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シャンバラ独立記念紅白歌合戦

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シャンバラ独立記念紅白歌合戦
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リアクション

 
「なあレオン! レオンって准尉だったの?」
「ああ。オレん家、それなりに名の通った軍人の家系だから、それが影響してんだろな。……それがどうかしたか、北斗?」
 控え室に天海 北斗(あまみ・ほくと)の声が響き、問いかけられたレオン・ダンドリオン(れおん・たんどりおん)が答える。
「いやいやいや、それすっごく問題だろ!?
 准尉ってことは准士官ってことで、それって結構いい感じの階級なんだろ?」
「まあ、そうなるか――」
「ってことは……オレもうかうかしてられねー! マジで頑張らねーと、レオンにパシられて、フラれても拒否権すらない下っ端になっちまうー!」
 一人呟きながら、北斗が頭を抱える。そこへ、まあ落ち着け、とばかりにレオンの手が北斗の肩に乗せられる。
「オレも北斗も同じ教導団員である以上、軍規は絶対だ。教導団の作戦の時には、オレは上司で北斗は部下だ。
 ……だけど、今は作戦じゃない。軍規に従うのは当然だが、私的な関係まで軍規を持ち込むのは、オレは好きじゃない。
 今は、オレと北斗は対等な関係だ」
 レオンの言葉に、北斗は落ち着きつつも『今は』という言葉が引っかかる。
 出来ることならいつでも対等な、そして絆を深め合った関係を築きたい。その想いを乗せて、北斗が言葉を口にする。
「オレ、頑張るからな! ……ああっと、護も頑張らねーと意味ねーんだよな。護も一緒に頑張ってくれると思うから、オレ、いつかレオンと対等か、あるいはそれ以上の階級を手に入れてみせるからな!」
「おいおい、随分大きく出たな。北斗に命令されるってのは、想像できないな。
 ま、待ってるからよ。簡単には行かないだろうが、頑張ってくれ」
 レオンがそう告げたところで、扉が叩かれスタッフがスタンバイの旨を伝える。
「ほら、オレたちの出番だ。歌う時は変な遠慮はいらないぜ?」
「そんなつもりねーよ! 行こうぜ、レオン!」
 二人、がっしりと手を組み合い、そしてステージへと向かっていく。
 
「次は、教導団のレオン・ダンドリオンと天海 北斗によるデュエットです。それでは、どうぞ!」
 クロセルの紹介を受けて、レオンと北斗がステージに上がる。それを、観客席で天海 護(あまみ・まもる)が見守る。
 
『歌でみんなを幸せにしたい。ていうか自分も幸せになりたい。むしろなってやる!』
 
 別れる前に北斗が言っていたことを思い返し、護が心に呟く。
(みんなの幸せ、みんなの平和。みんな等しく、みんな一緒に。
 ……夢かも、理想かもしれないけど、僕はこの想いを胸の中に秘めて、今日、この世界を生きたい)
 
 身体があまり丈夫でない護にとって、一日の訪れは当たり前ではない。今日があって明日があるとは限らない。
 だからこそ、護は確固たる想いを抱いて、一日一日を精一杯生きようと思っている。
 
(頑張るなら、競い合うなら、互いを傷つけないで、共に高みを目指せばいい。
 目指すのは独りよがりな正義ではなく、互いに切磋琢磨できる関係。
 そして……今持つのは武器ではなく、熱き心とマイク)
 
 これまで護が見てきた、多くの人たち。
 今、ステージで歌声を響かせるレオンと北斗。
 ……みんな、頑張ってる。みんな、強い心を持っている。
 
(いつまでも、こんな幸せが続いてくれれば――)
 
 そう思いかけたところで、護がその思いを打ち消すように首を振る。
 幸せを願うばかりではいけない。自分にしか出来ない任務を全うしなくては、幸せを掴み取ることは出来ない。
 体があまり丈夫ではない護が所属するのは、前線の特攻部隊ではなく、武器弾薬食料等の補給や機械機材修理、医療活動が中心の後方支援部隊。いわば縁の下の力持ち。目立たなくても、地味でも、必要不可欠な存在。
 その中で護は、北斗との付き合いで得た機械修理の知識、あるいは医学の知識を駆使して、最前線で奮闘する生徒たちを守ることを誓う。響いてくる歌声が、永遠に続くことを祈りながら。
 
(……全ては、みんなの平和のために)
 
 ステージへと向けられる拍手と歓声に、護が我に返る。歓声に応えるレオンを、護が視線で追う。
 准尉という階級を持つレオンをまずは目標にし、いずれは少尉という位階を手にする。
 自分も拍手を送りながら、護は胸の内に高い志を秘めるのであった――。
 
 
「……私だ。
 ……分かった、少し待て」
 自分宛に送られた通信を取った鋭峰が、表情を変えぬまま響く声に答え、通信を切る。
「済まない、しばしの間、審査を変わってくれないか」
『……分かった』
 コリマに審査を請け負ってもらい、鋭峰が席を立つ。
「こんな時に仕事か? 今年最後の日くらい休みにすりゃあいいじゃねぇか」
「教導団に休みはない。こうしてシャンバラが統一されたが故に、より一層治安維持に務めねばならぬのだ」
 そんな言葉を言い残し、鋭峰が立ち去っていく。姿が完全に見えなくなったところで、エレンの紹介を受けて、ゾリア・グリンウォーター(ぞりあ・ぐりんうぉーたー)ザミエリア・グリンウォーター(ざみえりあ・ぐりんうぉーたー)が、迷彩柄の軍服をベースにしつつ、フリルやスカートをつけて改造したと思しき衣装で歌に臨む。
「独立した国家には秩序が必要にょろ!
 おめでたいこの席を借りて、一曲をシャンバラの平和の為に捧げるです!」

 
 未開の荒野に 身を馳せて
 我らは進むよどこまでも
 
 ヒラニプラでの 大鉄道
 その風格の 勇ましさ
 
 進め 進め 我が教導団!

 
(……何も起こらない事を願いますわ。
 こうして笑顔で安心や平和のイメージをばら撒いているのですからねえ)
 心に呟くザミエリア、確かに二人は笑顔だし、曲調はポップなノリだし、スポットライトや紙吹雪の演出は『アキマス』の時のようだが、歌詞はいやいやそんなことはないという皮肉に満ちていた。無論、事実は誰にも分からないのだが。
 
 この身は万世の 民の為
 悪逆非道を 打ち負かせ
 
 血潮に濡れた その丘に
 正義の御旗を 打ちたてよ
 
 進め 進め 我が教導団!
 進め 進め 我が教導団!

 
「いやー、席を外しててよかったなー。あいつが聞いてたらどうなったか怖くて想像できないぜ」
 拍手と歓声を浴びてステージを後にする二人を見送り、涼司がぽつり、と呟く。
 
 涼司:8
 コリマ:7
 ジェイダス:8
 アーデルハイト:8
 ハイナ:8
 静香:6
 
 合計:45
 
 
「シャンバラがこのような形で独立を果たしたわけだけど、これまでの経緯から見て、新たな火種を充分に残していることが予想されるわね。
 ……まあ、将来のことを小難しく考えてもどうにかなるわけじゃなし! どちらに転ぶにしろ「なるようにしかならない」わよね。
 それに今は年末、今年の憂いは今年のうちに捨て去るのが一番!
 というわけだから、紅白歌合戦に出場するわよ! もう申し込みは済ませてきたわ!」
「……は!?」
 
 あまりに唐突なセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)の言葉に、珍しくセレンフィリティがまともなことを言い出したと思っていたセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が、やっぱりいつものセレンフィリティね、と溜息をつく。
「あたしとセレアナで、ツーピースバンド! ユニット名は『DETONATION GIRLS』! ヴォーカルは二人、あたしがギターでセレアナがベース! ……他に言っておくことあったっけ? なかったら早速練習よ!」
「ま、待ってよ。歌詞とかどうするつもり?」
「そんなのどうにかなるわ。それより練習よ! 楽器が弾けなかったらバンドにならないわ!」
 弾丸のようにまくし立て、練習に向かおうとするセレンフィリティを追いかけながら、本当に大丈夫なのかと勘繰るセレアナであった――。
 
「さあ、次の歌い手は女性二人のバンド、『DETONATION GIRLS』。それでは、どうぞ!」
 そして今、セレンフィリティとセレアナは紅白歌合戦のステージに立っている。
 ギターとベース、バックバンドからドラムとキーボードを用意され、完全布陣の二人に、演り切るまで逃げ場はない。
 ……そもそも、一人は逃げるつもりなどなかったが。
 
「あたしたちの歌を聞いていきな!」
 
 観客を煽るようにセレンフィリティが声を張り上げ、ギターを爪弾く。
 1日12時間の練習が功を奏したか、バックバンドの演奏が良かったか、おかしいところは感じられない。むしろ荒っぽさが、彼女たちの格好――セレンフィリティはメタリックブルーのトライアングルビキニの上にロングコート、セレアナは同じくロングコートの下に、ホルターネックタイプのメタリックレオタード――と相俟って熱狂的な雰囲気を生み出す。
 ……これが教導団の団員によるものと知れれば、鋭峰辺りは黙ってないだろうが、幸いにして彼は席を外していた。
 
 戦いは終わった
 さあ あの空に花火を上げよう

 
(今のところは順調に行っているみたいだけど……)
 ベースを爪弾きながら、セレアナがマイクに向かって叫ぶように歌うセレンフィリティを見つめる。
 
 あんたの銃を おったてて
 一発デカイの ぶっぱなせ

 
(やっぱり! ちょっと、何考えてるの!)
 本人は景気のいいことを言っているつもりで、かなり過激な言葉が激しい曲に乗って飛んでいく。
 しかし、一旦走り出した列車を止めるのは至難の業であるように、バンド演奏も終わるまでは手がつけられない。
「ちょっとセレン、いい加減に――!?」
 間奏に入ったところで、収拾をつけようとしたセレアナも、振り向いたセレンフィリティに不意討ちで唇を奪われ、湧き起こる歓声の中、当初の目的を忘れてしまう。
 こうなれば、後は誰も何も、ステージを止めるものはない。
 
 今を楽しめ 未来は考えるな
 なるようにしかならないこの世界を 乗りこなせ!
 
 後悔も鬱憤も はじけ飛んで消え失せろ
 あたしたちが真の勝利者だ!

 
「イェーーー!!」
 声を出し切ったセレンフィリティが、恍惚な表情を浮かべてステージに倒れ伏すと、会場から熱狂的な歓声が湧き起こる。
「ちょ、ちょっと、こんなところで倒れないで」
 格好が格好だけに、少しでも乱れた姿を晒せば放送禁止状態になりそうなところを、セレアナが自らの身体を使ってごまかしつつ時間を稼ぐ。
「……セレアナ、どう? 気持いいでしょ?」
「……そうね、悪くないわ」
 やがて回復し、立ち上がったセレンフィリティに問われて、セレアナが微笑みながらそう告げた――。
 
「な、なんか、凄かったですね……。僕、見ていられませんでしたよ」
「ふふ、まるで鋭峰がいないのを見越してプログラムを組んだようじゃな」
 静香とアーデルハイトのやり取りが交わされつつ、審査員が審査の結果を発表する。
 
 涼司:9
 コリマ:6
 ジェイダス:1
 アーデルハイト:7
 ハイナ:8
 静香:6
 
 合計:37
 
 やがて、鋭峰が審査員席に戻り、コリマとジェイダスが代わり、元の6人で場は進行していく――。