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種もみ剣士最強伝説!

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女の子の体のヒミツの秘密


 種もみの塔前に設置されたリングでトーナメント戦に多くの人が熱狂している頃、種もみの塔内部では、”パラ実の性典”女の子の体のヒミツ(おんなのこの・からだのひみつ)の御開帳の時間が迫り、外とは違う熱気に包まれていた。
 控え室にて時間を待っていた女の子の体のヒミツだったが、その前に藍玉 美海(あいだま・みうみ)の訪問を受けていた。
 彼女は熱心に沙幸のセクシー写真を貼り付けている。
 用意した写真は四枚。
「『手裏剣しゅしゅしゅ』に『【2021年お正月】バニーガール』……『鉄壁のガード』に、ああ、これはここに貼りましょう。『一緒に遊びに行こうよ!』。こんなところでしょうか……」
 実はこれらの写真は、沙幸が試合の準備で忙しくしている中、目を盗んで持ち出してきたものだ。
 こそこそと何かしていたことは気づかれているかもしれないが、きっと深くは聞いてこないだろうと美海は踏んでいた。
「美海様、もういいのか? もっと貼ってもいいのだぞ」
 女の子の体のヒミツの催促に美海は小さく唸ったが、
「ここに貼れそうなものはもうありませんわね。残念ですけれど」
 と、返すと、女の子の体のヒミツも残念そうな相槌を返した。
 突然、ドアがやや乱暴に開く。
 美海が振り向くと、そこにいたのは国頭 武尊(くにがみ・たける)で、彼女の手に目的の魔道書を見つけると「遅かったか」と舌打ちをもらす。
 そして、まっすぐに美海を心配する目を向けた。
「キミ、大丈夫か? 何か異常を感じたりしてないか?」
「え? 別に、特に何もありませんわ……」
「ちょっと借りるよ」
 武尊は美海から魔道書をもぎ取ると、疑うことを仕事としている人のように表紙、裏表紙、背表紙と厳しい目つきで確認していく。
 美海はそんな彼を不思議そうに見ていた。
 武尊は慎重にページをめくりながら美海に説明する。
「アル・アジフって有名な魔道書なんだ。オレはイルミン生じゃないから詳しくはわからないけど、不用意に開いたり触れたりして大丈夫なのか気になってね。アラビア語は読めないから、何が書いてあるのかはわからないけど……」
「そういうあなたは平気なんですの?」
「さあ……一応、できるかぎりの防衛はしてきた」
 武尊が自身に施してきたのは、マインドシールド、フォースフィールド、エンデュア他僥倖のフラワシも付けてきている。
 さらにサイコメトリで、貼り付けられた不健全写真一枚一枚に何か不穏なものが仕組まれていないか探った。
 武尊はパラ実の仲間達のために本気で取り組んでいるのだが、傍から見れば楽しい本を独り占めしている状態だ。
 美海もそう感じた。
「一人だけで楽しむなんてずるいですわっ」
「あっ、こら。何するんだ!」
 魔道書を取り返そうとする美海と阻止しようとする武尊とで取り合いになる。
 ドタバタと暴れていると、またドアが開いた。
 美海は武尊に馬乗りになり、魔道書を取り戻していた。
「……取り込み中だったか」
「ヘンなこと言わないでください。わたくしは独り占めは良くないと……」
「だからそれは……」
 ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)を発言にピシャリと訂正した美海だが、彼女の後半の主張は武尊によって遮られた。
 埒が明かないな、と頭を振ったジュレールは、二人のことは放っておいて魔道書に声をかける。
「少々聞きたいことがあるのだが、かまわないか?」
「かまわないが、ここから出してくれ。うっかり破かれてはかなわん」
 ジュレールが、ちょうど美海と武尊に挟まれていた魔道書をヒョイと抜き出すと、二人はハッとして言い合いをやめた。
 ジュレールはブックカバーのかかった表紙を真剣な目で見つめて、この魔道書に聞きたかったことを口にする。
「我は少女型の機晶姫であるが、ここに貼られた多くの写真に興味がある。時間前のルール違反は重々承知だが、開いてもよいだろうか?」
「律儀なお方であるな。許そう。……ところで聞きたいこととは?」
 女の子の体のヒミツは質問を待ったが、ジュレールはページを開いたきり沈黙してしまった。
 よく見ると何やらショックを受けている様子。
 さらに待ってもジュレールは石のように固まったままなので、女の子の体のヒミツは仕方なく美海と武尊に時間が来たことを告げた。
「そうか。でももう少し待ってくれ。まだキミへの疑いが晴れたわけじゃない」
「武尊様はずいぶんと用心深いお方であるな。さすがS級四天王といったところか。だがその心配は無用だ。私に貼られているのは、本当にただの破廉恥な写真だからだ。外で待っている者らと共に存分に楽しむがよい」
 さあ私を運べ、と偉そうに命じる魔道書。
 そこまで言われては仕方ない、と武尊はジュレールの手からそっと魔道書を引き抜く。
「まあ、途中までだったけど何も感じなかったしな。それでもな……そうだ、ちょっといいか?」
 何か思いついたらしい武尊は魔道書を引き寄せ、ボソボソと何事か囁いた。
「二年に一度の楽しみを奪うというのか。まあいい。そんなに心配なら好きにすればいい。その代わり、武尊様のコレクションのパンツも貼るのだ」
「……わ、わかった」
 武尊は女の子の体のヒミツが出した条件を飲み、提案を受け入れさせた。
「ところで、御開帳のことは良雄は知っているのか?」
「問題ない」
 良雄は恥ずかしがってここには来なかったらしい。

 フロア一つを御開帳の舞台としたそこは、すでにパラ実生を中心とする観客でいっぱいだった。
 妖しげにライトアップされた舞台に女の子の体のヒミツが照らされる。
 アニメイトのブックカバーの向こうの神秘に、パラ実生達は身を乗り出した。
「フフフ……待たせたな。今日は隅から隅まで私を堪能するがいい。その代わり、夜眠れなくなるのを覚悟するのだな」
「くるぞ……俺達の性典が開かれる! 奇跡の瞬間じゃ!」
「第八十次性徴の謎が今ここに……!」
 女の子の体のヒミツは、もったいぶるように煽るように一ページ目を開いた。
 初っ端からのきわどい写真に、充分盛り上がっていた会場はさらなる熱気に包まれる。
 カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)がそのフロアを訪れた時、そこはもう手がつけられないほどの興奮に満ちていた。
 しかしカレンは果敢に男達を押し退けて、最前列まで進み出る。
 舞台で目にした女の子の体のヒミツが披露していたものは、乱れた寝具の上で腰のあたりを男物のシャツにわずかに覆われ、気だるい表情でうつ伏せになっている女の写真だった。寝具の周りには、女のものと思われる衣類が乱雑に散らばっている。
「これはまた……」
「何があったんだろうな……」
「何っておまえ……」
 カレンの横にいたパラ実生達はいかがわしいことを想像したのか、そのまま黙り込んでしまった。
「これは……第八十次性徴への段階の一つに違いないよ!」
 真面目な顔で発言したカレンに、パラ実生達の視線が集まる。
 彼女は『第八十次性徴』が何なのか気になり、図書館にこもって調べまくったのだ。
 寝食も惜しんで調べた結果、ついにある一説を発見した。
「それによると、性徴は第百次まであり、第五十次でぼいんぼいんのピークを迎えた後、いったん力を蓄えるため退化。そして、いまだ誰もたどり着いたことのない第百次で究極のぼんきゅっぼんと無限のフェロモンを身にまとう、爆発的な変化が起きるらしいよ!」
 いつしかシンと静まり返っていた会場に、カレンの声が朗々と響き渡っていた。
 そして、彼女の言葉が終わった一呼吸後、ワッといっせいにしゃべりだすパラ実生。
「究極の……」
「無限の……」
 などと囁きあう声が聞こえてくる。
 この説を見つけた時、カレンは納得したものだった。
 自分の胸が小さいわけを。
 ……それ以前にぼいんぼいんになった記憶がないことは、考えないことにしておいた。
「それはそうと、この説は正しいの?」
 カレンは第八十次性徴の真実を知りたくて、女の子の体のヒミツに聞いた。
 ふ、と女の子の体のヒミツが謎めいた笑みをこぼした……ように感じた。いや、もし人の形をとっていたら、きっとそうだっただろう。
「あなた様のおっしゃった説が正しいかどうか──それは、人として、女性として魂も肉体も高みまで至った時におのずとわかるもの。急いで明かす必要はないであろう」
「……とか何とかもっともらしいことを言ってごまかす気では……?」
「エヘンッ。さて、次の写真はもっとも刺激的なもの……気絶するなよ」
 待って、というカレンの声はパラ実生の興奮の歓声にかき消された。
 本当のところ、女の子の体のヒミツも第八十次性徴が何かなど知らない。
 何か凄そうなことを適当に口走っただけだ。
 だから、カレンが見つけたという説も初耳で、偶然だった。
 けれどそれが広まるのもおもしろいと思った。
 そして、ぺらりとめくられたページ見開きいっぱいに貼られた『もっとも刺激的な写真』に、耐え切れなかった者が何人か鼻血を噴き出した時、いつの間にかカレンの隣に来ていたジュレールが食い入るように写真を見つめていた。
「いったい……いったいどうすればこのような体になれるのだ?」
 彼女の目には羨望と憧憬があった。
 それがあまりに真っ直ぐだったので、女の子の体のヒミツもからかう気にはなれず、珍しく真面目に答えることにした。
「知らぬ」
 だが、それはジュレールにとっては残酷な答えで。
「どのように巨乳と貧乳の差が生まれるのか、細くくびれたウエストと寸胴の差はどこでできるのか。まさに誰にもわからないヒミツなのだろう。……ま、ある一説では巨乳になりたければ好きな男に揉んでもらえというのもあるが、都市伝説のようなものだろうな」
「……」
 ジュレールは気落ちしたような顔で女の子の体のヒミツを見つめる。
「だが、はっきりしているのは、女は恋をすると確実に美しくなる。だからジュレール様も、この写真の女達に恋をしてみてはどうだろうか?」
「……うん?」
 恋の相手に性別などささいなものと考える女の子の体のヒミツは、とりあえずというように自分に貼られた不健全写真の数々を勧めるのだった。

 御開帳前半が終わり控え室へ戻った女の子の体のヒミツは、待っていた武尊へ身を預ける。
「フフ、完成が楽しみであるな。そうだ、良雄様にも一冊進呈しよう。立派な大人になるための教本になるはずだからな」
 たぶん良雄は最初のページを開いたきり、後は見ないだろうと武尊は予想しつつ、貼られた写真をさらに過激にしたものをソートグラフィーを駆使し、デジカメで念写ししていく。
 これらを本にして『廉価版女の子の体のヒミツ』として出そうという計画だ。
 この魔道書が真実安全だったとしても、魔道書である以上、不安は拭いきれないためにとった手段だった。
 魔道書当人は、これが出回った時のことを思い浮かべ、一人ニヤニヤしているのだった。


 その頃、塔内の不動産屋では。
 主とブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)が話し合いをしていた。
「ほう、種もみ女学院の院長に選帝神のバージェスを……」
「うん。パラ実はエリュシオン国立の学校になったでしょ。それで、ここの女学院は一応生徒はいるけど、代表者がいないからね。この塔はキマクを一望できるし、恐竜騎士団の拠点にするにはちょうどいいと思うんだ」
「なるほど。ですが、選帝神の地位にある人が分校長の待遇を良しとするかな? それになりより、まだ本人が来ていないし……」
 ブルタの提案に不動産屋の主は首をひねる。
 もう少し、待ってみてはどうだろうか、と主は言った。
「その頃には、教室のある階も決まっていると思うし」
 とも。
 実は、種もみ女学院は生徒と校歌があるだけだった。
 ブルタは、もどかしさを押し隠したようなため息をついた。