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ユールの祭日

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ユールの祭日
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●●● 幕間:士魂魔道


これで残るは3名にまで絞られた。
ふたたび『ゆいセンパイ』が珠代の前に姿を現す。

「残りは3名だが、人数合わせに私が出ようと思う。
 そうすれば4人となり、トーナメントには都合がよい」
ゆいの口ぶりは冷静だが、その目付きには殺意が漲っていた。

「やだなあ、センパイが出たら勝負が決まっちゃうじゃないですか。
 次は三つ巴戦で決勝にすればいいと思うの。
 おとなしく見ていてください、センパイ」
珠代はそういって笑っている。

「そこまでいうのなら……相分かった」
ゆいは口惜しそうにその場を去った。

「あの人は……本当は誰なんです?
 残る三人の誰かを狙っているように思えるのですが」
とノア・セイブレムが覚めた弁当を食べながら尋ねた。

珠代は「んーっ」と少し悩んでから、ついに白状した。

「由井正雪よ。江戸時代の軍学者」

「そうか、それではあの刀は妖刀村正か!」
レン・オズワルドがうわずるように言った。

それを聞いて一同は、あの刀から感じた殺気について理解できた。
村正は徳川将軍家に仇なすと言われ、恐れられた妖刀である。

由井正雪はその妖刀の一振りを得て、幕府転覆を謀ったとされる人物だ。

「しかしどこでユールの呪法を学んだというんだ、由井さんとやらは」
レンが疑わしげに聞く。

珠代はこれは由井正雪からの伝聞である、と断りを入れて話しはじめた。


由井正雪は当時抜きん出た軍学者であった。
当時の江戸や京都は風水を用いた呪術的防護が施されていた。
正雪は軍学者として、この風水についても知らぬではなかった。
そうでなければ、江戸を攻め落とすようなことはできないであろう。
しかし正雪の計画は露見し、彼は駿府(静岡)にて自決する。

時は流れて数百年。
パラミタの出現と魔法の復活により、日本政府は呪術的力を認めざるを得なくなった。
シャンバラ国の再建にあたって、日本は多数の呪術的な仕掛けを施したのである。

英霊となり蘇った由井正雪は、この日本政府の仕掛のいくつかを見破った。
シャンバラにも風水的な仕掛けがあり、空京とシャンバラ大宮殿はその要として作られたのだ!
正雪の読み通り、シャンバラの『世界軸』は異界との接点であり、強力な魔力が行き交う場、風水で言う龍穴だったのである。


“アトラスの傷跡”にはロケットの発射場が作られ、ニルヴァーナとの接点であることが明らかになった。
世界樹イルミンスールは魔境ザナドゥと繋がった。

そしてシャンバラ大宮殿は……パラミタにとっての異界、地球との接点となった。

こうした強力な呪力が得られる土地でも、一年に数日だけ、強力な霊力が得られる時がある。
ユールの呪法とは、その霊力を流用することで成立するものだったのだ。


「……というわけで、ゆいセンパイなしにこの祭りはありえなかったわけ」

珠代はそう締めくくった。


締めくくったのだが。
ひょこりと生えてきたキノコがひとつ。
ゆる族の土器土器 はにわ茸(どきどき・はにわたけ)である。

「ゆるの祝祭日と聞いてやってきたんじゃあ〜!」

一同沈黙。

ここ空京はかつて『ゆるヶ縁村』と呼ばれる、ゆる族の村であった。
ついでにいうと『ゆるヶ縁村の精 ゆるがぶち』という地祇も住んでおり、今では『ユール・ガーヴチ』などと名乗っている。


魔術に詳しい者は地祇と風水の関係について考えはじめた。
風水による気の流れが地祇の力と直結しているのは明らかだ。
龍穴や龍脈に地祇が生じるのも、おおよそ察しがつく。

風水による霊力を使ってこのユールの呪法を使ったということは、

『地祇ユールの霊力をパクって使っちゃいました』

ということなのでは!?

「どうなんですか珠代さん!?」
「……でへぺろ☆」