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リアクション
3シャンバラ大荒野
「ねえーっ、ちょっとそこの人、手伝ってー!」
場所で言うと、ヒラニプラから南西にくだり、雲海に突き当たったところの大陸の端。
ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は、次々にカリペロニアから渡ってくる人と物資を下ろしながら、何故かこの辺りをうろうろしていた藤井 つばめ(ふじい・つばめ)に助けを求める。
「えっ、僕?」
「そうそう。助かるよ〜」
つばめが同意する前に、ミルディアは彼女の手を掴み、荷物の受け渡しを手伝わせる。
つばめはとりあえず魔鎧である太刀川 樹(たちかわ・いつき)を身に纏い、樹が力仕事のフォローをする。
一日がかりでカリペロニア島から大陸までの輸送を行う間に、細かい移動ルートの選定と補給地点の確認のため、斥候に出ていた和泉 真奈(いずみ・まな)とイシュタン・ルンクァークォン(いしゅたん・るんかーこん)も飛空艇の発着地点に合流する。
「やー、まいどどうもー」
何往復目かでダイソウが大陸側に降り立つと、ミルディアはすかさず彼の元へ駆け寄る。
「うむ、ご苦労」
「今回はまた大変なことに手を出したね」
「常に新しいことに挑戦せねばな」
「とりあえず、あたしたちディスティン商会でできうる限りのルート上の安全は確認できてるはずだけど……いしゅたん、どう?」
「今のとこは、キマクあたりまでは大丈夫だと思うよ。その先はあたい、すぐ確認に出発するから、後で連絡するね」
真奈は荷降ろしの様子を見ながら、
「思った通り、大変な大所帯ですわね。わたくしの方でも、各所の集落には事前連絡はしてありますから、警戒されることはないと思いますわ。でも……」
「うん。特にこの先のシャンバラ大荒野は予想できないからね。これだけ人が多いと、盗賊やモンスターに荷物を狙われるかも……」
真奈に続いて、イシュタンも警戒を求める発言。
ダイソウもそれは認識しており、
「うむ。その通りだ。隊列も戦力のある者を列の前後につけることにしよう」
「そうだね。それがいいと思う」
「補給ポイントは多めに設定いたしましたが、どういたします?」
「物資の持ち込みは思いのほか充実しているようだ。イルミンスールまではもつだろう。シャンバラ大荒野は早めに抜けてしまった方がよさそうだ」
「なるほど。分かりましたわ」
と、真奈はメモしておいた補給ポイントをいくつか消して、スピードアップを狙う。
「じゃああたいはまた斥候に出るね〜」
イシュタンは足早に北上していく。
「あのう、これはどこに置けばいいですかね……?」
何だかんだで素直に手伝いをしていたつばめが、荷物を持ってミルディアのところへやってくる。
「あ、これは向こうのおねーさんに渡してあげて。あ、ねえ、あなた暇? 暇だよね? エリュシオン行かない?」
「え? エリュシオンへ?」
「いいよね? ダイソウトウさん」
ダイソウは樹を纏ったつばめの風体を見て、
「うむ。護衛は多い方がいい。一緒に来るがいい」
「え、はあ……」
と、何だかよく分からないまま、つばめはエリュシオンへの旅に同行させられることとなった。
☆★☆★☆
ミルディアたちのルート確保や、洋をはじめダークサイズ幹部の警戒もあって、シャンバラ大荒野の旅路は、ここ数日平穏に進んでいる。
そんな落ち着いた雰囲気もあって、ダークサイズも向日葵たちも、和気あいあいとした道行が続く。
ダイソウも、トラブルがあるまではそれでよいと思い、エメリヤンにまたがって進む。
シャンバラ大荒野でのある休憩地点。
ある小さな集落で休憩する人々の合間を縫って、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はカリペロニアのゲストカードを持って歩きまわる。
カリペロニアの大総統の館を攻略するには、各階のガーディアンを倒すか、スタンプをもらうことが条件となる。
美羽はただ一人、スタンプの獲得でダイソウを目指している律義な女の子。
「あ、いた、ダイソウトウ……今暇かなぁ。いや、ラスボスはやっぱ最後だよね……」
美羽は独り言をつぶやきながら、食事をとっているクマチャンの元へ行く。
「ねえクマチャン」
「ん、何?」
「キャノン姉妹どこ? スタンプもらいたいんだけど」
「え? どこかなぁ。どっかで温泉でも入ってるんじゃない?」
「この辺温泉あるの?」
「いや、知らない」
「もう、適当に答えないでよ! カードが完成しないじゃん」
クマチャンは美羽のカードを覗き込み、
「あれ、2階と3階しか押してないじゃん。1階は?」
「もらい損ねた……」
「ドジっ子だなぁ」
「うっさい」
「先に閣下に貰っちゃえばいいじゃん」
「つーかよ、そんなほいほいアドバイスしちまっていいのか? 一応美羽は敵だろ?」
たき火をはさんでタバコをふかしながら、もしものための薬を調合しているラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)。話を聞いていて思わずクマチャンにツッコむ。
「あ、そうか。さすが親衛隊」
「おいおい、あんた大幹部の上に2階のガーディアンだろ」
「でも俺、もうスタンプ押しちゃったからなー」
「あんま適当なこと言ってると、クビになっちまうぞ……」
ラルクの心配をよそに、クマチャンは、
「でもスタンプ集めなんて君くらいだよ。君のダークサイズ好きには脱帽さっ!」
と、にこやかに親指を立てる。
それを見て、美羽はやはり顔を真っ赤にして、
「な、何言ってんのよっ! ばっかじゃないの!」
と、すたすたとその場を去ろうとする。ラルクがそんな美羽に声をかける。
「おい、どこ行くんだ?」
「しょうがないから、ダイソウトウのスタンプもらいに行くよ」
「お、そうか。よし。おい、待ちな!」
ラルクはすっくと立ち上がり、声のトーンを低く変えて美羽を呼び止める。
「ダイソウのスタンプが欲しいなら、親衛隊である俺を突破してからにするんだな」
「よ、よーし。じゃあラルクさんのスタンプちょーだいっ!」
美羽も受けて立とうとばかりにカードを差し出す。
しかしラルクはフフフッと悪役っぽく笑う。
「甘えな。そんなこたあ不可能だぜ。なぜなら、俺はスタンプを持っていないからな!」
得意げなラルクに、さらに美羽がニッと笑い、
「甘いのはそっちだよ。そんなラルクさんにこれあげる!」
と、美羽はお手製の巾着袋から、手作りのスタンプを取り出す。
「なんだそりゃあ」
「私が作ってきたスタンプだよ。ラルクさんにはこれを使ってもらうもん!」
見ると、そのスタンプにはマッチョな男がポーズを決めたシルエットが彫られている。
「な、なにいっ、用意してきただとぉっ! やられたっ!」
と、ラルクは美羽のカードにスタンプを押してあげる。
用意周到な美羽は、ダイソウ親衛隊のスタンプを一つ獲得した。
感心したラルクは、美羽の巾着袋を覗き込む。
「これ全部作ってきたのか?」
「超人ハッチャンの新しいスタンプもあげる」
美羽は超人ハッチャンに、マッチョな男がポーズを決めたスタンプを差し出す。
超人ハッチャンは太い指でそれをつまみ上げ、
「ラルクと一緒じゃん!」
「大丈夫。インクが緑色だから」
「ただの色違いかよ……」
「あとこれ。はい、サンフラワーちゃん」
と、美羽は何故か向日葵に、ヒマワリを彫ったスタンプを渡す。
「あ、かわいー。ありが……あたしはガーディアンじゃないっ!!」
と、そのツッコミに忙しく、サンフラワーちゃんと呼ばれることにツッコむ暇がない向日葵であった。
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