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森の聖霊と姉弟の絆【前編】

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森の聖霊と姉弟の絆【前編】

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【4章】見つけたもの


 囚人のように閉じ込められていた4人の男女を見つけると、姫乃とセレアナが駆け寄って容体を確認する。
 彼らの他には誰の姿もなかった。
 鉄格子の向かい側には長めのデスクがあるばかりで、その上にはコンピューターと冷えたコーヒーの入ったカップ、それに鍵が置かれていた。セレアナはすぐにその鍵を取って、鉄格子の扉を開く。
 瀕死状態にあった白髪交じりの男性には【命の息吹】を使い、その他の者に対しては姫乃と協力して必要な処置を施していく。本当ならこの施設に関連する伝染病に有効な薬やワクチンを持ってくるはずだったのだが、エースたちの情報通り不治の病であったらしく、見つけることが出来なかった。しかし彼らの様子を見ていると幸いにもその必要はなかったようで、セレアナは少し安心する。
「皆さんはデニス・アンデルさんとエリク・アンデルさん、それからビルト・アーネルソンさん、そちらの方はアンデルさんのお宅に住み込みで働いてらっしゃるメイドさん……で宜しいですか?」
 姫乃が念のため名前を確認すると、比較的健康らしいビルトがその通りだと頷く。四人は皆検査着のようなものを身に纏っていたが、それぞれ事前情報と合致する外見だったため判別できた。
 ルカルカとパートナーのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)もその様子を眺めていたが、人手は足りていそうだったのであまり手を出さないことにした。ダリルは一応医者として被害者たちに【完全回復】をかけ、ルカルカは彼女の携帯食であるチョコバーを差し入れるのに留めておいた。
 それよりも、今は物探しをしなくてはいけない。
 あれだけノリノリで探検していた翠軍団は、銃型HC弐式・Nのオートマッピングを埋めきったことに満足してどこかへ行ってしまっていたため、部屋の中は少なくない人数が居る割に静かだった。
「あったぞ。これが例のワクチンだな」
 これだけ部屋がこざっぱりしているのを見るに重要な資料や機器等は持ち出された後のようだが、飲みかけのコーヒーカップを残している辺り、ソーンはかなり慌ててここを後にしたのだろう。デスク周りを念入りに探ったダリルは、目的の薬を見つけ出すことが出来た。
「1バイアルだけか……これだと全員分には足りないな」
「あ! じゃあ私に任せて」
 ルカルカはその小さな薬瓶を受け取ると、神霊『創生の薔薇』の力を使って薬の複製を始めた。成分を解析するよりも、そうして創生してしまうほうが遥かに早いとの判断だ。
「創生原理は……」
「よく分んない」
 真面目な顔でその作業を見つめるダリルに、ルカルカは「なんとなく出来ちゃうの♪」と返す。
「量子力学的な作用が働いているのだとは思うが」
「複製、何個くらい作る?」
 注視しているダリルに、きょとんとした顔で尋ね返すルカルカ。彼らの傍らでは、デスク上に残されていたコンピューターを解析しようという面々が集まっていた。
 デスクトップ上に一つだけ残されていたファイルを開こうとすると、何やら怪しげな記号が並んだウインドウが表示される。
「テキストボックスがあるということは、パスワード入力画面か何かでしょうか?」
「ルーン文字みたいだけど、文章になってると俺じゃ読めないしなぁ……」
 夜月の問いに、カイは頭を掻きながらそう答えた。間違えたパスワードを入力した場合にデータが消去されるかコンピューター自体がクラッシュでもしたら――などということは考えたくもない。
「俺に貸してみろ」
 そう言ってモニター画面を覗き込んできたのはダリルだった。彼が自身の能力【万象読解】を用いると、あらゆる言語を読み解くことが出来るのだ。
「なるほど、『最も大切なルーンは?』か。となると――」
「Thorn(ソーン)……じゃないですよね」
「だろうな」
 ダリルが「ハガル」のルーンを入力した瞬間、テキストファイルが表示された。


   この文章を読んでいるということは、貴方は恐らくフラワーリングの関係者でしょう。
   族長さん、カイ君、それに他の皆様もお元気ですか。
   元気なら、わざわざ死にに来るような真似はしないよう忠告しておきます。
   貴方の目的は僕を止めることでしょうか。それともあの緑の機晶石を取り返すことでしょうか。
   もしも万が一、これを読んでいる人の中に『煌めきの災禍』がいるのなら、
   そしてこの意味を理解しているとしたら、もう僕を探すような真似は止めるべきです。
   リトさん、貴女が記憶を取り戻しているとしたら、僕の言う意味が分かるでしょう。
   愛する弟を殺したのは貴女だ。
   しかし、貴女は咎められるべきではない。何故なら貴女を生かすために肉体の消滅を選んだのは、
   その弟自身なのだから。そして僕には、彼の気持ちがよく解る。
   だからもう、僕に関わるのはこれで最後にするべきです。
   さようなら、心優しい方たち。族長さんと妖精たちには、騙したことを謝っておいてください。


「……っ」
 読み終えたリトの身体が震えている。
 貴仁が暴走を危惧して彼女の表情を窺うと、リトはただ唇を噛み締めて泣いていた。