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第五章:乙女の悩み

 最近は何かと立て込んでいたため、せっかくだからスパリゾートアトラスで日頃の疲れを癒そうと考え、客として訪れていたのは、月音 詩歌(つきね・しいか)であった。
 詩歌の提案に賛同した不知火 緋影(しらぬい・ひかげ)や、一緒に行こうと誘われたため、面白そうだと思って付いて行くことにしたセリティア クリューネル(せりてぃあ・くりゅーねる)も一緒である。
「うわー。プールなのに 水がぽかぽかしてる」
 水着を着た詩歌が温水プールに足を入れた途端、驚きの声を発する。
「本当に温かいですね、しーちゃん」
 緋影が詩歌の言葉に同意する。
「どうしてなのかな?」
「多分、温泉のお湯か、地熱を利用して温めているんだと思いますよ……あら?」
 目の前にいたはずの詩歌の姿が見えない。と、いきなり……。
「えいっ!」
 緋影の死角から詩歌がいきなり水をかける。
「きゃっ!? し、しーちゃん!?」
 顔に水をかけられた緋影が驚いていると、
「へへっ、こっちだよー」
 詩歌がザバザバと水を掻き分けて、プールの奥へと進んでいく。
「もー。待ちなさーい」
 緋影がスーッと流れるようにクロールで詩歌を追い、直ぐに追いついてしまう。
「わ! 泳げるんだー……いいなぁ」
「競争しましょうよ?」
 緋影はニコリと詩歌に微笑むが、
「私、まだ上手く泳げないよー……ひーちゃん、教えて?」
「ワタシがしーちゃんに泳ぎを?」
「うん」
「はい、わかりました」
 緋影はそう言うと、詩歌に向かって手を差し出す。
「ワタシの手を持って、まずはバタ足の練習をしましょう」
 詩歌は緋影の両手に捕まり、バタ足の特訓を始める。
「顔を水につけて……そうそう! この調子なら直ぐにしーちゃんも泳げるようになりますよ?」
「プハッ! ……そ、そうかな?」
 水から顔をあげた詩歌の前に、水着からはみ出そうな緋影の大きな胸が見える。
「……」
「どうかしました?」
「う、ううん。何でもない!」
 詩歌はそう言うと、また水に顔をつけ、バタ足を再開する。
「おぬしら、レジャー施設でスポ根的なことをするのか……」
 色々な温泉があることに興味を持ちつつ、詩歌の提案でまずは温泉プールに来たセリティアが、二人を見て呟く。
 水着に着替えはしたものの、セリティアはプールに入らず、ビーチチェアに寝転び本を読んでいた。別に泳げぬわけではない。
「セリティアちゃんもおいでよー?」
 詩歌が声をかける。
「わしは良い……おぬしらだけで楽しむのじゃ」
 パラリと本をめくるセリティア。
「どうしてよー?」
「詩歌が泳げなければ、遊べぬ」
「むー……」
「ひーちゃん、セリティアさんは読書中なんですよ?」
 緋影が言い、詩歌は暫く泳ぎの練習に明け暮れる事になった。
 暫し後……。
 すっかり本に夢中になったセリティアがページを捲ろうとしていると、
 ペシンッ!
「ん?」
 頭に軽く何かが当たり、セリティアが本から顔をあげる。そこに転がるビーチボール。
「セリティアちゃん! お待たせ!」
 笑顔の詩歌がビーチボールを拾いあげる。
「泳ぎの練習じゃろう?」
「終わったの! だから、あそぼう!!」
 セリティアが「……わしはいい」と繰り返そうとすると、またビーチボールがペシンッと当たる。
「詩歌……?」
「セリティアちゃんが遊んでくれるまで、投げるもん!」
「……わかったわかった。やればいいんじゃろう?」
 丁度読んでいた本も良い区切りだったセリティアは、詩歌の誘いを断りきれず仕方なく一緒にビーチボール遊びをすることになった。尚、一番楽しんでいたのはセリティアであり、ボールと共に弾む緋影の胸を一番見ていたのは詩歌であったらしい。

 その後、温泉プールを満喫した詩歌達三名は、温泉に訪れた。そこは貸切客用の個室型温泉、先程玄秀達がいた温泉と同じだ。
 詩歌は緋影と一緒に女湯へ行こうとしたのであるが、警備員であるイングリットに「第三の性別だよっ!」とうっかり言ってしまい、半ば強制的にこちらへ誘導されていたのである。
「温泉、温泉!!」
「あ、しーちゃん? 入浴は体を洗ってからの方がいいですよ?」
 いきなり風呂へダイブしようとしかける詩歌を緋影が優しく制する。
「それもそうだね……セリティアちゃん、洗いっこしようよ!」
 詩歌が振り向くと、既に体中を泡だらけにしているセリティアが言う。
「わしは自分の体は自分で洗いたいクチでのう……おぬしらでするがよい」
「……冷たい。じゃ、ひーちゃん!」
「え? ワタシと洗いっこですか?」
「うん! たまにはいいじゃない」
 満面の笑顔の詩歌を前にした緋影は断れなかった。

「あわあわぶくぶく、洗いっこ洗いっこ楽しいなー♪」
 詩歌が緋影の背中をゴシゴシと泡だらけにしている。
「ひーちゃん? 気持ちいい?」
 緋影の身体を洗うことに楽しみを感じてる様子の詩歌は、一所懸命に緋影を洗う。
「はい。背中は中々一人じゃ洗いにくいですから」
「ひーちゃん。お肌綺麗だね。まっ白で」
「しーちゃんだってお肌綺麗ですよ? さ、次はワタシが洗ってあげます」
 クルリと体勢を入れ替える詩歌と緋影。その刹那。
ぷるんっ
 体を起こした時に見えた緋影の豊かな2つの膨らみに、目を奪われる詩歌。
「……」
「どうしました?」
「う、ううん。何でもない」