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はっぴーめりーくりすます。

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はっぴーめりーくりすます。
はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。

リアクション



14.あなたとした約束


 人形が完成した。
「でき、た」
 休まずに作っていた、その疲れも忘れて茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)は椅子から立ち上がる。
 ――やっと、工房に行ける。
 ハロウィンの日にリンスから出された課題。発破をかけられて、そして自分もそれに乗って、啖呵を切ってからもう二ヶ月近く。
 それが、自分自身で思っていた以上に嬉しかったらしい。
「久し振りに工房へ行くのか?」
 その喜びを、あっさりとレオン・カシミール(れおん・かしみーる)に見破られた。まだ口に出してもいないのに。
「そう! 一緒に行かない?」
「ああ。衿栖が嫌がらなければそのつもりでいた。……ところで、気付いているか?」
「? 何に?」
「浮足立ちすぎだ。スキップでもして行くつもりか?」
 言われて、足元に目をやった。
「…………べ、別に、課題が終わったのが嬉しくて、つい……なんだからね?」
「何も言っていないだろう」
「う……い、いいから行くわよ!」
 これ以上ぐずぐずしていたら、また何か言われてしまいそうだ。
 ――それに、早く見せたい。
 完成したばかりの人形をぎゅっと抱き締め、衿栖は家を出た。


 工房のドアを開ける瞬間、微妙に緊張。
 何せずっと来ていなかったのだ。心の準備が追いつかない。
 なのに、レオンがあっさりとドアを開けてしまって、
「…………」
「…………」
「……ま、待たせたわねリンスてんちょー!」
 微妙な間を開けてしまい、ああもういいやと勢いで誤魔化すことにした。
「うん。待ってた」
 ――ま、待ってた!? 予想外の言葉だわ……!
 返事の一つにぎくしゃくしながら、リンスが座る椅子の前まで歩き。
「はい、課題の人形! これでどう!?」
 会心の作品だ。自信もある。
 だけど、どんな評価を受けるかわからなくて、心臓はどくどくと大きく跳ねている。
「…………」
 そんな衿栖に気付いているのか居ないのか。じっくり、人形を見るリンス。
 ――だ、駄目出しでもなんでもいいから、何か言って……。
 衿栖が沈黙に耐えきれなくなった頃に。
「お見事」
 短く、一言。
「……え、」
「予想以上のを持って来たね。驚いた。……ってなんでそんなアホ面してるの」
 アホ面、と言われ思わず顔を隠し。
 今、言われた言葉を頭の中で繰り返す。
 お見事。予想以上のもの。驚いた。
 つまり、
「ご、合格……?」
 恐る恐る、顔を隠していた手を話して訊く。
「合格」
 その言葉に、じわり、目元が熱くなった。
 ――認めて、もらえた。
「何泣いてんの」
「な、泣いてないわよ! リンスの目は節穴ね!」
「いやいや。明らかに泣いてるでしょ潤んでる」
「深くツッコまないでよ! 乙女心わかんないわねー乙女みたいな顔しておいて!」
 再び顔を隠して、ごしごしと乱暴に目元を擦る。顔関係ないじゃん、とリンスが抗議の声を上げていたが知るものか。
「あー、大きな声出したらちょっとすっきりした!」
「勝手に自己完結してるし……」
「ねえリンス。合格祝いに、私の話聞いてくれない?」
「はいはい、どうぞ」
「私ね、気付けたの。
 今まで自分がどんな気持ちで人形を作っていたのか」
 いいものを作らなければいけない。
 評価されるものを。誰が見ても素晴らしいものを。
 そのプレッシャーには打ち勝った。
 期待されたら、期待に応えるだけのものは作ってきた。
 だけど、
「技術だけにこだわっていたら、誰かを笑顔にすることはできないのよ」
 手に取った人が自然と笑顔になるような人形は、作れない。
 気持ちを込めていないのだから、伝わるはずがない。
「どんなに綺麗に作った人形も、想いを込めて作られた人形には敵わない――そうでしょ?
 以上、私の話終わり!」
 ぽかん、とした様子のリンスから返事を待たず。
「それよりクリスマス人形、全部売れたの?」
「え、あ。まだ」
「じゃあ客引きしてくる! ハロウィンの時みたいに、来客地獄に遭うがいいわ!」
 そう言って、工房を出て行った。


「……途端に元気だな、あいつ……。
 にしても、驚いた。人間、二ヶ月で随分変化するものだね」
 リンスの呟きに、レオンはふっと笑った。
「お前が変えたんだぞ?」
「別に俺何もしてないよ。カシミールさんこそ何かアドバイスしたんじゃないの」
「いや、俺は何も言ってない」
 あの課題は、衿栖が前に進むために自分で乗り越えて行かなければいけないものだったから。
「そんな野暮は出来ないさ」
 そう。
 野暮なことは、しない。言わない。
 だから、衿栖が気付いていない衿栖自身の気持ちについても、彼女自身が気付くまで何も言わない。
 ――見ているだけなのも、少しもどかしいけどな。
 そんな自分の気持ちも含めて、秘密である。


*...***...*


 ――誘っちゃった、誘っちゃった!!
 高峰 結和(たかみね・ゆうわ)は、緊張と嬉しさで浮かれすぎてしまいそうになるのを必死でこらえる。
 クリスマス。特別な日。恋人同士で、過ごしたい日。
 そんな日に大好きな人と一緒に居ることが叶った幸せ。
 だけど、浮かれ過ぎてはいけない。だって、クリスマスが恋人同士の日と特別扱いされているのは、日本だけのような気がする。
 だから、なんてことないんだ。
 ――いつもと同じ、いつもと同じ。
 言い聞かせようとしても。
 ――……いつだって、一緒に居られるだけで。
 ――幸せなんですよ、ね。
 ぽわぽわした気分が抜けず、やっぱりふわふわした足取りになる結和に、
「なあ、結和さん」
 静かに隣を歩いていたコルセスカ・ラックスタイン(こるせすか・らっくすたいん)が声をかけてきた。
「は、はいっ! なんでしょー?」
「何やらハロウィンの時よりも派手に街が飾り付けられているが……どうしてなんだ?」
「それは、クリスマスだからです」
 答えながら、ああ、やっぱり。そう思った。
 ――クリスマスが特別なのって、日本だけなのかなぁ。
 ――そもそも、キリスト教圏のお祝い事だし。
 そう考えると、知らなくて当り前だし、特別視されなくてもやっぱり当り前。
 でも、いいんだ。
 特別じゃなくたって。
 ――幸せ。
 隣に、コルセスカが居ることが、何よりも大事。
 そうやって、浮かれて歩いていた結和だけど、今回は前よりもいくらか周りが見えていた。
「……あれ?」
 なので、人形を操りビラを配って客引きをしている茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)の姿に気付く。
「こんにちはー」
「結和さん!」
 久し振りー、と手を振ってくる衿栖に近付いて、
「その節はお世話になりましたー。こちらでお仕事なさってるのですー?」
 受け取ったビラに書かれている、人形工房。
「そう。よかったら行ってみて、クリスマス仕様の人形はこの時期しか手に入らないんだから!」
 勧められて、コルセスカを見上げる。
「行ってみるか?」
「はいっ。行ってみたいですー」
 ビラにあった可愛いお人形を間近で見てみたいし、ここからもそう遠くなさそうだし。
「じゃあ、案内してあげる」
 衿栖に導かれ、工房に向かう。


 結和が工房に来た理由は、もう一つあった。
 ――コルセスカさん、もうマフラー持ってるよねぇ。
 人形が並んだ棚を見ているコルセスカを見ながら、結和は思う。
 クリスマスプレゼントに、と用意した手編みのマフラー。
 ――っていうか、今、着けてるもんねぇ……。
 鞄の中の、ラッピング済みのマフラー。
 なんだか渡すのが忍びなくて、何か別の物をと考えた時、衿栖に出会えたのだ。
 そして工房で見つけたのは、コルセスカのパートナーに似た人形。
 ――このお人形を、プレゼントしようかな。
 マフラーは、心を込めて頑張って編んだけど。
 慣れない手編みで、網目も綺麗じゃないし。
 だから、いいんだ。
 そう結論を出し、コルセスカのパートナーに似た人形を買ったそのとき。
 くいくい、とコートを引かれた。
「?」
 コートを引っ張っていたのは、小学生くらいの小さな女の子。
「どうかしましたかー?」
 しゃがんで目線を合わせて、問い掛ける。と、
「おねぇちゃんこそ、どうしたの?」
 逆に問われてしまった。
「なんだかつらそうよ?」
 辛そう。
 こんな小さな子に、言い当てられてしまうのか。結和は思わず苦笑する。
「迷ってることがあって……プレゼントを用意したんですよー。……頑張って、自分で作って。だけど、その品物を相手は持っているし……どうすればいいかなぁ、って」
「?? どうしてもってるの?」
「え? それは、よく売られているものですし……」
 特にこの季節となれば、なおさら。
 だけど目の前の少女は首を横に振った。
「おねぇちゃんがこころをこめてつくったものは、たったひとつしかないでしょう?」
「あ、……」
 言われるまで、気付かないなんて。
「……そう、ですよ、ね」
 ――渡してみよう。
 ドキドキ、するけれど。
 渡すだけ、渡してみよう。


「コルセスカ、さん!」
 上ずった結和の声に、コルセスカは振り返った。
 どうしたのだろう? 頬が赤いが。
「あの、あの……あのっ!」
「?」
「こっ、これ……っ!」
 差し出されたのは、人形と、ラッピングされた袋。
「これは?」
「プ、プレゼント……です。いつも、お世話になっているので……っ」
「ふたつもか?」
「あ、や、あの。こっちの袋はおまけです、おまけっ。おまけなんですっ」
 その慌てぶりに疑問を覚えつつも、受け取る。人形の方は、心なしかパートナーのルーシェン・イルミネスに似ていた。小悪魔的な笑みを浮かべた赤毛の少女の人形だ。
 袋の方も、と開けてみる。
「あわ……」
 結和の頬が、さっきよりも赤みを増した気がする。
「結和さん、大丈夫か? 顔が赤いが……」
「ご、ご心配には及びませんー。……あの、開けちゃい、ます?」
「? まずいか?」
「いえ、ええと、あの、おまけだし、どーでもいい、かなあ、とか……とかー」
 結和からのプレゼントだから、何であろうとどうでもいいということはないのだが。
 さて、披かれたそこから出てきたものは、
「マフラー?」
 手編みのようだ。端の方の、何度か解いて編み直した形跡がそれを物語っている。
 それから、内側の柄。
「この紋様は、」
 魔法学校の図書室で、見かけたことがある。守護のまじないの紋様だ。
 周りにルーンがあしらわれ、アレンジされているが、確かに。
「……どうか、優しい貴方が、護られますように、って。……幸せで、ありますように……って。
 あ、でもでも、コルセスカさん、もうマフラー巻いてますしっ。あの、本当おまけですから、おまけ!」
 ――おまけ?
 ――結和さんが、俺を想って編んでくれたマフラーが?
 そんなわけあるまいと。
 コルセスカは巻いていたマフラーを外し、もらったばかりのそれを首に巻いた。
 巻いていたマフラーは、結和の首に。
 それから、
「クリスマスにはプレゼント交換が行われると聞いた」
 肌身離さず身に着けていたお守りを外し、結和の手を取って乗せる。
「デルディッヒシュトゥットといって、このお守りを贈ることは――」
 ――贈った相手を、『家族同然に近しい者』と思っているという意味。
 言いかけて、さすがに恥ずかしくて、口ごもる。
「? 贈ること、は?」
「……秘密だ」
「え、ええ!?
 ……と、いいますか、あの。これ、コルセスカさんが大切にしていたお守りで――」
「大切なものだから、……大切な人に渡したい」
「〜〜っ、」
 結和の顔がまた、赤くなった。
 だけどたぶん、人のことは言えないだろうなとコルセスカは思う。
 だって、自分もまた、頬がすごく熱い。
「コ、コルセスカさん、顔真っ赤です」
「結和さんも、な」
 じゃあお揃いですね、と結和が笑って、どちらともなく、手を繋いだ。