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学生たちの休日12

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    ★    ★    ★

「すまないな、予算がなくて……」
「……あの、無理しなくともいいんですよ」
 しきりにすまなそうに謝る新風 燕馬(にいかぜ・えんま)に、気にしないでくださいとサツキ・シャルフリヒター(さつき・しゃるふりひたー)が言いました。
 実際にはパーティーに充分な予算を用意していたのですが、リューグナー・ベトルーガー(りゅーぐなー・べとるーがー)フィーア・レーヴェンツァーン(ふぃーあ・れーう゛ぇんつぁーん)が、その全てを持ってとんずらしてしまったのです。
 おかげで、サツキ・シャルフリヒターのバースディパーティーの予算がなくなってしまったわけですが、なんとか、引き出しの奥底からカフェ・ディオニウスのコーヒー券を発掘したのでした。今は、それに頼るしかありません。
「いらっしゃいませー」
 カフェ・ディオニウスに着いてみると、さすがにクリスマスですから店内は結構混んでいます。
 一応席は予約していたので大丈夫ですが、せわしなく店内を動き回っている三姉妹を見て、ちょっと新風燕馬が顔を顰めました。
「いけない、これではいけない……。なあ、サツキ、ちょっと待っててくれ。いや、注文してくるだけだから」
 そう言うと、新風燕馬がトレーネ・ディオニウス(とれーね・でぃおにうす)を手招きして、店の奥へと消えていきました。いったい、三姉妹の何がいけなかったというのでしょうか。
 しばらくして、トレーネ・ディオニウスがシェリエ・ディオニウス(しぇりえ・でぃおにうす)パフューム・ディオニウス(ぱふゅーむ・でぃおにうす)を手招きします。
「何かしら、ちょっとごめんなさいね」
「すぐに戻ってくるのでしょ?」
 カウンターに陣どってうっとりとシェリエ・ディオニウスを見つめていたフェイ・カーライズ(ふぇい・かーらいど)が、ちょっと心細そうな目で訊ねました。
「大丈夫、すぐに戻ってきますから」
 職場放棄はしませんよと、仕事モードのシェリエ・ディオニウスが答えました。
 せっかく匿名 某(とくな・なにがし)をほったらかしてやってきたというのに、変な男のせいで二人っきりの時間を邪魔されるのは心外だと、フェイ・カーライズが、シェリエ・ディオニウスたちと共に新風燕馬が消えた奥の方を知らず知らずに睨みつけました。店内にお客さんはたくさんいるのですが、フェイ・カーライズの目にはシェリエ・ディオニウスしか映っていません。だから、今は二人っきりの時間のはずでした。ですので、突然視界に割り込んできた新風燕馬は異物でしかありません。
「まさか、あの男、シェリエに気があるんじゃ……」
 なんだか、とんでもない妄想にかられてフェイ・カーライズが顔を引きつらせました。
 とにかく、フェイ・カーライズにとってシェリエ・ディオニウスは特別なのです。そんな彼女を、巷の野郎共が放っておくわけがありません。否、放っておくなんて馬鹿です。きっと、シェリエ・ディオニウスに気のある男はいるでしょうし、アプローチをかけてきているはずです。ぜひとも、そういう不逞の輩は排除しなければなりません。
 フェイ・カーライズは男は嫌いですが、もしも自分が男であったならば、迷わずシェリエ・ディオニウスにプロポーズするでしょう。いえ、女のままでも。別に同性だっていいではないですか。いつか、いつかは……、そう、答えを出さなければいけないのかもしれません。
 そんなことをつらつらと考えていると、新風燕馬たちと共にシェリエ・ディオニウスが戻ってきました。
「そ、その衣装は……」
 思わず、フェイ・カーライズがカウンターから身を乗り出しました。
 戻ってきたシェリエ・ディオニウスたちは、一様にミニスカサンタのコスチュームをしていたからです。
「どうしたの、その格好!?」
 さすがに問い質さずにはいられません。
「ええと、これも営業かな。まあ、お客さんにしか見せる人もいないことだし、たまにはいいかなあって。それと、ほら、始まるわよ」
 シェリエ・ディオニウスが言うと、ほどなくして店内に誕生日おめでとうコールが響き渡りました。
 ブッシュドノエルとコーヒーがおかれたシンプルなテーブルの周りで、ミニスカサンタ姿のトレーネ・ディオニウスとパフューム・ディオニウスと、なぜか同じコスチュームを着た新風燕馬がクラッカーを鳴らしています。思いもかけなかった三姉妹のサービスに、お客さんたちもノリノリで、ついでにサツキ・シャルフリヒターの誕生日を祝ってくれました。
「どうだ、嬉しいか。よければ、お触りもオッケーだぞ」
 矯正下着で気持ち悪いくらいボンキュッボン体形になった新風燕馬が、フェイクバストを仕込んだ豊かな胸を寄せて谷間を見せつけながらサツキ・シャルフリヒターに言いました。ほとんど、いえ、完全変態です。
「あの、私は……いえ、ありがとうございます」
 さすがに同性の胸を揉む趣味はない、いや、それ以前に異性の偽乳を揉む趣味はないと言いかけて、形はどうであれ、これも新風燕馬のお祝いの気持ちなのだと諦め――納得するサツキ・シャルフリヒターでした。

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「これはまた、懐かしい顔を見る。お互い、生きていた……いや、私の方は、当てはまらないか」
 前触れもなく古城に訪れた客を見て、ストゥ伯爵が言いました。
「まあ、今のこの城の主たちがいなくて、幸いだった……というところか。なあ、カン・ゼよ」
「それに関しては、時を見てやってきたつもりだが。それと、今は散楽の翁と呼ばれている」
 ストゥ伯爵に呼ばれて、そう散楽の翁が答えました。
「それに、供回りの者は、ちゃんと連れているのでね」
 散楽の翁がそう言うと、その後ろにスッと四人の剣の花嫁たちが現れました。巫女の白衣に紫袴を着たアマオト・アオイ、大正風の矢絣の小袖に紫袴姿のタイオン・ムネメ、ゆったりとした薄手のドレスを纏ったシンロン・エウテルペ、小柄で愛らしい姿のパイフ・エラトという面々です。
「それにしても、ポータラカ人は歳をとらんな」
 陰陽師姿の若者にしか見えない散楽の翁をしみじみと見て、ストゥ伯爵が言いました。翁と言う名とは違って、ずいぶんと若い姿です。
「あなたの現し身は、相応の姿を選んでいるようだが」
「今の私は、アストラルミストを固定して作った現し身に入り込んでいるナラカ人みたいなものだからな。ナラカに堕ちる直前が基本となるのは仕方ないさ。ところで、昔話をしに来たわけではないだろう?」
「あれから、アストラルミストが、どの程度進歩したのか確認しに来た……では理由にならんか」
「まあ、そういうことにしておこうか。もっとも、アストラルミストは、今も枯れたままだがな。ここの住人に黒蓮を全て使われてしまったので、一から栽培しなおしているという段階だ。もし、それが目当てであったのなら、残念だったな」
 カラカラとストゥ伯爵が笑いました。
「いや、あなたを見てよく分かった。固定するには、もっと純粋な素材が必要だな。アストラルミストでは、生物系に特化しすぎている」
 充分に情報は手に入れたと、散楽の翁がクルリと踵を返しました。
「どこへ帰るつもりだ。すでにポータラカはないというのに。おかげで、パラミタ大陸を取り巻く気流も、また大荒れだがな。の巣もどうなっていることやら……」
「……葦原島へ。今はそこに住んでいる。気がむいたら一人でやってくるがいい、昔のよしみとして、茶の一杯でも出してさしあげよう」
 一度だけ振り返って、散楽の翁がストゥ伯爵に言いました。そのまま、歩み去っていきます。パイフ・エラトがぺこりとお辞儀をすると、その後を追いかけていきました。