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【ダークサイズ】俺達のニルヴァーナ捜索隊

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【ダークサイズ】俺達のニルヴァーナ捜索隊

リアクション


4 『亀川』調査

 モンスターを順々に倒すだけでなく、同時に補給所・休憩所の確保もしておこうと、ダイソウが思いつかないところで動けるあたり、ダークサイズの幹部たちは非常に戦略的である。
 遺跡の神殿に近づくと、中からは『亀川』から発すると思われる冷気が漂い出し、神殿の外へ漏れた冷気は、外の熱と混ざり合って消える。

「やっと着いたのだ。もう暑くてやってられぬな」

 他のダークサイズが他の地域で探索を行うのを尻目に、まず避暑地を確保しにやって来たリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)

「中は涼しそうだな。見ろ、ここまで冷気が届いてくるのだ」

 熱気に交じって頬に当たる冷たい空気を感じながら、リリが目をつぶる。
 リリの隣では、ララ・サーズデイ(らら・さーずでい)がカールのかかった長い髪を手で流す。

「ふう……さあ、中へ入ろう。これ以上、汗と土埃が身体にまとわりつくのは美しくない」
「あたしも……お風呂入りたいんだもん……」

 ユノ・フェティダ(ゆの・ふぇてぃだ)もすっかりダレながら神殿へ思い足を勧める。

「セレン……なぜ服を着させてくれないの……暑さでものすごく疲れたわ」

 いつものようにセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)に水着姿にさせられているセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が、少し息を荒げながら文句を言う。
 同じく露出の高いセレンフィリティだが、

「ふっふふふ! この暑さこそが、あたしたち『セクスィー☆ダイナマイツ』にはおあつらえ向きな舞台じゃないの! ネネとフォルトゥーナの合流が待ち遠しいわ!」

 暑さのせいか、いつもよりさらに頭のネジが飛んでいるセレンフィリティ。
 テンションばかり高いものの、この火山帯の遺跡をビーチか何かと勘違いしている。
露出度の高い水着姿でうろつく二人だが、遺跡内の暑さでは、身体を衣服で覆わないのは逆効果だ。
 この環境では薄い布地で肌を熱から守るべきなのに、セレンフィリティはポリシーを守ってしまった。

「くくく、暑いわね」
「セレン、変な笑いしないで。ほら、もう神殿に着くわ。あそこで涼みましょう」
「入るまでもない! 暑いなら脱げばいいのよ!」

 セレンフィリティがビキニの上を脱ぎ捨てる。
 セミヌード状態のセレンフィリティの胸を、セレアナが慌てて隠し、

「セレン! 対処法が逆よー! そもそもそれ一枚脱いでも意味ないわー! あと公衆の面前よー!」
「かまわない! ほら、あの子もあの子もみんな女の子よ。ここには男なんて一人もいないじゃない!」
「こほん……」

 男の存在を咳払いでそれとなく気付かせるあたり、神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)は紳士だ。

「失礼しましたー!」

 セレアナがセレンフィリティを抱えて、神殿に走り込んでいく。
 神殿内では、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が写真で内部の様子を撮っている。

「ニルヴァーナってわりに、ずいぶん殺風景な所ね。やっぱり遺跡によって景観は違うのかしら」
「きっとそうでしょうね。このような環境では派手な装飾をしても暮らしづらいでしょうし。見てください。飾り物は見当たらない代わりに、柱や壁には彫刻が施してあります」

 祥子に近づきながら、翡翠が指をさす。
 山南 桂(やまなみ・けい)が休憩用のシートを取り出しながら床を見る。

「地下だけに埃などは少ないですが……掃除くらいはしておくべきでしょうか、主殿?」

 桂が翡翠に問う。

「そうですねぇ。少し広いのでひと手間ですが、ソウトウ達も時間を置かず到着するでしょう。探索や戦闘を担ってくださってるんですから、快適な休憩所にしたいですね」
「あ、それなら任せて」

 祥子が【天狗のうちわ】を思い切り振ると、冷えた風が対流を起こし、一気に埃や火山灰をこもった空気ごと追い出す。
 蒸し暑い空気から一転、冷たい風を湿った全身に受けたセレンフィリティとセレアナがぞくぞくっと震える。
 翡翠と桂がニコリと笑い、

『ありがとうございます』
「いいのよ。とにかく休憩所もいいけど、ここを私たちの拠点にできた時のことも考えたいわ」
「ふむ。それは大切なことですね。きっとソウトウも考えてないでしょうし」
「やっぱりそう思う? 神殿っていうからには、ここはアルテミスさまとダイダル卿の、神二柱がおわす場所っていうのが妥当だと思うの」
「ふふふ、二人ばかりが立派で、ソウトウ殿がほったて小屋にでも放り込まれるのが想像できます」

 桂が翡翠の【小型飛空艇【GC】】から水を下ろしながら笑う。

「それも面白いけどね。近くに長の館もあるみたいだし、ダイソウトウはその辺でいいんじゃないかしら」

 祥子は、桂の水の一部を【氷術】凍らせ、冷たい飲料水を作る。
 翡翠達がダークサイズを迎える準備を整えているのを見て、リリが、

「では、休憩所は任せたのだ。リリたちは『亀川』を調べてくるのだ」

 と、光が届かない暗がりを指す。
 祥子がリリを振り返り、

「そうだったわね。フレイムたんの口ぶりだと、『亀川』に襲われることはなさそうだけど」

 翡翠も手を叩き、

「『亀川』は他のモンスターとはスタンスが違うのでしたね。そうそう、リリさん。でしたらこれをお持ちください」

 と、彼は水を張った大きなたらいをリリに差し出す。

「何なのだこれは?」
「手懐けるには、餌付けと快適な居場所を作ってあげるのがいいでしょう。亀には泳ぐ場所も欲しいでしょう?」
「翡翠……『亀川』は亀なのか?」
「おや? 『亀川』は亀ではないのですか?」
「主殿。亀かもしれませんが亀とも限らないのでは……」
「……ああ! 自分としたことが」

 翡翠は名前から来る思いこみに気付き、珍しく顔を赤くする。

「じゃあ、あたしたちも行くわ。『亀川』の扱い次第では温度調節もできるかもしれないし」

 セレンフィリティが両二の腕をさすりながら言う。

「……何か一枚羽織ればよいのでは」

 と、翡翠がつぶやくのを、

(もっと言ってやって!)

 と、セレアナが目で訴えている。
 セレンフィリティは、『セクスィー☆ダイナマイツ』のメンバーであるフォルトゥーナとモモが着いたら奥へ来るように伝えてくれと翡翠に頼み、冷気の中へ進んでゆく。


☆★☆★☆


「あ、ホントに亀だったわ……」

 神殿の中央の祭壇で、青白い光をほんのり放つ『亀川』を見て、リリ達は感想を言った。
 『亀川』は眠ったようにうずくまり、リリやセレンフィリティたちに反応もしない。
 亀は万年の文字通り、1万年の時を越えて『亀川』は存在し続けたのであろうか、祭壇周辺は冷気によって破損が少ない。

「これは、ただの飾りか、それとも古代からのメッセージか……フレイムたん、質問なのだ!」

 リリがつぶやきながら祭壇周辺の彫刻を見、突然空に叫ぶ。

「どうしたんだリリ。フレイムたんはまだダイソウトウと共にこちらへ向かう途中だぞ」
「うわーん、温度差でリリちゃんがおかしくなっちゃったんだもん!」

 ララとユノが、リリの挙動を心配する。
 が、リリはふふふと無表情のまま含み笑いをし、

「フレイムたんが何故テレパシーで会話をするのだと思う? 誰も気に留めぬが、リリはその謎を解いたのだ。フレイムたん、応えるのだ!」
(はぁーい。呼んだー?)

 リリ達の頭に、フレイムたんの声が響く。

「おお、長距離の会話も可能なのか」
「すごいんだもん、リリちゃん!」
「フレイムたん、ここにある犬の彫刻画、これはおぬしを指しておるのか?」
(ええー、ボクの似顔絵? 誰か描いてくれたんだー。うわーい)
「いや、喜んでおるでない。リリはこれはフレイムたんを指すのかと聞いておるのだ」
(えーわかんなーい。ボクが近寄ったら、『亀川』ったら怒るんだもん)
「うーむ、フレイムたんは知らぬか」
「ていうかフレイムたん……肝心な情報、あんまり持ってないんだもん……」

 ユノががっかりしてうつむく。
 フレイムたんとのテレパシーを聞いたセレンフィリティが続いて質問する。

「じゃあフレイムたん、この『亀川』は『おもちゃ』なの? そうじゃないの?」
「モンスターかどうかね。セレン、いい質問だわ」

 そういうセレンフィリティとセレアナの震えは、先ほどより少し大きくなっている。

(わかんなーい。だって『亀川』ったら、ボクと会ってくれないんだもん)
「こんの役立たずがー! こちとら寒くて早く何とかしたいのよ! 『亀川』調節する方法教えなさいよー!」
「セレン……本音が出たわね」

 何か羽織るなり外へ避難するなりすればいいのに、セレンフィリティの負けず嫌いな性格が仇となっている。

「仕方ないわ。セレアナ、『亀川』とコンタクトを取ってみるわよ」

 セレンフィリティとセレアナは、小刻みに震えながら翡翠のたらいを『亀川』の前に置き、魚をふりふり話しかける。

「さー『亀川』。いい子だからその冷気ちょっと抑えてくれないかしら」
『……』

 とはいえ、容姿からも『亀川』は会話が成立する相手には見えない。
 『亀川』はセレンフィリティを完全無視である。

「さー『亀川』ちゃん、いい子だから『亀川』ちゃ、亀か、かめー! 何とか言いなさいよー! この、この!」
「いい加減にせんかいー!」

 『亀川』を足蹴にするセレンフィリティを、セレアナが【幻槍モノケロス】でぶっ飛ばす。

「全く反応なし、か……」

 ララが『亀川』の様子を見る。
 リリは【トレジャーセンス】と【博識】で、祭壇周辺の彫刻を読みとろうとする。
 が、保存状態が良いとはいえ、時間が経ちすぎた。

「……」
「ねーリリちゃん、何か分かった?」
「これは……あれなのだ。何かの封印のサインなのだ……たぶん」
「たぶん?」
「そうだ、考えてもみるのだ。『亀川』はフレイムたんが近寄るのを許さぬ。逆属性を拒否することが、何を指すと思う?」

 リリが独自の理論(妄想)を展開し始める。

「あのギフトがフレイムたんならば……この『亀川』は、『アイスたん』に違いないのだ!」
「あ……アイスたん!」
「そしてここに描かれている剣のような文様」

 リリが指した画をララが見る。

「これは……もしやフレイムタン、か?」
「フレイムタン、フレイムタン……フレイムたん!」
「フレイムたんイコールフレイムタン。つまりあれは、剣のギフトなのだ。それも火属性の強力な奴!」
「そっか! ここにフレイムタンとフレイムたんが描かれてるってことは!」
「そうだユノ。『亀川』もギフトに違いないのだ。フレイムたん! 今すぐここに来るのだ。二つが合わされば、何か起こるに違いないのだ」
(はぁーい)

 今回のルールを無視した結論に落ち着くリリ達。
 フレイムたんの返事が聞こえると共に、神殿の入口の方から悲鳴が聞こえてくる。

「だー! 俺様のデラックスモヒカンがぁー!」

 入口では、神殿に入った途端に身体に炎が蘇るフレイムたん。
 それに巻き込まれ、ゲブーが取りつけた【デラックスモヒカン】が燃え上がる。
 そして、リリ達のいる奥では『亀川』から吹雪のような強い冷気の風が起こる。
 極寒の風は神殿の入口まで及び、到着したばかりのダイソウたちを襲う。

「これは寒くてやってられないのだ」

 リリたちは、凍ったセレンフィリティとセレアナを抱えて外へ避難。
 ダイソウ達も慌てて外へ出ると、ようやく『亀川』の風が収まった。

「お前たち、一体何をしでかしたのだ……」
「リリ達は何もしてないのだ。セレンフィリティが『亀川』を蹴っておったが」
「ししし、仕方ないじゃない……でででも蹴っても反応なかったし……」

 まだ震えが収まらないセレンフィリティだが、やはり外へ出て炎が収まったフレイムたんが、

(たぶんボクだと思うよ。『亀川』ったらボクのことキライみたい)
「ふむ。フレイムたんを台座に設置すれば何か起こりそうだったのに。何か対策をせねば、その先は見れないのだ」

 リリは残念そうに神殿を見る。
 ダイソウの元に、翡翠と祥子が来る。

「フレイムたんが入らなければ、神殿は使えそうだけど……ダイソウトウ、どうする? 休んでいく?」
「休憩場所としては整えておきましたが」

 ダイソウは二人に頷き、

「うむ。だが今の風で身体がすっかり冷めてしまったな。私はあそこの長の邸を見るとしよう。休みたい者は休憩しても構わぬ」