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リアクション
第2章 荒廃する時 Story2
サリエルを鎮める任務遂行ため、和輝は突入前にそれぞれの担当を最終確認してもらうべく、携帯のグループ通話をオンにした。
“こちら和輝。
鍵の開錠と同時、侵入を開始する。
なお、一刻の猶予もないため、入口に待機中の者は先発。
開錠する者、または他区域で任務中の者は、先発者に続き突入してもらうか、町を襲いに出てくるボコールの対処など行うこと。
これは、自分たちの未来を守る任務でもある。
それぞれ、その自覚を持って実行すること。
一切の迷いは許されない。
最後に…、“先の事”は帰るべき場所にあるということを忘れるな。
―…以上、時の魔性祓い開始せよ!”
手入れのされていない薄く曇った鏡に、ベリート・エロヒム・ザ・テスタメント(べりーとえろひむ・ざてすためんと)がそっと手を触れた。
ひんやりとした感覚は僅かにあるが、物質的なものとは違い、まるで空気にでも触れたような感じだった。
まさに、そこにあるがないモノ。
モノとしての質量感がまったくない。
仕掛けた者たち以外に判別できる者がいるとすれば、自分たちのような祓魔師の能力を持つ者くらいだ。
「開錠の合図がきましたね!真宵、いきますよ」
「言われるまでもないわ」
自分の片手をテスタメントの手へのせ、宝石の大地の気をアストラル領域へ送り込む。
パートナーの精神を鍵の元へ繋げ、“今よ!”と彼女の声を合図に“開錠”をイメージし、第一の鍵を解く。
カチリと開けるような音などはしなかったが、確かにそれを開けた感覚がテスタメントの手に残った。
「やりましたね、非物質に干渉することができましたよ!これも、日々の経験あってことなのです」
「は?わたくしの力あってのことでしょ」
“ポイントを絞ってやったのにっ”と、テスタメントの頭をぐりぐりする。
「いたたっ、やめるのです!真宵も成長しているってことなのですよ!!」
「あらそう?ふふーん、まぁこれくらいぱぱっとできて当たり前だわ」
当然のような顔をし、腰に手をあてて、日堂 真宵(にちどう・まよい)は自慢げに言う。
「とっととこの任務、片付けるわよテスタメント」
「ラスコット先生を助けます。問答無用、良いですね真宵、先生を助けて良いとこ見せるのです!」
「バカなの?その役割わたくし何だけど?」
これもまた当然だという態度をとり、さっさと民家から出てしまう。
「ははっ。これはまた、随分と好かれているようだね」
1人の教師を懸命に救助しようとする彼女たちの姿を、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が微笑ましく眺める。
「ちっちっち、それだけじゃないの分からないのかにゃー?」
“まだまだ仲間の思考を読みきれてないにゃ”とクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)がニヤリ顔で言う。
「パラミタを本来の姿に戻したいからってことか?」
「他にも重要なことがあるんだって!」
「んー…細かく言えばきりがないと思うけどな」
いつになく真剣に語るクラマに、もっと他に大切なことがあるのだろうか?と腕組して考え込む。
「エース。クマラの言うことなんて、聞かなくても分かるじゃないか」
テスタメントまで先に民家から出てしまい、置いていかれてしまうよ、というふうにメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)が言う。
「まぁ、だけど珍しく真面目な感じだしさ」
「いや……けどね」
「むっ。なくなると、とっても困るものなんだよメシエ!サリエル…、許さないのにゃっ」
「まぁまぁ。さて、私もそろそろ行かないとな」
熱く燃えすぎているクマラをこれ以上直視してはいけないと思い、足早に民家を出て行く。
「あー、行っちゃったよ。で、何をそんなにむきになってるんだ?」
「も〜、本当に分からないのかにゃ。子供にとって、一番大事なものなんだよ!それはねー…」
「えっと、まさか…」
「お・か・し・にゃ!!」
顔を引きつらせるエースに、少年は胸を張って得意げな顔をしてみせた。
赤ちゃんになってしまったエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)も、やはり子供なのか激しく同意した。
“子供にとって一番大事”という言葉で察し、やっぱり…と深海よりも深い溜息をついてしまう。
それが分かっていたからメシエは先に行ってしまったのだ。
「よし、“鍵”は無事に解除できただろうし、急いで皆と合流しよう」
少年の答えまでの流れをなかったことにするかのように、さっさとメシエの後を追っていった。
最初に発見された“鍵”の開錠直前。
第二の“鍵”の開錠も行われようとしていた。
「グラキエス様。これは私たちが普段開けるようにしては、解除できないようですね」
入口を閉ざしている元へ触れてみるが、単純に開くわけでもなさそうだった。
「魔道具を媒体に開ける…ということだったな」
非物質領域を感じる術のない者にはもちろん、簡単に開けられないようにしたのだろうと頷く。
「もう一つの方と、同時に開錠したほうがよいとのことですし。グラキス様のお力で、ポイントを絞っては?」
「分かった。後は…誰が開けるかだな」
「アタシはパスね。待つより、さっさと先発と合流を目指したほうがいいわ」
幸い経験が浅い者は一人もいなし、開錠のために何人も必要ないだろう。
ここで“鍵”が開けられるのを見ているより、そのほうが効率がよい。
グラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)はそう告げ、見届けることなく民家から駆け出た。
シィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)もパートナーに続き、“鍵”の開放を待つ仲間の元へ向かった。
言葉を交わさずとも、“ついて来い”ということだろう。
そう判断できるほど長い付き合いなのだ。
「私も今やれることをしなきゃ。スーちゃん、香水をお願い」
思いを一つに自らの役割へと進んでいく2人を見送り、五月葉 終夏(さつきば・おりが)は解呪の準備をするべくスーに頼む。
いつもは一つ返事で言うことを聞いてくれるスーだったが、肩から飛び降りるとまったく動こうとしない。
小さな花の少女にとっては、召喚者の限度を常に把握するのも簡単なこと。
町の人の手当で能力を使いすぎていることを分かっている。
いくら大好きな友達の頼みとはいえ、一つ返事でやるわけにはいかない。
頼みを聞くということは、彼女の精神力をもらうことになるからだ。
「おりりん、ずっとむちゃしてるー。やすまないといけないよー!」
「ありゃりゃ。スーちゃんには隠せないか。でも…」
「アタシ、おりりんがたおれちゃうのかなしー」
「分かった、ありがとうね」
そして床に膝をつき、“心配させてごめんね”と言う。
膝を抱えていやいやをする少女を、そっと抱きしめた。
「だけど、私もこの世界が大好きだから助けたい。皆を守りたいんだよ。お願い、力を貸して…」
「うぅ…わかったー…」
“どうしても大切なものを守りたい”という友達の言葉に、しぶしぶ頷くしかなかった。
スーは床から伸ばした蔓に白い花を咲かせ、いつものように香水を作り始めた。
「とてもいい香りですね。そう思いません?マスター」
「って、ほのぼのしている場合じゃないぞ」
少女の香水作りに魅入るフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)の肩を、ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が軽く叩いて呼ぶ。
「はっ!そ、そうでした」
「“鍵”のことだが、祓魔術の形態変化でやれるかもしれない。フレイ、手伝ってやれ」
「お任せください、マスター」
「どうやら分担が決まったようですね。おや、さっそく合図が…」
すっかり解除の準備を整え終えた時、携帯に和輝から通話される。
「さぁ、お二人共。“鍵”の解除をお願いします」
「(これは…複雑に入り組んでいるな。だが、ここで…もたつく暇はない)」
フレンディスが容易く祓魔の気を通させるべく、アークソウルの力で鍵穴をたどる。
グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は一筋の道筋を作り、その先を仲間に託す。
「皆さんのためにも、失敗は許されませぬ。―…閉ざされた小さき籠に、今、一つの道が記された。我、汝を籠の外への導きてであり、汝を拘束する枷を打ち消す者なり!」
哀切の章から放たれた祓魔の力が大地の道を通り、その“先”へと侵入していく。
彼女の手が僅かに反動し、開錠の感覚が伝わった。
「こ、これで成功…したんですね?」
そこにあってないものに触れ、何とも不思議な感覚に、自分の手をまじまじと見つめた。
「よくやったなフレイ、グラキエス」
「はい、マスター!」
「無事に終わったか。…そちらはどうだ?」
“鍵”の解除を終え、そろそろ香水もできただろうかと終夏に声をかけた。
「うん、いっぱいできたよ!さて、私たちも急がなきゃね。…あっ」
「―…だいぶ消耗しているようだな」
倒れそうになる細身の身体を、アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)が支えてやる。
「あ、ありがとう」
「俺たちもいるのだから、おまえは少し力を温存しておけ」
「はは…、分かったよ」
「おまえは、もっと他者を頼るべきだ」
そう言い残すと主の後を追って民家を出ていく。
「皆、ちゃんと周りを見ているんだよね。…もう、当たり前のことなんだろうけどさ」
スーを抱えて終夏も仲間の元へと駆けて行った。
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