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リアクション
竜哭の滝
湿り気を帯びた崖の上で、ドクター・ハデス(どくたー・はです)の高笑いが響きわたっていた。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス!」
彼が竜哭の滝でお決まりの口上を響かせたのは、今回がはじめてではない。以前もここで怪人 デスストーカー(かいじん・ですすとーかー)とともに師弟愛を叫んだのだが、その時は伝説にあと一歩及ばず、滝は流れなかった。
「ククク、八紘零により生み出されしセルフィッシュジーンウォーカーたちよ! 哀れなるお前たちは我々オリュンポスが無へと還らせてやろう! それのみが、お前たちに対する唯一つの救いであろうからな!」
ハデスはすかさず戦闘員たちに【優れた指揮官】と【士気高揚】を用いて、セルフィッシュジーン・ウォーカーの殲滅を命じた。
さらにペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)には【潜在解放】【機晶解放】【レックスレイジ】を使用。
「機晶変身っ! リミッター解除!」
パワードスーツを装着しフルパワーになったペルセポネが、セルフィッシュジーン・ウォーカーの殲滅に向かおうとした、その時である。
ハデスの背後から、新たなセルフィッシュジーン・ウォーカーが忍び寄っていたのだ。
「な、なんだと……! き、貴様はまさか……!?」
黒いギフトの槍を持ち、黒いパワードスーツを着た敵の姿に、ハデスは驚愕した。その隙をつかれ、彼はセルフィッシュジーン・ウォーカーが持つ漆黒の槍に身体を貫かれてしまった。
「ぐ、ぐはっ!」
【プロフィラクセス】で致命傷は避けたものの、大ダメージを負ったハデスはその場に崩れ落ちる。残りの力を振り絞って、彼は部下たちに向けて警告を発した。
「……き、気をつけろ……。そいつは、デスストーカーとペルセポネの……」
しかし、パートナーを瀕死に追いやった敵への怒りが先走り、ペルセポネはハデスの言葉を聞いていなかった。
「よくも! ハデス先生をっ!」
全力でビームブレードを振り下ろすペルセポネ。ブレードは直撃しなかったが、敵の頭部を覆っていた、黒いヘルメットを破壊した。
ぱらぱらと砕け落ちるヘルメットの下から現れたのは、ペルセポネにそっくりの顔だ。
「えっ……そ、その顔は……私っ!?」
動揺したペルセポネに、大っぴらな隙が生じた。すかさずセルフィッシュジーン・ウォーカーは槍を乱れ打ちする。
「くっ、その程度の攻撃。このパワードスーツには……きゃ、きゃああっ!」
漆黒の槍によりパワードスーツの装甲が破壊され、ペルセポネの全身の肌があらわになっていく。
彼女は、いつものとおり全裸になった。
さすがは我らがオリュンポス。こんなときでも、まったくブレない。
「ペルセポネ様っ!」
デスストーカーが慌てて駆け寄っていく。彼はペルセポネに特別な感情を抱いている。その彼女が、目の前で全裸にされ、槍でいたぶられているのを看過できるわけがなかった。しかも、いたぶっている相手がペルセポネによく似たジーンウォーカーなのだから、なおさらだ。
「あれ……? あの槍はもしかして……」
ペルセポネに突きつけられた黒い槍を見て、デスストーカーはある考えに至る。
「僕のギフト形態と同じ形だ! ……あいつは、僕とペルセポネ様のゲノムを受け継いでいるというのかっ!?」
敵の正体に気づいたデスストーカーは、考えるより先に説得をはじめていた。
「やめてください、ペルセポネ様っ! 僕を使って自分を傷つけるなんて……! もう一人の僕も、そんなことは望んでいないはずですっ!」
そして彼が発する言葉は、説得から、愛の告白へと変わっていく。
「……EJ社から助けられて以来、僕はずっと、ペルセポネ様のことをお慕いしているんですから!」
「えっ!? そ、そんな、いきなり言われるとっ……!」
反応したのは、全裸の――オリジナルの方のペルセポネだった。
デスストーカーは深く息を吸い込み、天を見上げた。空には極彩色のオーロラが暴れまわっている。まるで僕の心象風景を見ているようだと考えてから、彼はもう一度息を吸い込んで、一気に吐き出した。
「ペルセポネ様……愛しています! 僕とお付き合いしてください!!」
「……わ、私でよければ、その……よろしくお願いしますっ」
ペルセポネがぺこりと頭を下げた。
デスストーカーの初恋が実った、その瞬間。
――竜が、哭いた。
「なんだか目出度いことになっているではないか! フハハハ!」
【リジェネレーション】ですっかり回復したハデスが、部下ふたりを見て高笑いをあげていた。
「うむ。言葉さえろくに喋れなかった少年が、告白までするようになるとは。なかなか感動的ではないか。フハハハ! フハハハ! フハ……」
崖の真ん中で高笑いしていたハデスは、竜哭の滝を流れる水に飲み込まれて、そのまま流されてしまった。
「ああっ。ハデス様っ」
救出に向かおうとしたデスストーカーだが、彼の尻尾をぐいぐいと引っ張る者がいた。
セルフィッシュジーン・ウォーカーである。
「ちょっと待ってよ! さっき告白した相手は私でしょう?」
「えっ……」
「デスストーカーくんは、私に告白したんだよね?」
「は、はあ……」
彼の態度は曖昧だった。セルフィッシュジーン・ウォーカーの見た目はペルセポネなので、無碍にするわけにもいかない。
「そんなことないですよっ」
そう反論するのはオリジナルのペルセポネだ。
「デスストーカーくんは私に告白してくれたんですっ。そうですよね。デスストーカーくん?」
「ま、まあ……そうですね……」
煮え切らないデスストーカーくん。
むっつりな彼は、ペルセポネがふたりになって二倍うれしいなどという、ちょっと浮気なことを考えていたのだ。
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