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【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第3回/全3回)

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【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第3回/全3回)

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〜〜試練の塔〜〜

「くぅっ!!」
 大剣と大剣の刃先が重なり、そして弾け合う。
 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が振るは『レプリカ・ビックディッパー』、対するティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)が振るは『星剣ビックディッパー』。本家本元を持つ塔の試練に祥子は挑んでいた。
「ティセラ……」
 彼女に忠誠を誓い、共に歩みたいと願った相手。以前は部下として、そして今は友として共に歩む相手、それがティセラだ。そんな彼女が試練として祥子の前に立ちはだかった。
「ティセラっ、止めて! もう止めてっ!!」
 少しでも握りを緩めれば弾かれる。それは僅かな間だとしても祥子は大剣を振り向かっていった。
 打ち合う度に刃から溢れる彼女の闘気に圧せられそうになった。
 彼女が全力で地面を叩けば隕石が落下したかのような巨大なクレーターができることだろう。だから彼女に振りかぶらせない事が何よりの迫攻となる。
 ――私と共に歩みたいなら、相応の力を見せろという事なの?
 試練として具現化された以上、越えるべき何かがきっとある。
 ――ビックディッパーの扱い? もっと使いこなせとでも言うの?
 かたや5,000年も前からの相棒、こちらは2年目、歴で言われれば勝ち目はない。それにもう握力が……。
 ――握力?
 ふと何かに引っかかった。自ら仕掛けた打ち合いだが、痛みを覚え痺れを感じ始めてもなるほど確かに祥子は『レプリカ・ビックディッパー』を強く強く握りしめようとしていた。
 ――そういうこと……。
 振る、払う、打ちつける。ティセラのそれらを受け凌いで何度かに一度の攻手の機に、祥子は初めて「突き」を繰り出した。だけでなくそのまま握りを解いて放った。
 槍の如きに迫り過ぎる大剣をティセラはどうにか顔横を通して避けたが、予想外の一手に隙が生まれた。
 ――ティセラ。
 無手のまま祥子ティセラに抱きついた。「ありがとう」と告げたところでティセラは煙となって散り消えた。
「見事でしたわ、祥子さん」
「イオテス」
 パートナーのイオテス・サイフォード(いおてす・さいふぉーど)が歩み寄った。祥子の戦いを見守っていた彼女は、試練としてティセラが現れたのは、塔の最上階に眠るイコンギルガメッシュが関係しているのでは? と祥子に説いた。
「地球の神話ではギルガメッシュとキンケドゥは無二の親友だったそうですし」
「ま、確かに名前は似てるけど……」
「ネルガルが持つエンキドゥを止めるべくギルガメッシュを拝借する。わたくしたちの想いに呼応して、試練も祥子さんの親友であるティセラさんを選んだのでしょう」
「そうかなぁ。偶然だと思うけど」
 イオテスの特技は方向感覚。最上階までまだまだある、それでも、
 ――例え偽物でも、ティセラに会えて嬉しかったわ。
 と祥子は明るく顔を上げたのだった。




 出来ることならこのまま立ち尽くしたまま。しばらくそうして見つめ合ってから2人は次第に歩み寄り、そしてシャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)の方から彼女を抱き締めたかった。それなのに―――
「止めて下さい! セイニィ!!」
 目の前に現れたセイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)は何を告げることなく斬りつけてきた。
 名前を呼んでも叫んでみても少しも瞳は揺れなかった。言葉が届いているという実感が露にも感じられなかった。
「くっ」
 彼女の星剣星双剣グレートキャッツを『奪魂のカーマイン』で受け止めた。
「セイニィ……」
 青く澄んだ瞳、肉付きの良い頬、整った顎線。手を伸ばせば触れられる、そんな距離にある彼女の顔を見ているだけで……。
 ――やっぱり私にはできない。
 例えこれが試練だとしても、目の前にいる彼女が偽物だったとしても自分には彼女を傷つけるなんて出来ない、そんなことはしたくない。
「これが試練だと言うのでしたら」
 星剣を弾いて距離をとり、そのまま背を向けて逃げ出した。
 攻撃を受けながらもイコンを目指して進み続ける、この試練は精神力を試されているに違いありません。
 愛からの逃避行、傷だらけ必至の逃避行が今ここから始まりを告げた。




「止せっ!! セイニィ! 止めろ!!」
 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は『さざれ石の短刀』でセイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)の星剣星双剣グレートキャッツを受けていた。
 小柄な体躯を生かして弾むように宙を舞い、そして手甲装備の鋭爪で襲いくる。長く受け続けることこそ敗北必死、間違いなく押し切られる。攻めなければ…… しかし。
「セイニィ、俺だ! 牙竜だ!」
 目の前に現れてから今の今まで牙竜は必死に叫び続けていた。
 偽物だということは分かっている、これが塔の試練なのだろう? しかし、俺はオマエとは戦いたくない! その一心で叫び続けた、受け続けた、しかし今も彼女の瞳には黒い殺気が宿り続けたままだった。
「なんだぁ? 友達以上恋人未満っつう煮えきらない状況に怒ってんのか?!」
 爪撃に乱れは見えない。こちらの挑発に揺れた素振りもない。僅かにも揺れていない。
 ――話せないどころか聞き取れてもいないんじゃないか?
 爪先を殴るように叩き弾いて爪撃を受ける。そうしてようやく左右から迫る爪撃を捌いていたのだが、今度は狙いを僅かに変えたようで。
「ぐっ!!」
 受け弾いた直後に短刀を振る左上腕の皮肉を斬られた。
 ――斬り刻まれる!
 痛みを知覚したのと同時に牙竜は後方へ跳んだ。持参した水筒の蓋を開けて水を撒きながら。
 間もなく追ってきたセイニィはその水を頭から被った。しかし彼女はこれにも僅かにも揺れなかった。
「……冗談じゃない」
 言葉は届かない、何を言ってくるわけでもない。
「……冗談じゃない」
 誰かに操られていたとしても、あんな殺気は宿さない。
「……冗談じゃない」
 水は彼女の弱点だ、それを何の無しにスルーするだと…………!!!
「冗談じゃない!!!」
 オマエはセイニィじゃない! セイニィであるはずがない! 俺が惚れたセイニィは……!!!
 『バーストダッシュ』で一気に駆けて彼女の間合いに入り、彼女の両爪が迫り来てもそのまま彼女の懐へ飛び込んだ。
 セイニィの両爪が両脇腹を貫いた。
「…………ぐふっ」
 彼女の顔が二重に見えた。それでも彼女の右手を引き寄せて、自ら深くに刺し進めた。
「……………………ぅ」
 彼女の左手首をしっかり掴んでゆっくり引き抜く、そして震える両手で彼女の左手薬指に指輪をはめた。
「血だらけ…… なのは………… ぐっ…… 勘弁し…… てくれ」
 牙竜が気を失うのが先だったかもしれない。それでも消えゆく意識の中で最後の一瞬に偽物のセイニィが微笑むのが見えた。
 ――偽物だろうと何だろうと、惚れた女に刃は向けねぇよ。
 チキンか愛か。彼の純愛は偽物の心を僅かに揺らしたようであった。