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ステージ


「ボクたちはマジカラットだよっ! 知ってる人も知らない人も今日はヨロシクねーっ!!」
 音楽学校内にあるステージ。その舞台に立ちマイクを持って観客に呼びかけるのは愛海 華恋(あいかい・かれん)だ。
「私達の歌は覚えやすくて簡単な曲ばかりだから、皆できたら覚えていってね。それで今度あった時に一緒に歌って踊ってもらえると嬉しいな」
 華恋に続いて観客に声を響かせるのは白波 理沙(しらなみ・りさ)
「そう思ってもらえるように今日は精一杯歌って踊るよ!」
「ふふっ……このイベントでもっとわたくし達の事を知っていただくチャンスですわね」
 理沙が挨拶をする後ろのほうでチェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)は嬉しそうな様子で小さく言う。
「チェルシーさん、今日は演奏は?」
 チェルシーの横に立ち白波 舞(しらなみ・まい)は小さな声で聞く。
「チャンスですから演奏しますわよ。……頑張りますわよー♪」
 観客に笑顔で手を振るチェルシー。
「皆、楽しんでねっ☆」
 それに続けるように舞も観客に挨拶する。
 そしてそれが終わり、理沙たちは互いに目配せをする。そしてそれぞれの演奏と歌と踊りを始めた。

 最初に動いたのはチェルシーだ。始まりとなる旋律をキーボードで演奏する。
 その旋律に声をのせるのは華恋。イキイキとした様子で楽しそうに歌う彼女の歌声は、彼女たちの曲を知らない観客をして鼻歌でその音をなぞらせる。
 そんな華恋の歌声に追従するように歌声を響かせるのは舞だ。メインボーカルである華恋の歌声を邪魔しないように、むしろ引き立てるようにして一人の歌声では出せない響きを会場に生み出す。
 そしてその音楽に合わせて理沙は踊る。自らも歌声を響かせながら、理沙は鮮やかでキレのある踊りで観客の目を惹きつける。

 そうしてた彼女たちマジカラットの曲が終わりを迎えた時、会場は大きな拍手に包まれる。
「皆ー! ありがとうー! またどこかで一緒に歌っておどろうね!」
 興奮の冷めない会場からそう言ってマジカラットの少女たちは舞台を降りていくのだった。



「シニフィアン・メイデンです!……って、私達はここの教師やってるって入学の栞に書かれてたみたいだし知ってる人が多いかな?」
 シニフィアン・メイデンの片割れ綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)はステージでそう挨拶する。
「さゆみの言うとおり、わたくしたちはこの学校で非常勤教師をする予定になっていますわ。わたくしたちの授業を受ける予定の生徒の方たちはよろしくお願いしますわ」
 アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)がさゆみの言葉を補足するようにそう挨拶する。
「と言っても私達も忙しいし、そこまで頻繁には来れないけどね。その分これたときは濃厚にお・し・え・てあげる」
 ウィンクをしていたずらにそう言うさゆみ。
「さゆみ、そろそろ歌いましょう。話をするチャンスはこれからそれなりにあるのですから」
「それもそうね。それじゃ、私達からあなたたちへの入学を祝う歌。――『恋の艦隊決戦』」
 そうしてシニフィアン・メイデンの二人が唄い出すのは彼女たちの最大のヒット曲。
 さゆみはそれを自らの情熱を伝えるように全力で歌う。
 アデリーヌは最初こそ静かに歌っていたが、さゆみに引きづられるように、彼女もまた情熱を歌に込める。
 
 それは彼女たちにできる生徒としてアイドルとして最大の歓迎の歌だった。





 芦原 郁乃(あはら・いくの)蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)。彼女たちがステージに上った時、会場にいる生徒たちからはどよめきが上がった。
「それじゃ皆行くよ」
 郁乃はそう言って二人と一緒に上がってきた子どもたち……ゴブリン・コボルトの子どもたちにジェスチャーを用いて合図する。
 そして郁乃とマビノギオン、そしてゴブリンとコボルトの子どもたちは楽器で演奏をしながら踊りまでする。
(あたしも今回は参加するって……しかもダンスやステップまでいれると聞いた時はどうなるかと思いましたけど、どうにかなりそうですね)
 アイドルのPV映像を参考にしてそれらを模倣して練習を始めた時は難しくてどうなるかと思ったことだが、猛練習でなんとか形になっていた。
(……というか、妙に主の小言が多かったから猛練習するしかなかったわけですが……いつもの仕返しじゃないですよね)
 そうじゃないことを祈るマビノギオン。
(やっぱり子供ってすごいなぁ……私もマビノギオンもまだまだ失敗しないか微妙なのに)
 練習を初めてすぐ、ゴブリンやコボルトの子どもたちはダンスやステップのコツを掴んだようだった。それらは荒削りでお世辞にもきれいなものではない。でも郁乃やマビノギオンのそれよりよっぽどらしく出来ていた。
(負けないようになんとか私達もできるようになったけど………………子供の吸収率って人もゴブリンやコボルトたちでも一緒なんだね)

 人とモンスターが仲良く一緒のステージで演奏しながら踊る。それはこのニルミナスでは珍しいものではなくなった。ニルミナスを知らずとも故郷でそんな光景を知っている生徒もいるだろう。だが、ニルミナスを知らずにこの学校にやってきた入学生たちに、それは大きな驚きと感動をもたらすのだった。