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里に帰らせていただきますっ! ~ 地球に帰らせていただきますっ!特別編 ~

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 ■ 笹飾りくんの謎 ■



 そうあれは、去年の11月。
 ザンスカールで買い物をした帰り道、ジェニファ・モルガン(じぇにふぁ・もるがん)マーク・モルガン(まーく・もるがん)は見慣れないものに行き当たった。
「こんな所に竹? 随分唐突ね」
 周囲は森だけれど、竹は見あたらない。なのに何故、1本だけ竹が倒れているのか。
 興味を持って近づいてみると、竹にはひらひらとカラフルな長方形の色紙がついている。
 なんだか似たようなものを見たことがある気がして、ジェニファが記憶を辿っていると。
「これは……竹ではありません、笹です。だって、ほら……」
 マークが指さすところには白い顔があった。それでジェニファの記憶は完全に蘇った。
「笹飾りくん? 夏に話題になってた、あの?」
「恐らくそうだと思います」
 森に落ちていた行き倒れを介抱し、お礼の手紙と靴下をもらったのが、2人と七夕 笹飾りくん(たなばた・ささかざりくん)との出会いだった。

 その後、靴下マンに願い事を叶えてもらうことがあったのだけれど、あれは笹飾りくんの恩返しだと信じている。
 だから今回、笹飾りくんにお疲れさまと言うために、マークは実家を訪問しようと思ったのだ。
 本来なら自分の実家に招待すべきところなのだろうけれど、剣の花嫁であるマークには、ジェニファと契約する前の生活がない。この時期、里帰りするという人たちの盛り上がりを見ると、ちょっとだけ寂しくなってしまう。
 その寂しさも、笹飾りくんの実家を訪問したら少しは紛れるかも知れないんじゃないか。そう思えた。


「笹飾りくんの実家に行ってみたいんだけど、お邪魔してもいいですか?」
 マークが頼むと、
「……!!」
 笹飾りくんは全力で首を横に振った。
 その動きでわっさわっさと笹が揺れ、マークは思わず後じさった。
「そこまで拒否しなくても……あ、もしかして巷の噂のように、笹飾りくんの正体は靴下マンで、今はもうクリスマス準備で忙しいということですね。分かりました!」
「……!!!!」
 今度の否定はさっきよりも強く、笹の揺れもそれに比して大きい。
「違うんですか? では兄弟説の方が……」
「……!?」
 ひたすら笹飾りくんは笹を振り続け、やがてその勢いでばたりと後ろに倒れた。


 笹飾りくんが落ち着くのを待って、マークはまた説得を重ねた。
「大丈夫、笹飾りくんの実家で見聞きしたことは、誰にも話さないよ」
「……?」
「うん、姉さんにだって秘密に出来るよ。男の約束だよ」
 それでも気が進まないようではあったけれど、ついに根負けして、
「……!」
 と歩き出し、マークはその後についていった。

 笹飾りくんという存在からして、どこか秘密の臭いがする。
 きっと家はひっそりと山の奥深く、あるいは海の底深く、空高く……かと思いきや、笹飾りくんの家は街中にあった。
「ここ? かなり大きいね」
 家というより、工房というイメージの方が近いだろうか。
 それも、イコンが1台丸々格納できるくらいのサイズだ。
 と見ていたマークの目が、ある一点でぴたりと止まった。

 工房の扉が少し開いている!
 その隙間から見えるのは。
(あれは巨大な靴下? それから……あれ、どうして笹飾りの着ぐるみがあるんだろう。笹飾りくんはここにいるのに。それからあれは……)
 その途端。
「……!?」
 笹飾りくんが大慌てで工房の扉を閉めた。
「これ以上見てはいけないって、まだ何も見てないですよ」
「……!」
「危険って、何が危険なんですか? もしかしてアンズーサンタでも出てくるとか?」
「……! ……!! ……!!!」
 ぐいぐいぐいぐいと有無を言わせず笹飾りくんはマークを押して、家から遠ざけた。


 こうしてマークの笹飾りくん家訪問は、足を踏み入れる前に終わってしまったのだった。