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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(前編)

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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(前編)

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「ミサイルを空京方面に撃ったってことは、偶然起動したんではなく、何処かの誰かが攻撃する意思をもって、動かしているんだろう」
 地上に降りた途端、シャンバラ教導団の少尉、三船 敬一(みふね・けいいち)が皆に述べていく。
「このサイズの要塞を動かしていることを考えると、敵はかなり大規模になるだろうし、激戦は必至だろう。女王の親衛隊であった十二星華が使用していたってことは、要塞自体の防衛システムもかなり強固なものだろうな」
 実際、援軍の攻撃を受けても要塞自体に傷つけることはまだできていない。
「俺は突入班に志願する」
 探索隊のメンバーはイコンを持ってきていない。
 そんな中、敬一はパワースーツを着用していた。
 要塞の内部に、敵がいたとしても、外部から攻撃を受けたとしても、多少の攻撃なら耐えることができるだろうと考える。
「敬一さんのことは、私が要塞まで連れて行きます」
 パートナーの白河 淋(しらかわ・りん)は、小型飛空艇を操縦して敬一を、要塞に送り届けることだけに専念したいと申し出た。
「ありがとう。危険な作戦だが、志願してくれる者が沢山いるようだ。助かるよ」
 そう答える優子に、次々に隊員、仲間達が駆け寄ってくる。
「突入後は、ドラグーン確保や、制御室確保等の複数の部隊に分かれてはどうでしょう」
 刀真が優子に提案をする。
 自分は制御室の確保に向かい、要塞の攻撃停止や進路変更、ドラグーンを確保するための要塞内の地図や進路の確保や防衛システム等の機能を停止、動力源からの切り離し等を試してみたい、と。
「そうだな。だが、そちらには実行犯のリーダーと思われる人物がいるだろう。戦闘を行い、機器類を破壊するわけにも、時間をかけるわけにもいかない。かなり難しい作戦になるな」
「わかっています。ヒラニプラに残っていたパートナーを一人、アレナさんの元に向かわせましたので、要塞内の情報を直接得ることも可能です」
「そうか……」
 優子は刀真の装備をちらりと見た。
「要塞ですが、起動は誰でもできるのでしょうか」
 ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)がアレナと通話中のゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)に問いかける。
「操作方法を知っていれば、出来ないことはないらしいぞ」
 ゼスタはアレナからの返事をロザリンドに話した。
「操作方法を知っている人物、ですか。そしてブライトシリーズについて知っている人物、ですね。……シャンバラ古王国時代の知識を持っている人物、なのでしょうね」
 ロザリンドは続いて、ルシンダに目を向ける。
「ルシンダさんは特殊なお力を持っているそうですが、どのようなことが出来るのでしょう」
「自分への攻撃を把握し、無効化することが出来ます。ただ、目視して認識できていないと無理ですので、不意打ちされたり、素早すぎた場合は普通に傷を負います」
 ルシンダは簡単にそう答えた。
「それはミサイル攻撃でも、見えてさえいればダメージを受けないということ?」
 尋ねたのは教導団のザウザリアス・ラジャマハール(ざうざりあす・らじゃまはーる)だ。
 彼女はエリュシオン人であり、地位も高いと思われるルシンダのことを本当に信頼できる人物かどうか、疑わしく思っていた。
 だが、顔には出さない。
「きちんと確認できていれば……でも、弾丸なども目視して認識するのは難しいですし、私の力は、大した力ではありません」
「攻撃力の感知や、エネルギーの感知は出来ませんか?」
 ロザリンドが問う。
「多少、出来ます」
「それでは、攻撃や突入のタイミングを計る際に、ご協力お願いいたします」
「はい、微力ですが協力いたします」
「ところで」
 ルシンダに、再びサウザリアスが話しかける。
「良雄はエリュシオンの6人全員の選定神に支持されているのかしら?」
 突然のその質問に、ルシンダは不思議そうな顔をする。
「知りませんが……。支持されているから、帝位に就いているのではないでしょうか」
「そう。それは良かったわ」
 サウザリアスは人がよさそうに微笑んでおく。
 シャンバラと帝国は同盟扱いになっているが、いつ関係が悪化するかわからないとサウザリアスは一人、この場でも考えていた。
 ブライドオブシリーズの大半は現在シャンバラが保有している。帝国は本当に善意で協力しているのかという疑問も抱きながら。
「提案があります」
 ロザリンドが優子に提案を始める。
「突入後は、斥候役が調べて障害の確認をとり、それからこういった戦闘を得意とする者が前線に、障害の排除が終わった後に、更に奥に進む……その繰り返しが良いと思います」
 更に、制御系の確保と、ブライトオブドラグーンの奪取は同時展開を目指した方がいいと。
 制御を取り戻す間に、要塞起動者のメンバーがドラグーンを持ち去る可能性がある。
 制御が無理ならドラグーンを外して、強制的に止める必要もあるから。
「一番は一般の方への被害を無くすよう、要塞の攻撃を止める事です」
 そう提案をする。
「確かにその通りだが、今回は慎重に進む余裕がない。要塞に突入したらパートナー同士の班に分かれてもらい、危険を顧みずとにかく各々目的の場所に急いで欲しい。例え、仲間が途中で倒れたとしても、決して振り向かず」
「少しでも早く、突入をすべきだが……仲間を信じて時を待つ、そうだな?」
 ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)が優子に問う。
「ああ、突入口はイコンで開いてもらう。だが、その前に打つ手があるのなら、講じたい」
「要塞内部に入れないこと、それだけは避けなければならない。だが、こんなに集まったのであれば……あるいは」
 ヴァルは優子の元に集まった契約者達を見て、腕を組む。
「これだけのメンバーが揃っているのなら、不可能はないかもしれんな。無論、極めて厳しい状況に変わりはないが」
 ロイヤルガードや、教導団員の多くも突入に志願している。
「できれば、いくつかの場所から突入できた方が良さそうですよね……」
 優子の話を聞いたロザリンドは考え込んでいた。
「んー?」
 隣で、テレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)が首を傾る。
「光ってる魔法的なバリアーが厄介なんだよね。方法としては援軍のイコンの攻撃を一点集中こうげきにして、穴を空けるとかかな? 私達で一斉攻撃……もあり? だけどさ」
 テレサは空を見上げて不思議そうな顔をする。
「バリア張ってるのに、ミサイルは止まらないの? その時、その場所付近はバリア、薄くなってるんじゃない?」
「ああ、聞いた限りでは、普通のミサイルのようだし……バリアを貫通出来るタイプとは思えないな」
「うん、バリア自体が光条兵器のように、防ぐものと防がないものを決められるようになってたとしたら、こっちのミサイルも当たるだろうしね」
 テレサの言葉に頷いて、優子はゼスタに緊急対策本部となっている宮殿と教導団両方に連絡をするよう、指示を出す。
「アレナと繋がっています。聞くことはありますか?」
 携帯電話を手に、そう言ったのは早川 呼雪(はやかわ・こゆき)――東シャンバラのロイヤルガードとして、尽くしてきた薔薇学生、アレナが親しみを抱いている人物でもある。
 ただ彼は、少し前にロイヤルガードの現状を憂い、上申と共に地位を返上していた。そのことを優子に直接報告の上、探索隊に加わっている。
 優子は彼の退団をとても惜しみ、探索隊への参加を歓迎したという。
『優子さん……』
 呼雪の持つ携帯電話から、アレナの心配そうな声が響いてくる。
 アレナには、呼雪のパートナーのタリア・シュゼット(たりあ・しゅぜっと)が連絡係として付き添っているが、この場は辛うじて電話がつながるため、パートナー通信ではなく普通に電話をかけていた。
「突入の為に、どこを狙うべきか。そこには何があるか、そのあたりを聞きたい」
 不安気なアレナとは対照的に、優子は事務的な口調だった。
『もうすぐ、地図が届くと思います。砲弾の辺りには、エネルギー室があります。突入をされるのなら、ミサイルが格納されている場所には、攻撃をしないでください……』
 あの、と言葉続けた後、アレナはこう言う。
『そちらに行ったらダメ、ですか? 近くで説明した方が、一緒の方がいいと思います』
「いや、突入する私と一緒にいたのでは、キミが持つ貴重な情報を流すことが出来なくなる。それに、戦闘面でも今回は接近戦中心になるため、ゼスタの方が組みやすい」
 更に、シャンバラ宮殿と空京には、百合園生が来ている。白百合団員として、副団長のパートナーとして、アレナにはそちらを任せたいと、優子は早口で言う。
 そんな優子の答えに『わかりました』と小さな声が返ってくる。
 ちらりと、月夜が優子を見る。
 アレナの言葉は多分、自分がアレナの傍にいる玉藻 前(たまもの・まえ)に伝言を頼んだ『今優子に言う我が儘はない? 必ずきいて欲しい我が儘、あるなら言っておくと良いよ』という言葉を受けて、彼女が必死に口から出した台詞。
 それから月夜は刀真の方を見る。
 自分は、いつも刀真と一緒に戦っている。その我侭を聞いてくれるし、当然のことだと刀真も考えているはずだ。
 アレナも優子とそうありたい。
 だけれど、優子はアレナを意思を同じくして、身体は別と考えている、のだろうか。
 離宮の時も、人質交換の時も、封印の時も、ゾディアックの時も、今も、互いが辛い時、優子とアレナは一緒にはいない。
「大丈夫だ。優子さんには皆がついている。今度は俺やユノも一緒だ」
 呼雪がアレナにそう語りかけて、落ち着かせていく。
 呼雪の言葉と、電話から聞こえてくるアレナの声に、そっとユノ――ユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)が視線を落とす。
 呼雪と同様に、ユニコルノはアレナと親しくして、きた。少し前までは。
(私は、アレナさんとは、もうあまり関わらない方が良いのかもしれない)
 ユニコルノは、戦いの為に作られた、人殺しの道具である、戦闘型の機晶姫。
(道具として扱われる事に拒絶を示すアレナさんに、良くない影響を与えてしまうかもしれない……)
 ユニコルノは今は見えない、要塞の方へと目を向ける。爆撃音だけが響いてくる。
(アルカンシェル……十二星華の過去と共に、嫌な思い出を呼び起こしてしまうのなら、いっその事、撃ち落としてしまおうか)
 ふと、そんなことを考えてしまう。
 だけれど、自分には決定権はない。
 人に作られた兵器であるユニコルノには、隊の方針と、自分を目覚めさせた呼雪の意思が絶対だから。
「俺も突入班に加わる。いいか?」
 電話を切った後、呼雪がユニコルノと、ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)に確認を取る。
「勿論。確保を目指したいけど、今は進攻を止めることが優先だね」
 ヘルはそう答え、ユニコルノは……。
「はい。どうぞ、お命じ下さい」
 そう答えた。
 その答えに、呼雪は軽く眉を寄せる。
「これは命令じゃない。危険な作戦だが、ユノの力が必要だ。一緒に来てくれると嬉しい」
「……はい」
 ユニコルノはまた視線を落しながら、返事をした。
 その時。
 ユニコルノの携帯電話が音を立てる。……タリアからだ。
『アレナちゃん、ゆがけをぎゅっと抱きしめてるわよ? 何か伝えることない?』
「いえ……なにも。あ……こちらは大丈夫です、とだけ」
『了解。無理はしないでね。させないでね。それじゃ、また連絡するわ』
 タリアの言葉に、はいとだけ答えて、ユニコルノは電話を切った。
「アレナさんは来られないみたいだけれど、他の十二星華を呼ぶことはできないかしら? やはり案内として必要でしょうし、ブライドオブドラグーンを制御できるのも、十二星華だけじゃないかしら?」
 サウザリアスが優子に提案した。
「確かに、十二星華がいてくれたら助かるだろうけれど、今から合流して共に突入するのは無理だ」
 優子はそう返答する。
 とにかく時間がない。碌な準備も出来ないままに、彼女達は突入しなければならないのだ。