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平行世界からの贈り物

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平行世界からの贈り物
平行世界からの贈り物 平行世界からの贈り物

リアクション

「どのような映像か気になるね」
「はい。お茶を飲みながら楽しみましょう。栗羊かんと干し柿もありますわ」
 双子に呼び出された涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)ミリィ・フォレスト(みりぃ・ふぉれすと)は濃いめのお茶を飲みながら団子の他、持参した栗羊かんと干し柿を食べながら上映会を楽しむ事に。

 ■■■

 夕方、フォレスト家。

「涼香さん、今日はどうでしたか?」
「問題無かったよ。それより、ミリアムさんのカフェの方はどうだった?」
 夫の作った料理を楽しみながら夫婦は今日一日の出来事を振り返っていた。分かる通り涼香は涼介、ミリアムはミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)。性別が逆転してしまっているが仲良し夫婦なのは変わりなし。
「繁盛ですよ。以前、涼香さんが考案したデザートが大人気で」
 カフェテリアを経営するミリアムは食事をしながら賑やかだった今日一日を振り返っていた。
「それは良かった。外に行ってばかりでミリアムさんのカフェや家の事とかあまり手伝えなくてごめんね」
 涼香は申し訳なそうに言った。知的な現実とは違い活発で行動的な涼香は毎日遺跡探索のフィールドワークをメインに活動しているためミリアムの側にいる事が少ないのだ。
「そんな事、気にする事ありませんよ。涼香さんが自分のやりたい事をしている姿を見るのが好きですから」
 ミリアムは全く気にしておらず涼香の事をよく理解し、持ち前の包容力で受け入れていた。
「……本当にミリアムさんにはやられるよ。でもそれじゃ甘えてばかりだから、明日は必ず手伝うよ」
 涼香は溜息をついて毎回頼りになる旦那に甘えてばかりだと反省した。
「明日はイルミンスールの魔法洞窟の中の遺跡探索があると言っていませんでしたか」
 ふとミリアムは以前聞いた予定を思い出し、聞き返した。
「そうだけど。予定を後ろにすればいいから、後ろが忙しくなるとか気にしなくていいからね……ごちそうさま、美味しかったよ」
 何としてでも日頃のお返しをしたい涼香はミリアムが気にするだろう事を先回りして言った。これで上手く行くと思いながら。
「お粗末様です。それじゃ……」
 ミリアムは明日の事については何も反論せず、キッチンに引っ込み冷蔵庫から冷たいスイーツが載った皿を手に戻って来た。
 そして、涼香の前に皿を置いた。
「……食後のデザート? それとも新作の試作品?」
 自分の目の前にあるスイーツを不思議そうに眺めた後、向かいに座るミリアムに訊ねた。
「新作の試作です。明日の予定を早めて貰おうかと思いまして」
 ミリアムはフォークを差し出して涼香に味見を勧める。つまり、明日涼香に遺跡探索に行って貰うためだ。どこまでもミリアムは涼香を気遣う。
「……ミリアムさんにはかなわないよ。いいよ、味見する」
 ミリアムの気遣いを知った涼香は苦笑を浮かべた後、フォークを受け取り味見を始めた。
 そして、その感想は
「……うん、美味しいよ。もう少しフルーツを加えて華やかにしたらどうかな?」
 という物だった。こちらの涼介も現実と同じく料理と魔法の腕は良い。
「いいですね。さすが、涼香さん」
 とミリアム。毎回カフェテリアの新作を出す時は必ず涼香の意見を取り入れている。
「それじゃ、早速試作品を作ろうか。今日は前倒しで手伝いの日だからね」
 そう言うなり『調理』を有する涼香は新たな試作を作るためキッチンに向かった。
「手伝いますよ」
 ミリアムも急いで手伝いに加わった。
 この日の夜、二人は仲良く料理をして楽しんだ。

 ■■■

 鑑賞後。
「平行世界ではお父様がお母様でお母様がお父様でしたね。少し混乱しそうでしたけどお父様とお母様がどの世界でも仲が良くて嬉しいです」
 最初は性別逆転で混乱しそうになっていたが、両親の仲の良い姿に微笑ましさや羨望を感じていた。
「あの姿を見ると昔実験に失敗した時を思い出すよ。それより、現実世界でもあそこまでミリアさんに甘えているかな。自覚が無いだけで」
 涼介は見覚えのある姿やミリアに甘える様子に軽く苦笑していた。
 その時、
「俺達と同じ系統の平行世界じゃん」
「結構、美人だけど、オレ達の方が上だな」
 近くのテーブルの双子がカラカラと声を立てて笑っていた。
 そこで涼介は
「二人共、言っておくけどこの映像をネタに冷やかすのだけは勘弁な」
 双子に言い含んだ。口止めをしておかなければ、何かやりそうなので。
「分かってるって」
「大丈夫だって」
 双子は親指を立てて応えた。
「もし、冷やかした場合は自分に任せるでありますよ!」
 双子の背後で監視役をする吹雪が言葉を挟んだ。双子にとっては不穏この上無い。
「まだ何もしてねぇだろ」
「任せるって何する気だよ」
 双子は勢いよく振り向き、吹雪をこわごわと見た。
「……あの二人が大人しければ何も問題無いかな」
「相変わらずですわね」
 見慣れた怯えぶりにとりあえず安心する涼介と手練れの監視者達に囲まれる双子を微笑ましそうに眺めるミリィ。
 この後は、楽しく他の人の映像を楽しんでいた。

 招待を受けたリネン・エルフト(りねん・えるふと)はタシガンの珈琲の差し入れを主催者であるエリザベート達や双子に渡してから近くの席に着いた。
「……一体どんな映像なのかしら」
 踏んだ場数のせいか妙に落ち着いた様子でリネンは上映会を楽しむのだった。

 ■■■

 夕方。ロスヴァイセ家の一室。

「今日は御馳走ね。リネン、実は……」
 外から帰って来たフリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)は目の前に広がる光景に驚いた後、用事を切り出そうとする。
 しかし、
「お姉ちゃん、お誕生日おめでとう!!」
 火が付いた蝋燭が立ったケーキを両手に持ったメイド姿が愛らしいリネン・ロスヴァイセが現れ用事は中断された。こちらのリネンは、犯罪組織にシャンバラへ売り飛ばされるところをフリューネが救い、身元不明だったためロスヴァイセ家で引き取り今はフリューネの義妹的な存在として毎日フリューネの世話を焼く明るい普通の女の子だ。
「ありがとう。そう言えばそうだったわね」
 フリューネは忘れていた自分の誕生日を思い出した。何せ、一匹狼の義賊空賊として支援がほとんど無い中、忙しく駆け回っているので忘れても仕方が無い。
「ほら、お姉ちゃん、お願い事をして火を消して!」
「えぇ」
 フリューネはリネンに促されるままお願い事をして蝋燭の火を消した。
「お願い事はした?」
「したわ。これからもみんなが幸せでありますようにって」
 確認するリネンにフリューネは笑顔でお願い事の内容を教えた。
「すぐにケーキを切り分けるね。料理の方、少し作り過ぎたけど大丈夫?」
 リネンはケーキを運びながら言った。フリューネに褒められた物を全て作ったのでテーブルは凄い事になっている。
「とても空腹だから問題無いわ」
 フリューネは軽くお腹に手を当てながら笑顔。誰かに祝ってくれる事が嬉しくて堪らない様子。
 そして温かな誕生日会が始まった。

 リネンが切り分けたケーキをフリューネの前に置いた時、
「リネンにこれを渡したいんだけど」
 中断された用事を済ますためフリューネは小さな紙袋を取り出し、リネンに差し出した。
 受け取り中身を確認した途端、
「……可愛い匂い袋。とても落ち着く香りだけど。どうして私に?」
 リネンはフリューネのサプライズに嬉しくなるも貰う心当たりが無いため小首を傾げた。
「怖い夢を見た時に役に立てばと思って」
 いつも明るいリネンだがもしかしたら過去の事で悪夢を見たりしているのではと勝手ながら心配したフリューネの気遣いからのプレゼント。
「ありがとう。大切にするね。私からのプレゼントは……」
 リネンはフリューネの背後に移動し、隠していたプレゼントを披露。
「……これは……」
 フリューネはリネンに付けて貰った自分の誕生石が埋め込まれたペンダントに驚きと嬉しさの目を注ぎながら軽く宝石に触れた。
「お姉ちゃんが無事に戻って来ますようにとお願いしたお守りだよ。家では私に心配させまいと空賊の活動中にあった危険な話とかしないけど。大変だっていうのは分かるから」
 リネンはフリューネの胸元に輝くペンダントを見て大満足。
「ありがとう、大切にするわ。どんな時でも必ずここに戻って来るから」
 フリューネは嬉さのあまり瞳を潤ませ、世界で一番の幸せ者だと感じていた。
「絶対にね。さぁ、お姉ちゃん、何が食べたい?」
 リネンは満面の笑みでフリューネに訊ねた。

 ■■■

 鑑賞後。
「……幸せそうだけど、恋人じゃなくて家族……妹なんだ」
 フリューネに恋するリネンとしてはとても複雑であった。