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今日はハロウィン2023

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今日はハロウィン2023
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リアクション

「折角のお忍びですからこれを使いませんか?」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は少しでも息抜きして貰えればと誘った金 鋭峰(じん・るいふぉん)羅 英照(ろー・いんざお)にハロウィンサブレを差し出した。
「確か、姿を変えるハロウィンサブレとか」
「そうです。姿を変えておけば誰もお二人の正体に気づかないかな……なーんて?」
 ハロウィンサブレを確認する英照にルカルカは軽くハロウィンサブレ使用を勧める。
「……ハロウィンにこの姿は確かに無粋だな」
「では、ジン、使用するか」
 鋭峰と英照はハロウィンサブレを受け取り、使用した。
 先に使用したのは鋭峰で続いて英照、ルカルカ達だった。
 そして、登場するは威風堂々な魔王鋭峰、魔王の参謀英照と魔王の左右を守護する魔族の騎士であるルカルカ達。鋭峰の影響か皆凛々しさに満ちていた。
「変身も完了したところで今日はお二人を何と呼んだらいいですか?」
「好きなように呼んでくれて構わない。そもそもお忍びである故敬語も無用だ」
 ルカルカはお忍びである事を思い出して訊ねると鋭峰が代表してあっさりと答えた。
「それじゃ…… ジン、ロー、ハッピーハロウィン!」
 ルカルカは改めてハロウィンの挨拶を鋭峰達に送った。
 ここで
「陽気なのはいいが、元々何の行事か知ってるんだろうな」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の鋭いツッコミ。
「えっと……まぁ、細かい事は気にしない、気にしない」
 ルカルカはしばし考えるも思いつかず脳天気な笑顔を答えとした。
 ルカルカに溜息をついた後、
「……しかし、団ち……ジンは何を着ても目立ちま……目立つな」
ダリルは敬語になりがちそうになりながら鋭峰の姿に感想を洩らした。
 そんなダリルの様子に軽く笑いを浮かべながら
「……端から見たらおそらく怪しい魔族の一団だろうな」
 鋭峰は周囲を見回しながら答えた。
「しかし、いつも身に付けている物が消えると違和感を感じるものだな」
 英照はいつもしているサイバーゴーグルが消えた事が気になるらしく軽く目に触れていた。昔は裸眼であったが、現在ではサイバーゴーグルは体の一部に近い存在。
「どうだ、久しぶりに何も通さずに景色を見た感想は」
「おかしな気分だが、悪くはないな。まさか、この展開になるとは思わなかったが」
 訊ねる鋭峰に英照は目に触れていた手を離し、広がる風景を一通り生身の目に入れてから素直な感想を口にした。
「確かに私も君の瞳をまた見られるとは思わなかった」
 鋭峰はずっと前に見たきりであった英照の黒色の瞳を懐かしそうに見ていた。
「……身体の方には何か異常はないか(目は黒か。ブラックダイヤのように印象的だな)」
 ダリルは英照の目の色を確認しながら体調を気遣った。何せハロウィンサブレの製作者がやり過ぎで定評のある双子なのでおかしな事が起きても不思議はない。
「ないな。サブレはなかなかの物だ」
 英照は即答し、物理的に外れないゴーグルを消したハロウィンサブレの力を褒めた。
「それはここだけの言葉にね。製作者の耳に入ると調子に乗るから」
 ルカルカはきょろりと周囲を確認した後、口元に人差し指を立てながら釘を刺した。
「気を付けよう」
 英照はルカルカの双子の警戒ぶりに笑いを含めながら約束した。
 この後、四人はとりあえず街をぶらついてみる事にした。
 その途中で警備に精を出す知り合いに会う事に。

「ハロウィンで賑やかね。あぁ、私も団長とあんな感じになれたらいいのに」
 董 蓮華(ただす・れんげ)は買い食いをしながら仲の良い恋人を見かける度に恋する鋭峰と自分を重ねては溜息。
 すぐに蓮華は頭を振って邪念を追い払い
「今はそんな事よりも仕事を頑張らなきゃ」
 と自分を叱咤する。実は、屋台巡りや買い物をしてはいるが、本日は警備の仕事で来ているのだ。祭りだと必ずスリや迷子があるものなので。
 しかし、すぐに溜息を洩らして考えるのは、
「……とは言っても今頃、団長は何をしているのかしら」
 鋭峰の事。それでも周囲の警備は怠らず抜かりなく目を動かしている。
 その時、
「……い、今、団長にそっくりな人が」
 離れた通りの人混みにちらりと見知った姿を目の端にとらえた。
「そんはずはないわ。董蓮華、しっかり、ただの見間違いよ。これは恋の不具合」
 まさかの幸運など信じられず蓮華は目をこすり、もう一度確認。
 すると変わらず鋭峰達やルカルカ達が歩いている姿が目に映る。
「……消えていない……という事は、本物。嘘、どうして……姿を変えているという事は内密の任務? とにかく行ってみなきゃ」
 蓮華は手に持っていたお菓子を一気に片付けてから後を追った。
 そして、追いつくなり
「あの、何か内密の任務ですか?」
 蓮華は小さな声で呼び止めた。嬉しい幸運にドキドキしながら。
「いや、二人に誘われてな」
 鋭峰はルカルカ達にあごをしゃくった。
「そうですか。あ、私は警備の仕事でこちらに来たんです。皆が楽しくハロウィンできたらいいなと思いまして」
 蓮華はルカルカ達を確かめて納得し微笑を浮かべながら自分がここにいる事情も話した。
 その時、
「ハッピーハロウィン!」
 陽気な双子の声が割って入って来た。リアルな体パンにびっくりした後なのに相変わらずの立ち直りのはやさ。
「ダリル、来たよ」
「やはり来たか」
 ルカルカとダリルはすでに予測済み。
「おわっ、何か変な団体がいると思ったら」
「マジかよ。なんでハロウィンにも会うんだよ」
 ルカルカ達を確認した途端、双子は瞬時にこわごわとした表情に変わった。
「それはこっちの台詞だ」
「心配しなくとも今日のルカ達は寛容だから。あ、でもこの二人に迷惑を掛けるのは禁止だよ」
 呆れの溜息を吐くダリルと双子に対しては珍しい寛容さを見せるルカルカ。ただし鋭峰達に迷惑掛けるのは禁止だが。

「ふーん、何で普通の格好のままの奴がいるんだよ」
「ほら、早く変身しろよ。盛り上がらないだろー」
 訝しながらも納得した双子は変身していない蓮華に気付き、キスミがハロウィンサブレを差し出した。
「ありがとう。というか、これがサブレね(団長が魔王ならドレス姿になりたいな)」
 受け取った蓮華は鋭峰に合わせた姿になりたいと思いながら食した。
 そして、蓮華は希望通りのドレスをまとった魔族に変身した。
「……えと、どうでしょうか? おかしくありませんか?」
 蓮華はドレスの裾を翻し頬を染めながらおずおずと鋭峰に訊ねた。
「いいや、ハロウィンに相応しい姿だ」
 鋭峰は彼らしい言葉で蓮華を褒めた。他から見ればもう少し飾った言葉を使えばいいのにと思うだろうが、彼を知り好いている蓮華にとっては十分思いが伝わる言葉。
 そのため
「……あ、ありがとうございます」
 蓮華はますます頬を染めて恥ずかしそうに言った。ますます鼓動が速くなる。
 蓮華の変身が完了したところで
「みんなハロウィンになった所で……」
「悪戯をするぞ。本日寛容と聞いたらやらないわけにはいかないからな」
 双子は耳栓をするなりキスミが何やら球体を取り出して地面に叩き付けた。
 途端、ホラーチックな音楽がここ一帯を包んだ。
「この音楽は一体」
「体が勝手に動くしこの場から離れられないよ。ここにいる人達踊り出したよ」
 悪戯を身に感じる英照とルカルカ。
「悪戯成功。音が消えるまでここから離れられないし踊り続けるぞ」
「オレが作った悪戯をご賞味あれという事で」
 耳栓をして無事である双子は悪戯の出来にご満悦。
「ハッピーハロウィン!!」
 ハロウィンの挨拶を残して双子は去った。

「あの二人行ったよ。というかダリル凄い踊りっぷりなんだけど」
 双子を見送ったルカルカはダリルの見事なブレイクダンスに笑う。
「そう言うお前はどうなんだ」
 ダリルは抜かりなくツッコミを入れる。
「ルカ達は盆踊りだね。しかも季節外れで曲はホラーだし。後は……」
 ルカルカは英照と共に盆踊りを披露している。残るは蓮華と鋭峰だが。
「あそこで素敵なワルツを踊っているな」
 英照は何やら自分達とは違う空間が広がる二人の様子を見ていた。
「これが終わったら俺達はしばらく退散だな」
 ダリルは蓮華の事を考え退散の提案を出した。
「えー」
 ルカルカはつまらなそうな声を上げた。
「ルカ、覗きは禁止だ」
「はいはい……ヨヨイノサー」
 ダリルの言葉にルカルカは覗きを諦めた。
「魔族の一団がこんな状態というのは端から見ればさぞ滑稽だろうな」
 英照は現在の自分達の状況に皮肉な笑みを浮かべた。台詞は冷静そのものだが、動きはとても賑やかである。
「そうだな。今日中に収まればいいが」
 ダリルが気になるのは今日中に悪戯が終わるかどうか。
「ダリル、不吉な事言わない」
 楽しく踊らされているルカルカの鋭い言葉が飛び交う。
「その場合は誰か通りすがりに助けを呼ぶしかないな。通りすがりがいればだが」
 英照も冷静に万が一の対策を考え始めるのだった。

 一方、蓮華達は。
「…………(まさか、こんな展開になるなんて……ど、どうしよう心臓が破裂しそう……しかも団長がこんなに近くにいて……手を取って踊っているなんて……心臓の音聞かれてるんじゃ……)」
 蓮華は緊張で真っ赤になるわ喉が乾き鼓動は速くなるわで大変な状態である。しかも鋭峰が自分の想いを周知済みなので尚更だ。幸いなのは踊らせれているおかげでステップを間違える必要が無い事。
「あ、あの、団長、すみません」
 勇気を出した蓮華が口にしたのは謝りの言葉。
「いや、君が謝る事はない。被害者なのだから」
 鋭峰はいつもと変わらぬ平坦な口調で答えた。
「いえ、そういう事ではなくて相手が私で……その不愉快な思いをしているのではと」
 蓮華が謝りたかったのは鋭峰の手を取っているのが自分であるという事。自分は天にも昇る気持ちだが鋭峰も同じとは限らないから。
「無用の気遣いだ。不愉快があるとすればこの音楽だけだ」
 鋭峰が不愉快なのは流れるワルツに合わぬ音楽だけ。蓮華の事など一片も不愉快などとは感じていない。
「そうですね。もっと、幻想的な音楽の方がいいですよね(……無用って事は嫌じゃないって事よね……あぁ、このままこの時が続けばいいのに)」
 蓮華は鋭峰と話をしながらも顔と胸中は大火事であった。
 これから数分後、無事に音楽は静まり、皆悪戯から解放された。ダリルの提案により二手に分かれての行動となった。ルカルカ達三人は、ホラーカフェで一息つき、蓮華と鋭峰を二人きりにする事に。