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シャンバラ独立記念紅白歌合戦

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シャンバラ独立記念紅白歌合戦
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リアクション

 
「は〜い、おそばできましたよ〜」
 セレスティアが、トレイに二人分の年越し蕎麦を載せてアキラたちの下へやって来る。
「おーせんきゅ〜セレス」
「すまんのぅ」
 それぞれの前に置かれる蕎麦を見、二人がセレスティアに礼を言う。
「先に食べていてください、私はお片付けを済ませてしまいますから」
 二人に微笑んで、そして立ち上がり台所に行こうとしたセレスティアを、アキラが引き止める。
「セレスも、一緒にコタツに入ってテレビでも見て、ゆっくりしようぜ」
「ですが……」
 台所を見、セレスティアがどうしようかという顔を浮かべる。
「いいよ、そんなん後でやれば。こんな時くらいサボったって、バチは当たらんぜ」
「そうじゃな。こういう時は皆で共に過ごす事も大事じゃろう」
「……そうですね。では、そうさせてもらっちゃいましょう」
 頷き、セレスティアがコタツに足を入れる。
「おそばの方はどうですか?」
「あぁ、うめぇ! やっぱ年の終わりにはこれだよなぁ」
「これ、食べながら話すでない、行儀が悪いぞ」
「よかったです。私も後でいただきますね」
 部屋に、蕎麦をすする音と、楽しげな声が響いていく。
 その一方でテレビからは、契約者たちの想いを込めたステージが映し出されていた――。
 
「見かけに騙されてはいけません。生粋の日本生まれ、日本育ち。
 そんな彼女が伝えるのは、演歌の心。
 魂を震えさせる歌を、お聴きください。『荒波百景』」

 
 エレンの紹介を受けて、晴れ着姿の水橋 エリス(みずばし・えりす)がステージに立ち、モニターに映し出される断崖絶壁、そこに打ち付ける波をバックに、コブシの利いた声を響かせていく。
 
 荒ぶる波に 恋心投げ捨て
 次なる地へと 私は背を向ける
 
 あと何度 こんなことを繰り返すのか――
 
 優しい波に 抱かれて眠る
 夢を見ながら 私は歩き出す

 
 涼司:6
 鋭峰:7
 コリマ:8
 アーデルハイト:5
 ハイナ:10
 静香:8
 
 合計:44
 
「やはり、演歌には日本の心が感じられるでありんすなぁ。
 ……どうして皆、そんなに点数が低いでありんすか?」
 どうやらハイナ以外、あまり演歌の心は理解出来ていないようである。
 
「なれば、わっちが本当の演歌を聞かせるでありんす!」
 どこからか持ち出したマイマイクを手に、ハイナが審査員席から直接ステージに飛び上がり、自慢の歌声を響かせる。
 
 涼司:10
 鋭峰:10
 コリマ:10
 アーデルハイト:10
 シズ:4
 静香:10
 
 合計:54
 
 他の五名は、校長が歌っているということで“空気を読んで”10点をつけたが、ハイナの代役として審査員席に座ったシズが、明倫館所属であるにも関わらず容赦ない点数をつける。
「テンポがメチャクチャ。独りよがりで歌っても、全然何も感じないから」
「ちょ、ちょっと遊馬くん!」
 秋日子が割って入り、その場を何とか収めさせる。もし秋日子が入らなければ、後どれだけの罵倒(シズは、至極真面目に評価をしているだけであるが)がハイナに降りかかったことだろう。
 
「そうでありんすか……」
 
 一方ハイナはというと、自信を突き崩されたのが案外堪えたようで、珍しく悲しげな顔をしていた。
 
 
「いや、最近カヤノと一緒に何かする事がなかったよね?
 だから、寂しがってるんじゃないかな〜とか思って、誘っただけだよ? 本当だよ?
 と言う訳で、一緒に紅白に参加するよ、カヤノ! まぁ、元ロックバンド【神世魅】(しんせかい)ボーカルのボクとじゃ気後れするかもだけど〜?」
「はぁ!? なにそれ、あたいそんなの知らないし! いいわ、あたいの本当の力を見せてあげる!
 掲示板企画でケイオースに出番取られた分、全力で歌ってあげるんだから!」
 
 そんなやり取りが会場内で交わされ、そして急ピッチで打ち合わせを済ませたティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)カヤノ・アシュリング(かやの・あしゅりんぐ)風森 巽(かぜもり・たつみ)ルピス・ウィンドリィ(るぴす・うぃんどりぃ)のバンド()の出番が迫る。
「……それにしても、ホントあんた、女装が似合ってるわね。言うのがおかしいって分かってるけど、『可愛い』って言うしかないわ」
 カヤノが、ベースを携え女装姿の巽を見てそう呟くと、ティアがまるで自分が褒められたように胸を張って答える。
「えっへん! タツミもボクの指導の成果が出てきたみたいだね!」
「は、ははは……」(あああ、何で『何でもやる』なんて言ってしまったんだ……)
「だ、大丈夫、巽にぃ?」
 これより前、話の流れで「曲を作る以外なら何でもやる」と言ってしまったことを悔やむ巽を、ルピスが慰める。
「はい、ではスタンバイお願いします」
「あわわ、ぼくたちの出番だよっ。うぅ、全然上手くいく自信ないけど、なるようになれだー!」
 ギターとドラムはバックバンドが担当してくれること、巽とティアがバンド経験者っぽい様子を当てにして、ルピスがぐっ、と拳を握り締め、三人に続いてステージへと向かう。
 
「さあ、それでは歌っていただきましょう。『二人一緒に』、どうぞ!」
 エレンの紹介を受けて、バックバンドのギターとドラムを加え、巽のベースとルピスのキーボードが生み出す旋律に乗せて、ティアとカヤノ、二人の歌声が会場全体に響き渡る。
 
 キミが気になる どこか探してる
 一人じゃ足りない きちり嵌らない
 
 風が吹く様に 足取り軽く
 雪が積もる様に 思い出増えて

 
 ここまではティア、カヤノ(1行ずつ交互なので、実際は2回出現している)の順で、
 
 同じ目線で ぶつかり合えるあんただから
 かけがえのないキミだからこそ
 
 伝えたいけど 素直になれないから
 言葉に出来ない想い 歌に乗せて

 
 ここまではカヤノ、ティアの順で、
 
 キミとあんた 二人一緒に 肩を並べて
 喧嘩しながら 二人一緒に 歩き出そう

 
 ここは二人一緒に、という具合に、1番は見事にパート分けが決まり、間奏では観客の手拍子が木霊する。
(こ、このまま上手く行っちゃうのかな?)
 自分の演奏に少しだけ余裕が出てきたルピスが、そんなことを思った矢先。
 
 なんか気になる あんた探してる
 一人じゃ足りない 上手く回らない

 
 2番は、1番とは逆に、最初はカヤノ→ティアの順だった。
 となると、次もカヤノ→ティアの順になるはずだったが、そこだけ何故かティア→カヤノの順になっていた。
 間違いに気付いたティアが、ギリギリで修正をかけたのだが、それが影響したか、一歩踏み出して歌うはずのカヤノが、足を前に踏み出さない。次はティアが歌った後に歌う、と勘違いしているのだ。
(あぁもう、間違えたのはボクだけど!)
 咄嗟の判断で、ティアが次の歌詞を歌う。
 
 薄氷の様に 壊れやすくて
 
(……へ? ティア、それあたいのパート!)
 カヤノが心の中でそう呟くのも無理はない。事実、ティアはカヤノのパートを歌っていたからである。
 しかしこれは、ティアの考えに基づくものであった。このままティア→カヤノで歌い続ければ、サビまでにティア→カヤノの順番が3回続くことになる。
 1番は2回ずつの編成だった以上、2番もそうしなくては、歌詞を取り違えている以上に、評価に響く。
 やるからにはトップ狙いのティアの、カヤノに間違えていることを気付かせ、フォローを期待する作戦であった。
 
 台風の様に 前見えなくて
 
(もー、どうしてあたいにこんなことさせるのよ!
 ……待って、もしかして、何か目的があって……あっ!)
 
 ギリギリのところでティアのパートを歌い終えたカヤノが、『どうしてティアはあんなことをしたのか』という考えに思い至ったところで、自分が出番を取り違えていたことに気付く。
(そうだった、さっきはあたしが先に出るんだった!
 えーとえーと、次はティアが行くみたいだから、じゃあ、その次はあたいが出ればいいのよね!?
 そこの歌詞はえーと……あーもう、思い出しなさい、このバカ頭!)
 
 触れる事すら 怖くて出来ないボクだけど
 喧嘩ばかりのあたい達だけど

 
 自らの頭にハッパをかけて、すんでのところで歌詞を思い出したカヤノが、今度は先んじて足を前に踏み出して歌い出す。
 
 諦めるのは いつでも出来るから
 
(これでいいんでしょ、ティア!)
 歌い終えたカヤノが、視線でティアに問いかけると、
 
 一人じゃ出来ない事を 今始めよう
 
 本来カヤノが歌うべきだったパートを歌い終えたティアが、ウィンクをして答える。
 
 ボクとあたい 二人一緒に 風を切って
 手を繋いで 二人一緒に 進んでいこう
 明日へ

 
 そして歌が終わり、拍手と歓声を送る観客へ、ティアとカヤノが手を振って応える。
「はぁー……順番を間違えた時はどうなるかと思ったけど、上手く行ってよかったよー……」
 ほっ、と息を吐くルピスに、寄ってきた巽が声を漏らす。
「まぁ、なんだかんだで仲良いしね、あの二人」
「……そうだね。ちょっと妬けちゃうけど……でも、ぼくもその内、あんな風になれるよね?」
 ルピスの問いかけに、巽が頷いて応える。
 その時、審査員が評価を下した。
 
 涼司:8
 鋭峰:7
 コリマ:8
 アーデルハイト:9
 ハイナ:8
 静香:9
 
 合計:49
 
「やった、今の所最高点数!」
「これで、あたいたちの優勝は決まりね!」
 最初のチームを上回る点数に喜ぶティアと、既に優勝した気でいるカヤノ。ルピスと巽も、高い評価を受けたことに素直に喜んでいた。
「ま、あたいの歌声のおかげだし? 優勝商品はあたいが半分もらっていくわね!」
「ちょ、ちょっと待ってよ! ボクの歌声が審査員の心を捉えたから、この評価だったんだよ? ボクが半分……とはいかなくても、色をつけてくれてもいいんじゃないかな!?」
「はぁ!? 何言ってんのあんた、あたいの歌声の方があいつらの心に響いたに決まってるわよ!」
「いいや、ボクだね!」
「あたいよ!」
「……巽にぃ、今さっきぼくが言ったこと、ちょっと撤回していいかなぁ?」
「……我もその気分だよ」
 バチバチと火花を散らせる(それでもちゃんと、舞台袖に向かっている)ティアとカヤノを前に見て、ルピスと巽がはぁ、とため息をつくのであった。