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リアクション
★このページだけ真面目なような雰囲気かもしれないけど、締めるところは締めなきゃダメって、お偉いさんが言っていた気がする★
暗い暗い穴を通ったその先に、『秘密喫茶オリュンポス』――改め。『秘密結社オリュンポス秘密基地』はある。
といっても、今はまだぼろぼろの掘っ立て小屋だ。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス!」
高笑いが似合う人ランキング上位のドクター・ハデス(どくたー・はです)だ。
彼もまた、土星くんの話を聞いていた。くくく、と笑う彼の眼鏡が怪しく輝く。
「ククク、土星くんを祝う祭りか。
これは、我らオリュンポスがアガルタ征服の準備を進めるチャンス! 祭りの騒ぎに便乗し、この秘密基地をパワーアップさせよう!
ミネルヴァ・プロセルピナ(みねるう゛ぁ・ぷろせるぴな)! 基地の拡張工事を頼んだぞ!」
ぼろぼろな外観同様、ぼろぼろな内装の中、優雅に紅茶を飲んでいたミルネヴァが上品に頷いた。実は彼女、オリュンポスのスポンサーであったりする。もちろん世間には秘密だが。
そしていかにも深層のお嬢様といった雰囲気を持つが、優しく微笑みながら、失敗のお仕置きとしてハデスたちを爆弾で吹き飛ばしたりする過激な一面もある。
「承知しましたわ、ハデスさん。
基地の拡張工事の指揮はお任せ下さいな」
うむ、と無駄に偉そうに頷いたハデスは何をするかというと。
「今回の祭りで、お化け屋敷風の『悪の秘密基地屋敷』を公開し、客を呼ぶとしよう!
これならば、街の飾り付けの名目で予算が下りるかもしれん! さらに入場料も取れば一石二鳥だ!」
ということで、さっそく書類を作り始めるハデス。その内容には文句の付け所がない。
その甲斐あってか。予算は下りた。しかし予想よりもその予算は少なく、足りない分はミネルヴァが出すことになった。
「基地の案内は特戦隊の皆さんにお任せするとしまして……私は秘密基地に付き物のトラップを仕掛けるとしましょう。ふふふ。
ああそうですわ。宣伝もしておきませんと」
楽しげな彼女に、少し待ってくれ、と声をかけたのはオリュンポスの参謀、天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)だ。
「宣伝広告ですが、この文言をどこかに入れてもらえませんか?」
「こちらですか? ……ええ。いいですわよ」
「お願いします」
少しミネルヴァの目が鋭くなったが、深く問うことなく彼女は了承した。十六凪は微笑んで感謝を述べ、自身の作業へと向かった。
(ふふふ、ハデス君もミネルヴァさんも、いい仕事をしてくれますね。これならば、今回の計画、相手も乗ってくるかもしれませんね)
実は先ほどミネルヴァに渡したメモには、何気ない宣伝文句の中に暗号が混ぜられていた。
先ほどの暗号と、そしてハデスの名声があれば……おそらく彼の目的は達せられるだろう。
「……御主組の者と接触するという計画に、ね」
そして後日、彼の元に差出人不明の手紙が届いた。
* * *
「随分と賑やかね」
店――『飯処・武流渦』内の窓から外を眺めていた女将こと黒崎 天音(くろさき・あまね)が呟く。
「ああ。土星くんのお祝いをするという事でずいぶんと盛り上がっているようだな」
「……予想以上の盛り上がりね……それで、メニュー開発順調かしら?」
厨房から顔を出したブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)は、特別メニューを出すためにとある食材を探しに行っていたのだ。
「もう少し待っててくれ」
何かを焼いている音がした。香ばしい匂いもする。それは誰もが一度はかいだことのある……特に祭りという場にはたいていある
「待たせたな。『土星くんジャンボたこ焼き』だ」
「これは……本当に大きなたこ焼きね。ちゃんと土星くんの形してるし」
天音が少し驚いた顔をした。たこ焼きとは聞いていたのだが、ここまでの大きさとは思っていなかった。そして輪っかのところはオニオンリング、顔は焼き海苔をはりつけているようだ。表情はバリエージション豊かで……この愛らしいものを強面の店員がちまちま作っているのかと思えば、なんだか微笑ましい。
ブルーズは自慢げにふふ、と笑った。
『しかし、アガルタに蛸など』
どこから仕入れるべきか、と彼が悩んでいたとき、店の若い衆がある噂を持ってきた。
噂によると、アガルタの更に地下に続く道がどこかにあり、その先に美しい地底湖が存在する。そしてそこに蛸のような主が住み着いている……というのだ。
ダメで元々、とその噂を元に街を調査――この際、指令部に許可を取った――をした。その結果、中央区の北西の端に狭い洞窟を発見したのだ。
「一狩り行こうぜ!」
「オー!」
それは辛くも楽しい冒険だった……そうだが長くなるので割愛(ぇ)。
青、とも緑ともいえない美しい色の湖に見とれていると、その水を覗き込んだ若い衆が足を取られた。その足に絡み付いていたのは、まさしくタコの触手だった!
巨大なタコを無事に倒し、こうしてたこ焼きの材料となったのだ。
天音は一口食べ、美味しいと呟く。
「蛸も噛めば噛むほど旨味が口の中に広がる」
「うむ……美咲にも食べさせてやりたいな」
しんみりとしたブルーズに、天音は普段と変わらない声で同調した。
「じゃあ、持って行くから包んでくれるかい?」
決めれば、天音の行動は早い。
拘置所にいる美咲のところへ行くため、手続きをすませ、今少女と向き合っていた。
美咲は、渡されたたこ焼きの入れ物を膝の上に乗せ、ただそれを見つめていた。どこか疲れきっているようにも見える。
「美味しいから食べてみて? 今街で土星くんのお祭り準備してるのよ。それもその新メニューでね」
「……おいしい、です」
「そ? よかった」
街の近況を教え、みんな元気にやっていることを言うと、美咲の顔が少し変わった。
「美咲ちゃんは?」
「……よく分からないです。おにー……あの人が、何をしたいのか。ずっと近くにいたはずなのに、今はこんなに遠い」
「その人はここに来たの?」
「いえ……来たのはヤスさんたちと、あなただけです」
自嘲するような声に、天音の目が変わった。女将としての顔ではなく、天音の顔がそこに在った。
ねえ、と問いかける。
「……君は、真実を知りたいと思わないかな?」
美咲は答えず、ただ瞳を揺らす。
だがそれだけで充分だった。――瞳には、不安と期待が入り混じっていたから。
「もうこんな時間、また来るわ」
* * *
「お初にお目にかかります。僕は秘密結社オリュンポスの参謀の十六凪」
十六凪は目の前にいる麗しい女性に頭を下げながら、彼女の隣に立つ人物へ目をやり、口元を緩めた。
(どうやら本物が出て来てくれたようですね)
「……ええ、知っているわ。この前の指令部陥落の報せはとても愉快だったもの」
かけられる言葉をそのままには鵜呑みにせず、十六凪は微笑んだ。彼女の今の言葉は、つまり
『アレ以上に愉快な話を持ってきてくれたのでしょう?』
ということだ。十六凪は、今回の計画の肝を口にした。
「単刀直入ですが、僕らオリュンポスと手を組みませんか。
アガルタ征服を目指す僕らと、利害は一致すると思いますが?」
答えは、笑い声だった。
「いいわよ。とても面白いわ」
聞こえた声は、先ほどまでの彼女のと声は全く別のものだった。
その声は言った。条件がある、と。
「簡単な話よ。
……あの子どもを。巡屋の小娘を、あの人の前で――破滅させなさい。
生死も方法も問わないわ」
それさえできるのなら、どんな協力もしよう、と。
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