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はっぴーめりーくりすます。

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はっぴーめりーくりすます。
はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。 はっぴーめりーくりすます。

リアクション



23.恋人なんて、居なくても。


 恋人であるシャノン・マレフィキウムと予定が合わず。
 一人家で落ち込む東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)を、どうして黙って見ていられようか。
 ミスティーア・シャルレント(みすてぃーあ・しゃるれんと)は、どうすれば雄軒を励ますことができるのか、考えた。
 考えて、考えて、考えた結果。
「鍋よ」
 閃いた。
 ――恋人のおねえさまと過ごせないクリスマス……傷心の雄軒様を慰めるには、鍋しかないのよ!
 なぜ鍋なのか、とか。
 そんな理屈は関係ない。
 だって家族で鍋をつつくのは、心温まることではないか。
 ほっこりすれば、きっと癒せる。
 慰められる。
「というわけで! バルトッ、鍋よ! 鍋を作るのよ!」
 びしり、人差し指をバルト・ロドリクス(ばると・ろどりくす)に突き付けた。
「鍋……?」
 バルトは良く分からないといった様子で、首を傾げている。
「家族で鍋パーティをすれば、雄軒様も元気を出してくれるはずよ!」
「そうか……我には解らないが、ミスティーがそう言うのならそうなのであろうな。
 ならば、我は鍋を作るのみ」
 自信満々の断定ぶりに、バルトがしっかり、頷いて。
 さあ始めよう、鍋パーティ。


 別に、恋人と会えないロンリークリスマスな事実に悲しんでなどいない。
 ああ、そうだとも。
 だって考えようによっては、普段出来ない家族サービスができるということでもあるし。
 ――ええ、悲しんでなんかいませんよ。涙? 零れてませんよ。ええ、まったく。
 心中で誰にともなく言い訳をして、
 雄軒は勇士の薬と高級日本酒を交互に呷る。
 目の前では、ミスティーアの指示に従ってバルトが鍋を作っていた。二刀の構えの要領で、箸二刀流。そんな器用な技を披露しての鍋奉行だ。
 白菜しいたけえのきだけ。長ネギ春菊油揚げ。
 大根や肉、それから鍋には欠かせない、豆腐などの具材を、火が通りにくい順番に鍋に投入していた。
 ――……豆腐。
「ふふふふふふふふふふ……ふが十個でとうふ……」
 そうだ。
 バルトが普通に美味しそうな鍋を作るのなら。
「闇鍋も作りましょうか」
 思いつきを口にした。
 そして、思い立ったら即行動。
 すくっと立ち上がりこたつから出て、もうひとつ鍋を用意。
 鍋の上に闇術を使用、完全に中が見えなくなるという状態を作り出す。
「コレが本当の闇鍋ですよ、バルト! ミスティー!」
 なんだかテンションが上がってきた。
 酔っているのかもしれないが、それもまたよし。
 ――せっかくですからね! 楽しんでしまいましょう!
 ベクトルがどういう方向に向いていても。
 楽しまなければ損ではないか。
 具材は適当に。
 冷蔵庫から取り出したものや、その辺にあったものなどをぽいぽい。
 適当さ故か、そのテンションのせいかは定かではないが、バルトの鍋が完成する頃には雄軒の闇鍋も完成していて。
「さあ、頂きましょうか!」
「闇鍋って、私初めてですよ」
 言いながら、ミスティーアが闇鍋に箸を伸ばす。
 取り出されたものは、
「……ええと、これは」
「お煎餅ですね」
「どうして鍋にお煎餅なの、雄軒様?」
「闇鍋だからですよ」
 そして自分も鍋に箸を伸ばす。
 取り出されたのは、シャンバラ独立記念コイン。
「…………」
「…………」
「……ふふ、シャンバラが独立したついでに私も独立しました! ってやかましいわー!!!」
 自虐ネタに自分でキレて、
「ああそうですとも! 私は独立しましたよ! 暗い夜に一人でも夢見心地でいてやりますよー!」
「雄軒様落ち着いて! 明けない夜はないからー!」
「酒です、酒を持ってくるのですー!」
 こうなりゃヤケ酒だ、とばかりに叫ぶ。
「任せて雄軒様! 一人酒なんてさせないから! 私が一緒に飲むから!」
 ミスティーアなりのフォローなのだろう。雄軒と自分のお猪口に酒を注いで、乾杯。
 そしてバルトは、食べ頃の野菜や肉を取り分ける。
 片方の箸で雄軒やミスティーアに、もう片方の端では自分に。
 ミスティーアからは酒が絶えず注がれる状態。
 呷り、注がれ、呷り、注ぎ、呷り、注がれ……。
「うっうっ。酒が心に沁みますねぇ……!
 ほらバルト、奉行ばかりでなく飲み食いもしなさい!」
 ぺちぺちぺちぺち、バルトの鎧の角部分を、叩く。
 バルトは嫌がることなく頷いた。片方の端を置き、お猪口に手を伸ばしたので、注ぐ。
 もちろん自分も食べて、飲んで、食べて、食べて。
 闇鍋から変なものが出てきても、気にしない。一応、大半は食材なんだから食べてお腹を壊すということもないだろうし。
「そうだ。バルトも何か入れましょうよ、闇鍋なんだから。ほら、この鎧の角とか。あと角とか。主に角とか」
「主。それは無理だ」
「えーいいじゃないですか。いいアクセントになりますよ、きっと」
 ぺちぺちを繰り返す雄軒に、
「雄軒様ー、バルトの角ばっかじゃなくって私にも構ってくれませんか〜?」
 ミスティーアがしなだれかかる。
「顔が赤いですよ、ミスティー。酔ってますか?」
「雄軒様程じゃないです〜。私の酒の強さはそれこそ最強なんだから、酒瓶の一つや二つ、余裕ってものれすよー」
 とはいえ、微妙に呂律が回っていない。
 しかし飲むというなら止めるのも野暮。
「倒れたら介抱してあげましょう」
「私が酔うはずないんだから大丈夫ぅ……」
 けれど、ミスティーアはそのままぱたりと倒れ込んだ。
「大丈夫……な……はず、……にゃー……」
「ミスティー? 夜はまだまだこれからですよー鍋も美味しいですよー」
「ふにゃあぁぁ……もう、たべれにゃいぃ……」
 完全に酔い潰れてしまったらしい。
 猫のように丸まる彼女を見てから、バルトと顔を見合わせた。そして、笑う。
「あはは……こんなになるまで、付き合ってくれちゃって」
 真っ赤な頬をそっと撫でてから、ミスティーアを抱えて立ち上がった。
「布団に寝かせてきますね」
 こんなところで寝たら、風邪を引いてしまう。
 ――大事な家族に、辛い思いをさせるわけにはいきませんからね。
「おやすみなさい、ミスティー」
 毛布と布団をかけてやって、部屋に寝かして居間に戻り。
「バルトにはまだまだ、付き合ってもらいますからね?」
 酔いは、醒めていた。
「呑み直すか、主?」
「バルトこそ、酒の強さは最強かもしれませんね」
 笑いながら、注がれる酒を見る。
 ゆらり、たゆたう。
「ありがとうございます」
「? 何が……」
「私に仕えてくれて。ありがとうございます」
 辛い時も、苦しい時も。
 激しい戦いの時も、今日のような荒れる日常の時も。
「貴方が居てくれるから、こうやってはっちゃけることができるんですよねぇ」
 だから、ありがとうございます、と。
 日頃からの感謝を、想いを、言葉に込める。
「我の主は東園寺雄軒殿ただ一人」
 バルトは、静かに言葉を発する。
「いつまでも、仕えていくつもりだ」
 表情は窺えないけれど。
 きっと、いい目をしているのだろうなと思いつつ。
 お猪口を傾けた。


*...***...*


 さて、どうしようか。
 姫宮 みこと(ひめみや・みこと)は、顎に指を当てて考える。
 気の合う親友と、ヴァイシャリーの街までクリスマス気分を味わいに来たのだけれど。
「はぐれてしまいました……」 
 さすがのクリスマスイブ。
 人が多く、探すのは困難を極めそうだということと。
 自分が茶道部だということを思い出し。
「お茶会でも、開いてみましょうか」
 思いついたことを、本能寺 揚羽(ほんのうじ・あげは)に提案してみた。
「ふむ、よい考えじゃの」
 揚羽は楽しそうに頷いて、早速行動に移す。
 何をするのだろう、とみことが見守っていると、揚羽は店のオープンテラス部分を借受ける交渉をし始める。
 ――さすがに無理なんじゃないかなあ……営業中のお店に、って、あれ?
 ひらひら、手招きされた。
「貸してくれるそうじゃ」
「ええ!?」
「妾の交渉術の賜物じゃの♪」
 てきぱきと、フェルトのマットを敷き、傘を立てて、茶器を準備し。
「あとは雪を待つばかり……おお」
 言った傍から、白いものが降ってきた。
「今日の揚羽は、なんだかすごいね」
 望んだことが全て叶っているじゃないか。
「日頃の行いよの。この勢いでこの先の大きな戦を勝ち抜ければよいのじゃが」
 ふふ、と笑ってから、抹茶を茶杓に一杯取って、お湯を注ぐ。
 しゃかしゃかしゃか、小気味良い音。
「さ。飲むがよい」
 つつ、と器を差し出され、頂きます、と一礼。
「……うん、美味しいです」
「妾が点てたのだからな、当然じゃ」
 ふふん、と得意げに言う揚羽の許に。
「おねーさまーっ♪ 香苗にもお茶を点ててくださいっ!」
 姫野 香苗(ひめの・かなえ)が突撃してきた。
 茶道の場にあるまじき騒々しさだが、
 ――席主、揚羽ですしね。
 無礼講、無礼講。
「ふむ? 茶が好きなのか?」
 ぎゅっと抱きつかれたことも意に介さず、揚羽が香苗に問うた。
「お茶よりもお姉様が好きです! 是非香苗をもらってください!」
「どういう意味じゃ?」
「香苗がクリスマスプレゼントですー♪」
 猛アタックである。
 揚羽は、しれっとした顔のままで。
 むしろそれを見守る形となったみことの方が、どうすればいいのこの状況、とおろおろしてしまって。
 香苗は目をきらきらさせて、揚羽を見上げているし。
「小難しいことはよくわからぬが……今から茶を点てる。飲んで行くと良い」
 けれど揚羽は、やはりいつもの態度のまま、静かに茶を点てはじめた。
 ――ふぁー……動じないなぁ。
 そんな揚羽を、少し尊敬。
「飲み方とか、香苗わからないです、お姉様」
「作法なぞ気にすることはない。茶が旨いから点て、茶が旨いから飲む。それでよい。
 春は花、夏は星、秋は紅葉、冬は雪……これは酒の話じゃが、茶も同じことよ。作法だの室礼だのにこだわると堅苦しく不味くなるばかりじゃ」
「ふえぇ……そうなんだぁ……」
 揚羽の話を聞いて、香苗が深く頷いた。
 そして、椀に口付けて、飲む。
「苦い……けど、美味しい」
「ならば良し。楽しければもっと良いがの」
 雪が降る中。
 寒い外でのお茶会だけど。
 ほんわか、ほんわか、雰囲気はあったかい。