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リアクション
★ ★ ★
「どうした?」
「いえ、ちょっと、今、悪寒が……」
アラザルク・ミトゥナに聞かれて、風森 巽(かぜもり・たつみ)がちょっとブルンと身体を震わせた。何か、悪い風邪でも流行っているのだろうか。
「それで、お義兄さん……」
「いや、その言い方はまだ早いと思うが……」
いきなり義兄と呼ばれて、アラザルク・ミトゥナが苦笑した。
「えー、一応男ですからね。婚約もしていることだし、結婚は想定していますよ」
「婚約していたのか?」
初耳だとばかりに、アラザルク・ミトゥナが言った。
「はははは、一応……」
ほとんど口約束なので、引きつるしかない風森巽だ。本来であれば、ちゃんとココ・カンパーニュの両親に御挨拶しに行き、結納を……。
「フランスだが、話せるのか?」
アラザルク・ミトゥナに突っ込まれて、風森巽がうっと言葉に詰まった。契約者同士はパラミタであれば意思の疎通ができるが、一般人相手だとちゃんと相手の国の言葉を喋らないといけないではないか。
「ぼ、ぼ、ぼにゅうじゅる?」
風森巽の返事に、これはダメかもしれないとアラザルク・ミトゥナが頭をかかえた。
まともに義兄(予定は未定)の顔を見られなくて、風森巽が横をむいた。
「でね……、ちょっと、聞いているの!」
話を聞いていなかった大神 御嶽(おおがみ・うたき)を、天城 紗理華(あまぎ・さりか)がこずいているのが、そっぽをむいた風森巽の目に入ってきた。
「いたたたた、聞いていましたよ」
「ウソばっかり」
生半可な返事をする大神御嶽に、天城紗理華が唇を尖らせた。
「まったく、いつも乱暴な女ですら。御主人も、早く手を切る方が賢明ですらね」
相変わらずだと、キネコ・マネー(きねこ・まねー)が大神御嶽の陰に隠れながら、憎まれ口を叩く。
「締めてもいいですか?」
「ここではね……」
アリアス・ジェイリル(ありあす・じぇいりる)がささやくと、天城紗理華がこそこそと答えた。
「こ、怖いですらー、御主人」
耳ざとく聞きつけたキネコ・マネーが、大神御嶽にひっついて震える。
「まあまあまあ」
間に入る大神御嶽は、気苦労が絶えないようだ。
なぜかそれに便乗するように、アリアス・ジェイリルが天城紗理華にピタッとひっついている。
「あちらも、なんだか大変なようだなあ」
友達以上恋人未満と、ゆりゆりっと、パラサイトの関係とに、風森巽がああはなるまいと、顔をそむけた。
一応、風森巽だって、健全な男の子である。ココ・カンパーニュとの仲だって、ちゃんと段階を踏んで進展させる心づもりだ。そのつもりなのだが……、どうも、ここぞというときに一歩が踏み出せないでいる。いや、今踏み出しては大変なことになるようなならないような。
「でね、今度はこの衣装にしようと思うのよ♪」
新作の魔法少女アイドル・マジカル☆カナの衣装に着替えた遠野歌菜が、月崎羽純と一緒のテーブルでお茶をしている姿が目に入ってきた。
「うん、いいんじゃないかな」
宿り樹に果実のミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)の新作ケーキを堪能しながら、月崎羽純がうんうんとうなずく。
「そう。ありがと。はい、あーん」
ニコニコしながら、遠野歌菜が、フォークの先のケーキを月崎羽純に食べさせた。
「うっ」
ちょっと羨ましいので、風森巽がまた視線を変える。
「わーい、こんにちはー」
「これこれ、どこでそんなこと覚えたんですか」
走り回っては、彼女たちふうの御挨拶をしようとするメイちゃん、コンちゃん、ランちゃん、ケンちゃんたちを、マスターであるヒーク・オリエンス、イックリーク・メリーディエ、イビ・セプテント、アリクビ・オッキデンスたちが、慌ててやめさせている姿が目に入ってきた。
まるで、子供たちを連れたママ友やパパ友がお茶会を開いているような光景だ。
思わず、自分とココ・カンパーニュの間に子供ができたら同じような感じになるのかと、あれやこれやを想像して、風森巽がちょっと顔を赤らめた。
「ああ、いいお風呂だった。あれ?」
そこへ、やってきたゴチメイたちが、風森巽たちを見つけておやという顔をした。
「あっ、ココさん……」
風呂上がりの濡れ髪を下ろしたココ・カンパーニュの姿に、風森巽がちょっと見とれる。
「二人して、何を話していたんだよ?」
「それはだな、彼が結……」
「わーわー!」
ココ・カンパーニュに聞かれてアラザルク・ミトゥナが答えようとするのを、風森巽が慌ててさえぎった。このタイミングは、プロポーズするには違うと断言できる。
「なんだよ、怪しいなあ」
少し不満そうに、ココ・カンパーニュが言った。
「きっと、何かやましいことでも隠しているのでしょう」
ずばり、ペコ・フラワリーが指摘する。
「うん、怪しいですわあ」
「よし、むいて調べちゃえ!」
チャイ・セイロンの言葉に、リン・ダージが叫んだ。その言葉に、ゴチメイたちが一斉に風森巽に飛びかかっていく。
「ちょ、ちょっと、や、やめ〜♪」
女の子集団の恐ろしさをその身で味わいながら、風森巽がもみくちゃにされていく。
「ええっと、店内であまり騒ぎすぎると、そろそろ怒りますわよ」
ちょっとピクピクしつつ、ミリア・フォレストがペットであるキメラのキィちゃんの頭を撫でながら言った。