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【蒼フロ3周年記念】パートナーとの出会いと別れ

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【蒼フロ3周年記念】パートナーとの出会いと別れ
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 ■ 憧れに導かれるが如く ■
 
 
 
 リネン・エルフト(りねん・えるふと)ユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)と契約することにより、パラミタへとやってきた。
 それまでの境遇から解放され、自分自身で生きられるようになった……とはいえ、すぐに現在の状況に順応出来るはずもなく、この頃のリネンは口を開くことも少なく、自身の感情を露わにすることもほぼなかった。
 
 それでも、パラミタでの日々は少しずつ、リネンを変えつつあった。
『自分のような、法の力で守りきれない弱者を助けたい』
 それは、パラミタでこなした冒険の中で生まれてきた、リネンの願いだ。
 どんなに法律を巡らせて人を護ろうとしても、その陰で不条理な窮境に置かれてしまう人は無くせない。
 法が手を差し伸べてくれない場所にいたことのあるリネンだからこそ、その思いは強かった。
 けれど、その為に何をすれば良いのだろう。
 思いだけあって手段が分からぬもどかしさに、リネンは悩んでいた。
 
 その時も、無事に冒険を終えた気だるい疲れと、飛空艇の振動に身を任せながら、リネンはぼんやりと自分の人生の目的について考えを巡らせていた。
 ちょっと席を外すと言ったまま、ユーベルはまだ帰ってきていない。
 他に知る人もいない乗り合わせの飛空艇の中、リネンは物思いに沈んでいた。
 だがその思考は、突然の衝撃に破られた。
「……何?」
 衝撃に続いて、横への強烈なGがかかり、リネンは座席の手すりにしがみついた。
(急旋回してる……?)
 続いてまた、地響きのような衝撃。
 あちこちで挙がる悲鳴。
 飛空艇が襲われている。そう気付いたリネンが窓から外を覗けば、リネンの乗る飛空艇を攻撃してくる飛空艇が見えた。
 何とかしなければ。
 自分に何が出来るのかは分からなかったが、リネンは足を踏ん張って立ち上がると、揺れと人々の混乱の中、じりじりと操縦室を目指した。
 
 操縦室の扉が見えてくる。
 あと少し。
 だが操縦室の前の廊下は乗り込んできた空賊との交戦中。
 たちまちリネンもそれに巻き込まれる。
 何人かを倒したものの、リネンが手強いとみた相手は束になってかかってきた。押さえつけられ、ナイフを振り上げられ、もはやこれまでかとリネンが観念しかかった……その瞬間。
 操縦室の扉が勢いよく開いた。
 柄の悪い男の腕を後ろ手にねじり上げながらそこから出てきたのは、真っ白な翼を持つヴァルキリーの女性だった。
「お頭の命が惜しいなら、さっさとここから退散なさい」
 凛々しくも美しいその女性は、男を盾に空賊を容赦なく攻撃し、あっという間に空賊を蹴散らしてしまった。
「これでもう大丈夫ね。良きフライトを」
 もう用は済んだとばかりに去っていこうとする女性に、リネンは呼びかける。
「……あ、あなたは……?」
 その声に振り返った女性は、あでやかに笑った。
「フリューネ。一匹狼の空賊よ」
 待たせてあったペガサスに乗り、長い黒髪を靡かせて去ってゆくフリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)を、リネンは息も出来ずに見つめ続けた。
 
 フリューネが去ってほどなく。
「あらかた片づいた後……ちっ、出遅れたわね。フリューネのヤツ」
 やってきたヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)は、忌々しげに舌打ちした。
「あの人を……知ってるの?」
 フリューネの名を耳にして、リネンは弾かれたように顔を上げた。
「まあね。こっちも同じ一匹狼の義賊空賊だから、獲物が被ることもあるのよ……って、何?」
 いきなりリネンに飛びつかれ、ヘイリーは面食らった。
「わ、私もあんな風になりたい……フ、フリューネみたいにみんなを助けたい! あなたも空賊なんでしょう!? 義賊なんでしょ!? お願い……私を空賊にして……」
「な、何よあんたは。訳分かんない!」
 ヘイリーは最初は混乱し、事情を呑み込んでからは突っぱねた。
「賊になりたいとか軽々しく言うな! そんなもんに憧れんな!」
「軽々しくなんて言ってない。やっと見付けられた……私の目的……絶対に諦めない」
「義賊なんて……ロクな最期じゃないわよ。あんたが憧れてるフリューネだって……いつか無様に辱められて……死ぬ」
 かつてのあたしのように、とヘイリーは苦しげに呟いた。
 けれどあまりのリネンの熱意に押され負けて、ヘイリーは遂にはそれを了承した。
「いいわ……契約よ。我が名はヘイリー……英霊ヘリワード・ザ・ウェイク。今後ともよろしく」
「ありがとう……ヘイリー」
 人生の目的とその手段を見いだしたリネンは、目に浮かんだ涙を拭いてヘイリーの出してくれた手を取ったのだった。
 
 
 ■ ■ ■
 
 
 フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)との出会いは、リネンが空賊として活動を始めて暫く経った頃。
 フリューネがマルドゥークを助けたのとほぼ同時期、リネンもカナンから逃れてきたフェイミィを救出したのだった。
 
 カナンは国家神イナンナの下に東西南の各領主がおり、その下に各領主から土地を賜る騎士、諸侯がいる。フェイミィはカナンのアウトロー、諸侯オルトリンデ家の生き残りだった。
 カナンで征服王と戦うも敗北、シャンバラに逃走してきたフェイミィだったが、そこで追っ手に捕まった。それをリネンが助けたのだ。
 
「あなた、ヴァルキリー……!? カナンからきたですって?」
 ぽつりと語ったフェイミィの話に、リネンは目を見開いた。
「ああ……」
 助けられたというのに、フェイミィの表情は暗く曇っている。
 イライラと髪をかきむしり、狂ったように壁に頭を打ち付けた。
「殺せ……殺してくれよ……! オレは死にたいんだ……」
 フェイミィの言葉に、リネンはかっとした。
「あなた……死ぬとか軽々しく言わないで!」
「死んだほうがいいんだよ……オレには……神も仲間も……心も、体も……もう、何もないんだよ……」
 フェイミィは呻いたが、リネンは手を緩めなかった。
「何もない? まだあなたは話せるし、手も足もついてるでしょ」
「オレには何もできない……なら、口も手も足も、あったところで何の意味も……ない……」
 フェイミィの味わった深い絶望と喪失感は、リネンには分からない。だが、このままではフェイミィがダメになるだろうということは、はっきりと分かった。
 そしてまた、リネン自身も気付いていないことだったが、フリューネとの契約の代償行為として、いわばフリューネの代わりとしてこのヴァルキリーと契約したいという、隠された願望もあった。
「何も出来ないなら、出来るようになればいいのよ」
 だからリネンはフェイミィにこう持ちかけた。
「私と契約しなさい、フェイミィ・オルトリンデ。コントラクターとしての力を手に入れれば、あなたは戦える」
「オレが、戦える……」
 暗い深淵だったフェイミィの瞳に、わずかに光が灯る。
「奪われたなら奪い返せばいい。私の知っているヴァルキリーならきっとそう言うわ」
「奪い返す、か……」
 フェイミィの口端が僅かにあがった。
 敵に立ち向かってきたそれまでの自分を呼び起こすかのように。
「いい言葉だな。いいぜ、リネン。やるよ……オレの全てを」
 そしてリネンとフェイミィは契約を結んだ。
 カナンをネルガルから取り戻す、その誓いを胸に。
 
 
 ■ ■ ■
 
 
「……本当に、どうしてアレがこうなっちゃったのかしらね……!」
 過去見を終えたリネンは思わずそう呟いた。
 何がどうなって、今こうなっているのか、出会い以上に不思議でならないけれど。
 きっとそれも、出会いの妙というものだろう。
 フリューネの存在があったからこそ、とも言える2つの出会いを、リネンは楽しくも思い出深く振り返ったのだった。