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リアクション
『エントリーナンバー16、エール・ド・レーヴ!!』
欧州のクラシカルな民族衣装風な蓮見 朱里(はすみ・しゅり)とアイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)が登場すると、大きな拍手が送られた。
『今日はどんなことを観客の皆さんに伝えたいと思っていますか?』
「大切な人への想いや幸せを願うことを、歌を通じて伝えたいと思っているわ」
「夢と希望という想い(ちから)を人々に与えるつもり、かな?」
朱里とアイビスのそれぞれの言葉に、エンジュは静かに納得したように頷いた。
『フランス語で「夢の翼」の意を持つユニット名、エール・ド・レーヴ。本日はどのような夢を見せてくれるのでしょうか』
紹介と質問を受けている朱里とアイビスの様子を、アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)と榊 朝斗(さかき・あさと)が、舞台袖から見ていた。
朝斗とアインは、二人がコンテストに参加するにあたって、様々な面でサポートをしてきた。
アインは、芸能プロデューサー「速見正悟」と共に、舞台演出等に関して関係者と打ち合わせを行った。審査員や観客に配るパンフレットについても何度も打ち合わせ、念入りに準備してきたのだ。
一方の朝斗は、衣装や機材配置を会場スタッフと打ち合わせてきた。コンテストでトラブルが起きないよう、朝斗とアインたちは最善を尽くしている。
先ほどまでも、アインはステージを前にした朱里の緊張を解きほぐすために簡単な紅茶とお菓子を用意していた。少しでもリラックスして本番を迎えてほしいという想いからだ。
こうした地道な努力を重ね、朱里とアイビスは万全のステージに挑んだのだ。
「それでは、聞いて下さい……」
朱里の声が途切れると同時に、ヒーリング系の曲が流れる。ソプラノを基調としたデュエットだ。朱里とアイビスは正統派の癒し系の歌姫らしい歌声を響かせる。
寄せては返す波のように。風にそよぐ草木のように。朝にさえずる小鳥のように。二人の重なり合う旋律が生み出すハーモニーが、皆の心に癒しと安らぎを運んでいく。
私は希望の空になる、そして恵みの雨を降らせよう
私は豊かな大地になる、そして実りの花を咲かせよう
小鳥たちは大空を舞い
子供たちは草原を駆け
この思いは胸を溢れて 歌声は風にこだまする
共に手を取り合い、歌声を重ねよう
触れ合う手の温もり、すぐそばにある幸せ
巡り巡る全ての命に
祝福の光よ、降り注げ
この地に生きる人々に、
愛する貴方に
永久の幸せを……
朱里のパフォーマンスは、観客の心を躍らせ、癒しと幸せの感覚を皆に共有させるようで、アイビスの歌はどこか懐かしい感じで、大切な人を想う気持ちを思い出してくれるようだった。
二人のパフォーマンスには、歌以外に特別なパフォーマンスがあるわけではない。だが、二人の歌は幸せを願う心……愛を感じさせた。
その愛が皆を幸せにする。誰の心にもある、大切な人を思う気持ちを思い出して共感できるようなパフォーマンスだった。
アイビスはまた、朱里に対しても強く感謝の気持ちを抱いていた。
アイビスをこのコンテストに誘ってくれたのは、朱里だった。だからこそ、朱里と共に歌い、最後まで頑張っていこう、という気持ちでいたのだ。その想いは、パフォーマンスにも強く現れていた。
曲が鳴り止むと、会場は割れんばかりの歓声に包まれた。朱里とアイビスは、全てをやりきったように晴れ晴れとした表情で会場を見回していた。
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