シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~

リアクション公開中!

四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~
四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~ 四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~ 四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~ 四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~ 四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~ 四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~ 四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~

リアクション

 第5章 大切なのは、あなたのぬくもり。

 ――バレンタインデートだ! やったー!!!
 2月14日で、バレンタインで、恋人と待ち合わせで。
 これだけ揃っていて浮かれない者がいるだろうか。いや、いない。きっといない。団長――金 鋭峰(じん・るいふぉん)だって厳しい表情を保つのに苦労するだろう。多分。
 ということで、橘 カオル(たちばな・かおる)もご多分に漏れず浮かれていた。少なくとも、通り過ぎる人々が(デートだ……)(こいつ絶対デートだ……)(リア充爆発しろ……)(とりあえず耳隠せよ、出てるよ……)と、一発で看破してしまうくらいには。
(去年のバレンタインデートはメイリンが思いっきりもてなしてくれたんだよな。今年も何か、考えてたりするかな)
「カオル」
 そんなことを考えていたら、背中をつん、と指で突かれた。淡いピンク色の私服に身を包んだ、李 梅琳(り・めいりん)だ。寒さのせいかそれ以外のせいか、赤らめた顔で見上げてきている。
「メイリン!」
「もう、耳出てるわよ。……デート、そんなに嬉しい?」
「うん、もちろん!」
 上目遣いな梅琳に、カオルは満面の笑みで答える。ともすれば尻尾も出そうな勢いだったが、今日はデート用に小綺麗な服でまとめている。尻尾の出る隙は無い。
「お互いに休みがとれるとは思わなかったしな」
 もしかしたら、上司が気を利かせてくれたのかもしれない。
「そうね、最近忙しいし、難しいかなとも思ってたけど、良かったわ」
 自然と腕を絡め、梅琳は「ほら」とカオルを引っ張った。
「行きましょ」

 空京の町は華やかで、行く先々でバレンタインのフェアをやっている。そういった店に立ち寄る度に、梅琳は嬉しそうだった。部屋でくつろいでいる時ともまた違う、いつもよりも輝いた、屈託のない笑顔。
 いつもの大人びた彼女から、ちょっとはしゃいだ、少女っぽい一面を覗かせて。
 それは、カオルだけに見せる、特別な顔。
 1年に1度しかないこの日を、どれだけ楽しみにしていたか。
 その気持ちが、ストレートに伝わってくる。
 積極的で真っ直ぐで、そして努力家でもある、梅琳。
 そんな彼女を、カオルは純粋に愛しいと思った。
 彼がプロポーズをしたのは、昨年のクリスマス。
 梅琳は、一番大切な人。彼女は将来の出世を考えてるっぽくて。それを、これからもフォローできたらな、と、そう思う。

「メイリン、来月誕生日だろ、なにが欲しい?」
 デートスポットでもある展望レストランで食事をしながら聞いてみる。直接聞くほうが、間違いもないだろうし。
「誕生日? そうね……」
 梅琳は束の間考え、それから言う。
「私、そろそろ、ニルヴァーナへ派遣されると思うの。だから、誕生日はあなたとゆっくりしたいわ」
 少しだけ、真面目な色を含んだ声で。一緒に居られるだけで充分すぎるくらいに幸せだから、と。
「それより……はい、これ」
 梅琳は小さな箱を取り出す。手袋を外したその指には、彼がクリスマスに贈ったダイヤモンドの指輪。ブラウンの包装紙は、中身がチョコレートであるという証。
「恥ずかしいから、後で開けてね」
「あ……ありがとう! ありがとう、メイリン!」
 照れた表情の梅琳が可愛くて、つい包装を解いてしまう。そこに入っていたのは手作りのチョコレートと、プレゼント、と書かれた1枚の葉書。休日に2人で取り組んでいるクロスワードパズルの、当選葉書。
「他愛のないものだけど、これ結構、倍率高いのよ。今年初めて当たったから、私の運を、カオルにあげる。任務もみーんな成功する。だから、これからもずっと、そばにいてね」
 伝えられるだけの気持ちを、「好き」というありったけの気持ちをこめて、梅琳は言った。