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王子様と紅葉と私

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王子様と紅葉と私
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「肌寒くなってきましたね」
 ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)は、空京のショッピングモールに買い物デートに来ていた。
「アーデルさんはただでさえそんな格好で風邪をひきやすいんですから、せめてマントくらいは冬用の暖かい物を買わないとダメですよ」
「まあ、一理ないとは言えないのう」
 アーデルハイトは笑いながらザカコと手を繋いだ。
「手、冷たいですよ」
「心が温かいんじゃよ」
 ザカコとアーデルハイトは寄り添って、様々な買い物をした。
 肌寒い季節だが、寄り添っていると温かかった。
「これなら裏もついていて温かいじゃろ」
 アーデルハイトは冬用のマントを手に取って、感触を確かめる。
「そういえば、今度のお月見の祭りは、ザカコも浴衣を着るんじゃろ?」
「着たいですね」
「うむ、浴衣も見に行くかの」
 ザカコとアーデルハイトは、ザカコ用の浴衣を見た後、様々な売場を巡った。
「お腹がすいてきましたね」
 しばらくショッピングを楽しんだザカコたちは、ショッピングモールを後にした。
「何か食べたいのう」
「あ、あそこで焼き芋を売っていますよ」
 ザカコは路上で売っている焼き芋を目に止め、一本買った。
 すぐ近くにある公園のベンチに移動して、焼き芋を半分に割る。
「やっぱり焼き芋は温かい内にこうして澄んだ空気の中、開けた場所で食べるのが良いですよね」
「うむ、ホクホクして美味しいのう」
 アーデルハイトも満足げだ。
「素敵なお店でお茶とかも悪くないですが……こうして気取らず一緒に焼き芋をわけあって食べられる事の方が自分は好きですよ」
 アーデルハイトも、うんうんと頷いて同意しながら焼き芋を美味しそうに食べた。
「わしもじゃ」
 ザカコとアーデルハイトは顔を見合わせて微笑んだ。



 ツァンダ東の森にある、ジーバルス一族の里、ハイコド宅。
 二週間に及ぶ稀少モンスターの素材収集の仕事から帰ってきた翌日の早朝、ハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)は膝の上に座ったニーナ・ジーバルス(にーな・じーばるす)に抱きつかれていた。
「えー……と」
 身動き一つとれないハイコドは、何も言わずに抱きついているニーナに何と声をかけるべきか悩んでいた。
「あのー、ニーナ? ニーナさーん、重いんでそろそろ避けてくれないか?」
 そろそろ足先に血が通わなくなってきている。
「やだ、今日はこのままがいい、もっとくっついていたいの」
 しかし、ニーナは退く気配もない。
(おっかしいな、ここまで露骨に愛情表現して来た事ってないんだがな……)
 ハイコドが不思議そうにしていると、ニーナが耳元に口を寄せ、ぼそりと呟いた。
「は? え? 子供? 俺とニーナの? えっ? 本当?」
「今日ほどこの世に生を受けてよかったと思ったことは無いわ……あぁ、生きていてよかった」
 驚きの表情を浮かべているハイコドとニーナの元に、ソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)がやってきた。
「いやー、二人共仲がいいことですなぁ。……というかどー見てもお姉ちゃんのここ数日の行動が私と酷似してたからね。
 試しに検査させたら大当たりよ、大当たり」
 ソランを見て、ニーナは小さく微笑んだ。
「ソラが気づいてくれなかったら知るのはまだ先だったはず。ありがとう、ソラ」
「……そっか、ニーナと」
 ニーナにソランも笑い返すと、ようやく実感が湧いてきたようにハイコドが呟いた。
「はっはっは、何を寝ぼけてるこの黒狼が。創造主との戦いが終わって暫く連日連夜インサートショットしてれば当たるに決まってるでしょ」
「たはは、俺のほうが泣けてきたや、そっか子供か」
 ハイコドがニーナを黙って抱きしめると、ソランは小さく笑って、静かに部屋を出ていった。
「あなた、これからも……永久に宜しくお願いいたします」
 ニーナは静かにハイコドに身を預ける。
 ハイコドの体温を感じながら、鼓動を聞き、ニーナは少し未来に思いを馳せた。
「ああ……守る物がまた一つ増えた」
 イチャイチャしはじめたハイコドたちをおいて、ソランは子供たちの元へ向かった。
(シャァオラァ!)
 思わず声に出しそうになりながら、勢い良くガッツポーズをするソラン。
(さて、この二人が気が済んだ時にご飯食べれるようにつくっておかないとね)
 ソランは急いで朝食の支度に取りかかった。
 数十分後、気のすむまで抱きしめ合ったハイコドとジーナは、お腹の鳴る音を聞いて朝食を取りにくるだろう。