」
さゆみは総員の一斉攻撃を受け、悲鳴を上げるイリアに向かい、透き通った声で歌を響かせた。彼女のスキル、【幸せの歌】で、味方の抵抗力を強め、かつ、イリアの心に声を届かせる。
(お願い届いて……イリア!)
歌声に乗せて秘めた思いが、彼女の心を震わせる。
彼女の話してくれた些細な話。
嬉しかったこと。楽しかったこと。
ご主人様が優しかったこと。
ご主人様と一緒にいられて、幸せだったこと。
(あなたは……闇に染まっちゃいけない。だから、届いて!)
『ご主人……様ぁ』
声が聞こえたような気がした。いつの間にか、皆の攻撃は止んでいた。
真っ黒な塊は苦しそうに悶え、暴れ、そして、叫ぶ。
「っ!」
その隙をシェヘラザードは逃さなかった。彼女の闇のスキル、【ベトリファイ】を使って動きを抑え、そして、手のひらに力を込める。
やがて、彼女の手のひらから溢れる黒い光がイリアを包み込み、イリアの巨大な体はシェヘラザードの手のひらに吸い込まれて消えていった。辺りを覆っていた黒い雲が、一斉に晴れた。
「……やった、の?」
ルカルカが聞く。
「……ええ」
シェヘラザードは手を下ろし、振り返ってそう頷いた。
その言葉に、安堵の息はもれない。重たい空気が、辺りを包んだ。
「きっと、彼女はご主人様に会えたんだよ」
陽一が少し明るめの声でそう叫ぶ。
「……そうですよね。きっと、きっと天国で、一緒になれましたよね、……ぐすっ」
ユリナが涙をこらえて言った。竜斗が、彼女の肩に手を載せた。
「イリア君……安らかに眠たまえ」
エースが屋敷の入口に、再び花を手向ける。
「シェヘラザード、その人形……」
さゆみがシェヘラザードがなにかを握っていることに気づいた。人の形の、小さな人形だ。
「ああこれ。地下室にあったの。調べようと思って」
シェヘラザードは慌てて隠してからそう言った。
が、さゆみは見逃さなかった。その人形が、わずかにだが声を発したことを。ちゃんとその言葉を、彼女は聞いた。
「シェヘラザード……」
「なによ、なんでもないわよ。調査のためなんだから!」
さゆみはちょっとだけ嬉しそうにシェヘラザードに駆け寄って、笑った。
『みなさん、ありがとうございます』
人形は確かに、そう、声に出していた。
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