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お風呂ライフ

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 こちらは、浦安 三鬼(うらやす・みつき)マクスウェル・ウォーバーグ(まくすうぇる・うぉーばーぐ)矢野 佑一(やの・ゆういち)ミシェル・シェーンバーグ(みしぇる・しぇーんばーぐ)プリムラ・モデスタ(ぷりむら・もですた)達が警備をするポイントである。そこは、丁度、男湯と女湯の分岐地点辺りに該当する箇所であり、ルイが言った「男湯を覗く者は少ない」という言葉を受け、急遽警備ポイントが変えられた結果であった。
「けっ……温泉の警備なんて本当に必要なのか疑問だぜ……って、おまえ!? 何しやがる!?」
「ああ、ごめんなさい。相変わらず、その髪形……気になるのよ」
 つま先立ちのプリムラが近くにあった花を三鬼のリーゼントに挿し込もうとしていた。
「気になるからって、何で花挿すんだ?」
「何でかしら? つい綺麗な花とか挿してみたくなるのよね」
「漢のポリシーにやすやすと触れるもんじゃねーぜ!」
 三鬼はプリムラの手を払いのけると、クシと取り出して自慢のリーゼントを整える。
「ったく……佑一、パートナーの教育はちゃんとしておくんだぜ?」
「ああ、ゴメンよ。三鬼君」
 佑一が苦笑する。
「あれ? 僕、名前言ったっけ?」
「ハロウィンパレードの時、ミイラだったヤツだろ? インパクトあり過ぎて忘れにくいんだよ!」
 三鬼はそう言うと、フンと顔を背ける。
 その瞬間、全ての館内照明がダウンする。
「停電?」
「佑一。それはありえない」
 マクスウェルが異変に気付く。
「どういうことです。マクスウェルさん?」
「この施設の電源は湯の温度管理や冷房等のため二重に確保してある。どちらかが落ちても直ぐに復旧するはずだ」
「……というと」
「電源は人為的に落とされた、と考えるべきだ」
 マクスウェルの持っていた籠手型HCに警備員用の緊急チャンネルの放送が入る。
「ノゾキの集団の一部が館内へ侵入! 繰り返す! ノゾキが館内へ侵入!! 各警備員は入浴客の身を守りつつ、各自判断で迎撃せよ!! 尚、電源の復旧は未定!! 繰り返す……」
「……だそうだ。恐らく電力ユニットを断線でもしたのだろう」
 暗闇の中でマクスウェルは銃を取り出す。
「へっ! 来るなら来てみやがれ!!」
 三鬼が構える。
「他人の風呂を覗いて何が楽しいかはわからんが、覗きは悪質な行為。他人の迷惑になる前に自分が捕まえるとしようか」
 【殺気看破】で警戒するマクスウェル。
「ここは女湯までのルートには当たるけど、そんな真正面から来るとは……」
 佑一が苦笑するが、ミシェルは否定する。
「佑一さん。真正面から突破しやすくするために、照明を落とした、そう考えるべきたと思うよ」
「!」
「同感ね」
 プリムラがイコンと巨猿の接近による地響きに、やや腰が引けていた三鬼に【ふわふわ気分】のスキルをかけて地響きの効果を軽減させてやる。
「ありがてぇ! 俺の流山の拳法の力、見せてやるぜぇ!!」
 ザザザザッ……。
 暗闇の中、移動する複数の足音が聞こえる。
「来たッ!」
 佑一がワイヤークローを放ち、先制を仕掛ける。
「ぐわっ!?」
 ワイヤークローが暗闇の先で何かを捕まえたようだ。
「怯むな!! 前進しろ!!」
 ノゾキの勇ましい声が闇から聞こえる。
「ボクがやるよ! 佑一!!」
 人を傷つける攻撃が出来ない性格のミシェルが、【ヒプノシス】で眠らせにかかる。
「ヒプノシスだとぉ! 笑わせる!! 今の高活性化された我々に効くものか!!」
「むぅ……ノゾキで燃えている人に効果は弱いみたいですね」
 直ぐ様、蒼き水晶の杖でのスキル封じに切り替えるミシェル。
「ミシェル! どいてろ!!」
マクスウェルが【アルティマ・トゥーレ】をノゾキ達の足元を狙って放つ。足を封じる作戦だ。
 冷気が床すれすれを駆け抜けていき、また一人、ノゾキを掴まえる。
「あ、足を狙ってくるぞ!?」
「おい、大丈夫か、しっかりしろ!!」
「す、すまない。お、俺の代わりに桃源郷を見てきてくれ……」
「馬鹿野郎……ただ足をやられただけじゃないか? 弱気になるなよ!」
「へへっ……い、いいんだ。俺、この作戦が終わったら彼女に告白するつもり……だったんだけどな」
「馬鹿野郎!!」
 何やら涙が溢れるかもしれないノゾキ達の会話が聞こえてくる。
「……本当に馬鹿野郎ですね」
 プリムラが唸る。
「プリムラ! 暗闇過ぎて敵が何人いるのかわからない。何とかできないか?」
「任せて、佑一。念のために仕込んでおいたから」
 プリムラはそう言うと、指をパチンと鳴らす。
「む……何か、粉が……へっ、ヘックショーン!」
「クシュン!!」
「急に、くしゃみが……ハクションッ!!」
 鳴り響く覗き魔達のくしゃみ。
 プリムラが、【トラッパー】のスキルでくしゃみ花粉が上から落ちてくるような罠を設置しておいたのを、発動させたのだ。
 マクスウェルがくしゃみの数を聞き分ける。
「敵は5名。自分と佑一が1匹ずつ拘束したので残りは3か」
「ミシェルのヒプノシスが効かない程、ギンギンに目が冴えている人達ですから、眠り粉は効かなさそうですね……では、空捕えのツタで!!」
 プリムラが命じるとツタが暗闇の先へ伸びていく。
「おわああぁぁぁ!?」
「うわぁぁーー!?」
「これで、残りは一人ですね……」
 プリムラが佑一に振り向こうとした時、ヌッと暗闇から迫る人影が見える。
「プリムラ!! 後ろ!!」
「え?」
「うああーッ! 俺はノゾキに行くんだぁぁ!!」
 捨て身の突撃をする覗き魔。
ガシンッ!!
「……おい、おまえ、その辺にしておけよ」
 三鬼がノゾキの手を捕まえている。
「流山流拳法! リーゼントアッパー!!」
 三鬼は男の手を自分の方へ引き寄せると、低くした体勢から一気に男の顎目掛けて強烈な頭突きを喰らわせる。
「おぐぅ……シェ、シェア大佐……ぁぁ」
 アッパーのような強烈な頭突きを食らった男は、仰向けに倒れていく。
「チッ……髪が乱れちまったぜ」
 即座にクシを出し、リーゼントを整える三鬼。
「あ、ありがとう……」
「別にいいぜ。おまえがさっきスキルをかけてくれたからな。その礼だ。俺は恩はすぐ返すタチなんだ」
 三鬼はそう言うと、プイとそっぽを向く。
「これで、ここにやって来た者は皆倒した、ということか」
 マクスウェルが佑一に言うと、佑一は頷き、
「そうですね。でもマクスウェルさん、僕達が倒したのはほんの一部でしょう」
「覗きを自分からやろうとするやつだ……多少痛い目を見なければ懲りないだろうな」
ズズゥゥーーンッ!!
 また地響きが館内を襲う。それも随分近いところだ。
「三鬼くん。揺れが続く中、申し訳ないが、もう少し、僕らと警備を続けて貰えるかな?」
「あぁ!? ったく、面倒な事になってんな……腹も減ったし、メシ食ってから……」
「はい! おやつだよ」
 ミシェルが三鬼に、棒状の何かを差し出す。
「おやつ!? 俺がおやつなんかで釣られ……こ、この匂い!?」
 鼻をつく、こんがりとした匂い。
「この間は一緒に警備してチュロスが好きな事も分かったから、ボク、おやつにチュロスを持ってきたんだよ。味は普通のタイプと、苺味! どっちがいい?」
「チッ、チュロスなら仕方ねぇ! 片手でコイツを食べながら単車を転がし、喧嘩に明け暮れた昔を思い出すぜ!!」
「……おやつじゃなくて主食だったんだ」
 三鬼はミシェルから貰った好物のチュロス(苺味)をかじりながら、佑一やマクスウェル達と警備を続けるのであった。