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リアクション
両親への挨拶
秋田県の山中にある神社からさほど離れていないところに如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)の実家はある。両親の墓もまた、その近くにあった。
「ここに来るのは……いつぶり、なのかな……」
指先で触れた墓は埃でざらざらしている。
事故にあってからは墓参りどころではなくて、日奈々は殆どここには来ていない。パラミタに行くことを決めた時にも、ここには来られなかった。
まずは墓の周りの掃除からだと、日奈々と冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)はきれいに墓周りを清め、花や線香を供えた。
綺麗になった墓の前で、日奈々は手を合わせる。
「天国の……お母さん、お父さん……私は……今、パラミタ大陸で……元気に、やってますぅ……。友達も……たくさん、できましたぁ〜」
思い切ってパラミタに行って良かった。その為に得難い友だちが得られたのだから。
それに……、と日奈々は頬を赤らめた。
「恋人も、できたですぅ〜」
ちょっと恥ずかしそうにそう報告すると、隣にいる千百合の腕にそっと手をかける。
「その恋人が……今、一緒にいる、千百合ちゃんで……私の、大切な、パートナーですぅ〜。女の子同士だけど……お互いに……大切に思って……愛し合っていれば……性別なんて……関係ない、ですよね……」
「えっと……」
両親に挨拶、となるとやはり緊張する。千百合は乾いた唇をちょっと舐めると、敬語で墓に向かって語りかけた。
「日奈々のお父さん、お母さん、初めまして。日奈々のパートナーで恋人の冬蔦千百合って言います。日奈々はとってもいい子に育ってますよ……って年下のあたしが言うのもおかしいかな」
照れたように笑ってから、千百合は続けた。
「今、日奈々とはお付き合いさせてもらってて、近いうちにプロポーズしたいなってあたしは考えてます。パラミタでは同性婚も認められてますから。今回はそのご挨拶も兼ねて来させていただきました」
「千百合ちゃん……」
日奈々は左手の薬指に触れる。そこには夏祭りで千百合からもらった大切なおもちゃの指輪がはまっていた。
「お母さん、お父さん……私を生んでくれたこと……すごく、感謝していますぅ……」
父母ともに日奈々が生まれてすぐに死んでしまったから、日奈々は両親のどこらの顔も覚えていない。けれど、父母がいたからこそ、日奈々はこの世に誕生し、そして千百合と出会うことが出来たのだから。
正直に言ってしまうなら……事故にあってしばらくは、何度も死のうと思った。光を失って、視覚を失ったことに絶望して。
でも今は、そんなことしなくて良かった、と心から思える……。
両親の墓を前にすると、次から次へと話したいことが湧き上がってくる。多すぎて話しきれないほどに。
それだけ様々なことがあったということだ。そしてこれからも。
「これからも……いろいろ、大変なことだらけだと……思うけど……お母さんも、お父さんも……私たちのこと、見守っててください、ですぅ〜」
頭を垂れる日奈々の背に手を回し、千百合は日奈々の両親に約束する。
「今のパラミタはいろいろ大変なことになってるけど、日奈々のことはあたしが絶対に守るから、安心して見守っててくださいね」
大切な人とならきっと、歩いていけるから。
自分たちの目指す未来へと。