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リアクション
★ ★ ★
「それじゃあ、よろしくお願いね」
「ああ、こちらこそよろしく」
海京沖で、柊 真司(ひいらぎ・しんじ)とメイ・ディ・コスプレ(めい・でぃこすぷれ)が、挨拶を交わしました。
これから、ゴスホークとダスティシンデレラver.2で模擬戦を行おうというのです。
目的は、それぞれBMIインターフェースの訓練でした。
今までの訓練で80%までしかシンクロできなかった柊真司としては、100%を目指しつつも、それが達成できないのであれば、持続時間の延長を目指すつもりです。
対するメイ・ディ・コスプレの方は、BMI2.0に慣れることが目的です。BMI2.0はシンクロ率が上がったのと引き替えに、肉体へのフィードバックが大きく、稼働時間はむしろ短縮しています。それを、なるべく延長するのが目的でした。
「まずは、50%からだ」
「了解です」
柊真司に言われて、ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)がゴスホークとのシンクロを開始しました。
「こちらも、シンクロ開始するよ」
「了解だよ。でも、気をつけてね」
なんだかイケイケのメイ・ディ・コスプレに、マイ・ディ・コスプレ(まい・でぃこすぷれ)が釘を刺しました。
放っておくと、なんだかどんどん脳筋になっていくようで心配なのです。
せっかく、ダスティシンデレラもバージョンアップしたというのに、肝心のメイ・ディ・コスプレの方は、サクシードに覚醒したとはいえ、そのレベルはまだまだひよっこなのですから。
だいたいにして、初期の武装設定にレーザービットを指定しているぐらい間が抜けていますので。ダスティシンデレラもBMI2.0を搭載しましたので、遠隔コントロール武装はブレードビットでないと対応していません。こっそりと武器を換装する身にもなってほしいものです。
「大丈夫。メイちゃんは、お姉ちゃんが守るからね」
そんなマイ・ディ・コスプレの言葉が聞こえているのか、メイ・ディ・コスプレがゴスホークに突っ込んでいきました。
それを、自然な姿でゴスホークが身を翻して避けます。そのまま素早く振り返ると、出力を押さえたプラズマライフルで狙撃しました。
「はうっ!」
つんのめるようにして、ダスティシンデレラが派手な水飛沫を上げて海に落ちたように見えました。
「ミラージュか。ヴェルリア、シンクロ率アップだ!」
即座に、ゴスホークが横に回避運動をとりました。そこを、ダスティシンデレラのブレードビットが通りすぎます。
「戻って!」
メイ・ディ・コスプレがブレードビットを即座に呼び戻しますが、その視界を一面の霧が覆い隠しました。ホワイトアウトです。
「私だってBMIと繋がっているんですから、もう少し頼ってください」
80%までBMIのシンクロ率を引き上げたヴェルリア・アルカトルが柊真司に言いました。すかさず、ホワイトアウトで敵の目をくらましたのでした。
お互いに、まるで生身で動いているかのようにイコンでの高機動戦闘を繰り広げた二機ですが、先に息切れしたのはダスティシンデレラの方でした。サクシードとしてのレベル差、あるいはBMIのバージョン差でしょうか。とは言っても、まだ戦い始めてから数分しか経っていませんが。
「ええっ、もう!?」
「そんなものですよ」
メイ・ディ・コスプレの叫びを、マイ・ディ・コスプレがさらりと流しました。
「ヴェルリア、決めるぞ」
「ちょっと待ってください、何か落ちてきます」
戦闘を続行しようとした柊真司に、ヴェルリア・アルカトルが言いました。
「成層圏からの落下物が四つ。パワードスーツのようです。このままでは、海面に激突します」
落下物にセンサーをあわせて、ヴェルリア・アルカトルが言いました。
「えっと、パラシュートは?」
「えっ、新型パワードスーツって飛べるんじゃなかったの」
「ちょっと待て、ここまで加速しておいて、減速できると思っておったのか!?」
「あはははは、ごにゃ〜ぽ☆」
思いっきり音速を突破して落下しながら、猿渡剛利と鳴海玲たちが不毛な会話を交わしています。
「ボクはなんとかするから、みんなはこれを使って!」
さすがに見かねた物部九十九が、鳴海玲の手でパラシュートを外して猿渡剛利に手渡そうとしました。しましたが、風にあおられてあっという間に外したパラシュートが吹っ飛んでいきます。
「うきゃあああ……」
もはや、減速する術がありません。みなさんさようなら〜。
「受けとめられるか?」
「無理です。速すぎます」
「一瞬でいい、シンクロを限界まで上げろ!」
柊真司が、ヴェルリア・アルカトルに言いました。
ヴェルリア・アルカトルが、BMIのリミッターを外します。
「お、墜ちるう〜」
一直線に海面へとむかう四人の軌道が、突然変化しました。ゴスホークのG.C.S.によって、軌道が変えられたのです。
「今だよ!」
その一瞬に、鳴海玲が二つの撃針を組み合わせてボード状にしました。その上に乗ると、風の上をサーフィンするようにして滑空します。その横を、ゴスホークのレーザービットとダスティシンデレラのブレードビットがならんで飛び、猿渡剛利たちを拾いあげました。
「今の感覚……。限界に近づけたのか?」
柊真司が、今までない感覚に少し戸惑いながらコンソールを見つめました。
★ ★ ★
『――BMIのシンクロ限界についてアドバイスがほしいだと?』
「うむ。今のままでは、頭打ちじゃからのう」
「いろいろと教えてほしいんですぅ」
アレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)とアン・ディ・ナッツ(あん・でぃなっつ)の訪問を受けたコリマ・ユカギール(こりま・ゆかぎーる)が、校長室の中からテレパシーで答えました。
『――さてさて、説明して理解できるのかな?』
まあいいと、コリマ・ユカギールが説明を始めました。
BMI自体は、人の頭脳とイコンのコントロール系をダイレクト接続することによって、パイロットの脳の信号を直接イコンへと伝えるものです。そのため、契約者としての特殊能力も、イコンの持つエネルギーを利用して具現化することが可能です。これによって、パイロットのスキルをイコンで再現することが可能なのですが、世の中、それほど便利にはできてはいません。
脳を酷使すれば、当然負荷がかかります。分かりやすくいえば、知恵熱のようなものです。
脳内部の神経伝達は、微弱な電流による電気シナプスだけと考えている者もいるでしょうが、実際には化学シナプスにおけるシナプス間の情報伝達もあります。こちらは、神経伝達物質のやりとりで、シナプス間にある特定の物質がレセプターに収納されることによって情報の受け渡しが果たされるのです。
ところが、BMIを使用した場合、脳にかなりの負荷がかかり、当然情報量も倍加します。これを通常の神経伝達物質の量で処理しようとしますと、量が足りません。それを無視してBMIのシンクロ率を上げ続けますと、異常な速さで神経伝達物質が消費されされることになります。一度拡散してしまうと、容易には元には戻せません。これによって、障害を引き起こしてしまうわけです。
程度にもよりますが、最悪、廃人になってしまいます。
そのため、BMIには最初からリミッターがかけられていて、シンクロ率と稼働時間の両方に限界値が設けられていました。
この限界を突破したのが、完全適合体で、そのデータを元にBMIに改良を加えたのがバージョン2.0です。また、パイロットたちの中にもサクシードと呼ばれる者たちが現れたため、本来であれば耐えられないような負荷にも適応する者たちが増えました。
そんな状況を鑑みて、現在では、BMI2.0とサクシードの組み合わせでは、シンクロ率100%が可能となっています。これは、単純にパイロット能力が上がったというわけではなく、単にリミッターの上限が引き上げられただけです。当然、そこに達するには、パイロットの力量が問われます。
また、一部リミッターが解除されたため、BMI1.0でも、高レベルのサクシードであればシンクロ100%が不可能ではない状況にはなっています。これも、2.0のデータがあって初めてできたことです。
ただし、時間的制限はやはり未解決のままで、100%を持続できるのは数百秒が限度といった状況です。それ以上は、個人差もありますが、サクシードといえ脳の負荷が大きすぎます。
特に問題となったのは、イコンへのダメージを実際の肉体のダメージとして認識してしまうことで、シンクロ率が高いとフィードバックをカットすることができなくなってしまいます。当然、イコンが破壊されれば、ショック死することもありえるわけです。
『――100%を目指すことは、今となってはいいだろう。だが、それを自身の通常の力だと勘違いしないことだな。覚醒と同じで、それは一瞬の幻の力だと認識できない者は自滅するだろう』
コリマ・ユカギールは、言うだけのことができるのかと問うように、アレーティア・クレイスとアン・ディ・ナッツに呼びかけました。
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