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Perfect DIVA-悪神の軍団-(第1回/全3回)

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Perfect DIVA-悪神の軍団-(第1回/全3回)
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リアクション


●遺跡〜地上

「あっ…」
「おっと」
 倒木につまずき、よろめいたルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)六鶯 鼎(ろくおう・かなめ)が受け止めた。
「大丈夫ですか?」
「ええ……ありがとうございます。すみません…」
 覇気のない声でささやくように答える。ここが日陰だからそう見えるというわけでなく、あきらかに血色の悪い面を見て、鼎は眉を寄せた。けれどあえて何も口にせず、黙って彼女の手を放す。
 2人に気付いた榊 朝斗(さかき・あさと)が、向こう側へ飛び降りようとしていた足を引き戻してルシェンのそばへ飛び降りた。
「ルシェン、これ以上は無理だよ」
「朝斗……大丈夫ですから」
「そんなこと言って。まともに足も上げられない状態じゃないか」
 うつむきがちに視線をそらそうとする彼女を下から覗き込む。朝斗はあきらかに腹を立てていた。だがそれはルシェンにではない。自分の判断の甘さだ。
(やっぱりさっきの鈿女さんの言うとおりにしておくべきだったんだ)
 今さらながら悔やまれる。ルシェンが「大丈夫」と言ったからって、それを信じるべきではなかったのだ。大体、昔から病人本人の口にする「大丈夫」ほど信用できないものはないのだから。
 朝斗はぎゅっと目を閉じ、深々と息を吐き出すと、ポケットから携帯を取り出した。
「朝斗?」
「ヴァイスさんに迎えに来てもらう」
 その言葉にルシェンはあわてた。
「そんなっ……わざわざ彼の手を煩わせるなんて」
「そう思うなら、具合悪いのに「大丈夫」なんて絶対言わないで。――あ、ヴァイスさん? 朝斗です」
 朝斗は簡単に状況を知らせると、座標位置を知らせて携帯を切った。
 そして進行が止まったのをこれ幸いに、こっそり奥の木に手をついて休んでいるアイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)を見た。
「もちろんアイビスも引き返すんだよ」
「……えっ!?」
 びくん、とアイビスの体がはねる。顔色をうかがうように、そろーっとこちらを振り返った。
「わ、私は大丈夫です。足も上がります、ほらっ、ほらっ」
 一生懸命その場で足踏みをして見せるアイビスを、朝斗は無表情でじーーーっと凝視する。アイビスはだんだんいたたまれなくなって、その場でもじもじし始めた。
「具合、悪いんでしょ?」
「……でも、あのぅ…。
 せめて、そばにいちゃだめですか!? お邪魔しません、見てるだけですからっ」
「ピクニックに行くんじゃないんだよ」
「は、はい…」
 しゅん、となったアイビスに、朝斗は内心小首を傾げていた。
 妙に甘えたになっている。これも体調不良のせいだろうか? 高熱が出て心細くなるのと同じ?
「いいからここへ来て、ルシェンと一緒に座ってヴァイスさんが来るのを待って」
「……はい…」
 密林に入ってまだそう進んでいないこともあって、ヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)はすぐにやって来た。
「やあ、朝斗くん、お待たせ」
「ヴァイスさん、わざわざすみません」
 出迎えようとそちらへ向かおうとした朝斗は、つん、と後ろへ引っ張られて立ち止まった。しげみにでも引っかけてしまったか、と振り返ると、アイビスが上着の裾を掴んでいる。
 無意識だったのか、彼女も朝斗がこちらを見ていることでそのことに気付いて、あわてて手を放した。
「朝斗くん、それで病人は?」
「あ、はい。ルシェンとアイビス、で……す?」
 あらためてヴァイスの方を振り返り、朝斗は驚きのあまり硬直した。無理やり押し出した言葉がしり上がりになって、まるで疑問形のようになってしまう。
 ヴァイスは朝斗の視線が自分の頭上を超えて上を見ていることに気付いて、振り返った。そして「ああ」と納得する。
 そこにいたのは魔鎧龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)だった。このドラゴランダー、魔鎧でありながらその巨大さは規格外品。まさにドラゴンの名にふさわしい姿と大きさをしている。
「病人を運ぶのを手伝ってもらってるんだ。見たとおりの大きさで力持ちだし、護衛にもなるしね」
 ――ガアアアア

 ぽん、とヴァイスにたたかれたことでほめ言葉をもらったと思ったのか、ドラゴランダーは雷のような声でかわいらしく鳴く。
「た、たしかに……そうですね…」
 周囲の木並に大きい。こんな鋼鉄のドラゴンに戦いを挑もうなんて、まず普通の人間なら考えたりしないだろう。
 いまだ気を飲まれたまま、朝斗は同意した。
「八斗、おまえも一緒に帰ったら?」
 ヴァイスと朝斗にドラゴランダーの前足へ乗せてもらっている2人を見ながら、月谷 要(つきたに・かなめ)月谷 八斗(つきたに・やと)を振り返った。
「えっ、俺? な、なんでっ?」
「おまえも具合が悪いって知ってるからだよ」
 隠したって丸分かり。
 鼻をつまみ、ぐぐっと持ち上げる。
「い、いたっ、いたたっ! は、放してよ! 大丈夫だってっ。いざとなったらリゼッタさんが乗せてくれるって――」
「ヘリファルテは1人乗りだろ・う・が。いいから帰れ」
「……ううーっ…」
「まぁまぁ。いいじゃないか」
 にらみ合いをする2人を見かねて、ルーフェリア・ティンダロス(るーふぇりあ・てぃんだろす)が仲裁に入った。
「オレが面倒見るから。いざとなりゃこんなチビ、オレが抱えて逃げてやるよ」
「うんうん、そーそー――って、ルー姉!? チビって俺のこと!?」
 と、腕に掴みかかって、ハッとなる。肌が熱い。
「ん?」
「……ううん。なんでもない…」
「それにホラ、もうヴァイスたち行っちまったぜ」
「え? ――ありゃ?」
 言われて振り返ると、たしかに彼らの姿はなくなっていた。こうなっては観念するしかない。
「しかたないなぁ。後ろにいて、おとなしくしてるんだぞ?」
 連れて行ってもらえるならこの際何だって。八斗は調子よくうんうんうなずいて見せた。
「アイビスさん、あんなに残りたがって…。なんだかかわいそう」
 霧島 悠美香(きりしま・ゆみか)の遠慮がちなつぶやきに、朝斗も同意した。
「うん。だけどあの状態でついて来ても危ないだけだし。動けない2人を護りながら戦うなんて、きっと無理だから」
「そうね」
 そうは言ったものの、あのアイビスの子どものような様子に、朝斗もひっかかりを感じずにはいられなかった。
 本当にこれで良かったんだろうか? ――良かったんだよ……ね?
 後ろ髪ひかれる思いで何度か振り返りつつ、朝斗は前進した。




(なんだろう? この病気は)
 来た道を戻りながらヴァイスはそう考えを巡らせていた。
 彼の頭のなかにパートナーのセリカ・エストレア(せりか・えすとれあ)の姿が浮かぶ。彼もまた、最悪の体調不良に陥った者の1人として密林の入り口で鈿女に介抱されている。最初のうちは「なんでもない」と言い張って聞かず、ヴァイスと一緒に救護活動をしていたが、ついに体力が尽きて今では満足に起き上がることもできない状態に陥っていた。
 彼らの治療に、回復系魔法は一切役に立たなかった。体力の回復にはなるが、それもすぐ、指先からこぼれる砂のように失われてしまい、元のもくあみになってしまう。
(魔法が効かないということは、病気じゃないってことだよね)
 彼らの肉体そのものに作用しているということ…?
 しかしそれが何なのか、ヴァイスには見当もつかなかった。己の無力感、焦燥感がつのる。
 自分にできることを精一杯やればいい、やるしかない、そう思うのだが、セリカの身が案じられてならない。このまま手遅れになって、彼を失うことになったらどうしよう?
 いやな予感が振り払えない。
 しばらくの間黙々と進んだのち。ヴァイスは偶然倒れている男を発見した。
 ふと流した視線の先、しげみの下から足が突き出ていたのだ。あやうく見逃すところだった。
「ちょっと止まって」
 と指示してしげみをさらに掻き分ける。幹に亀裂の入った木の根元に男が身をよじって倒れていた。休もうと木にもたれかかったまま意識を失ってずるずる倒れた、といった感じだ。
 木と彼の影に隠れて見えなかったが、奥にドルグワントが倒れているのを見てぎくりとなる。しかしそれは首がうなじの皮一枚でつながっているだけの状態で、完全に機能停止しているのが分かって、ほっと胸をなでおろした。
「おいあんた、生きてるか?」
 軽くほおを張るが反応はない。
「どこかけがしてるのかな」
「……つっ…!」
 ヴァイスに探られて、その痛みで起きたか。男の眉がピクピクと動く。やがてうっすらと目が開いた。
「気がついたか。名前は? 言えるか?」
「御宮……裕樹。……みんな、を…。向、こうに……」
 と、そこまでつぶやいたあと、ごほごほと咳き込む。パッと血塵が男の口から舞った。
「おいっ! ――しゃべるな! 肺に折れた肋骨が刺さってる! 今リカバリをかける!!」
 ヴァイスは男にリカバリをかけたが、その間にまたも男は意識を失ってしまった。
 だがともかく、男は助かった。
 ふうと息をつき、ヴァイスは次に男が視線で指した位置へ、彼の言う「みんな」の捜索に向かった。男をこんなふうにした相手がまだその辺にいないとも限らない。用心しつつ、できるだけ音をたてないようしげみを捜索する。
 一方で、ドラゴランダーの腕に腰かけたアイビスとルシェンはぼんやりと宙を見つめていた。
 朝斗たちと分かれてこれ以上気を張らなくてもよくなったせいか、すっかり脱力してしまい、2人の状態は悪化している。
(……ああ、これは……体の機能どころか……思考までもまともに…)
 体のどこかで警報が鳴っている気がする。機能停止の前触れだろうか?
 そのとき、ぺちぺちとひんやりした小さくてやわらかいものがアイビスのほおに触れた。ちび あさにゃん(ちび・あさにゃん)のもみじのような手だった。
 朝斗と離れることをさびしがるアイビスをなぐさめようと、彼の頭から飛び移ってきていたのだ。
『2人をたのむよ』
 分かれ際、朝斗からお願いされた。それを使命のように感じているのだろう。奮起して、一生懸命2人の意識を保とうとしている。
 アイビスはもう声が出せなかった。だからまばたきで、気付いていると伝える。
「ち、び…」
 ルシェンの声を聞きつけて、喜々として彼女の肩へ跳び移った。
「にゃ。にゃにゃにゃ、にゃあっ」
「……ええ……ありが、とう…。
 ね? あなたに……お願いが、あるの…。もしも……もしも、私たちが…。そのときは……全力で逃げなさい。決して私たちをどうにかしようなんて……思わないで…。あなたを、殺してしまうから…」
「……にゃ?」
「朝斗をお願い、ね…。もう、私たちは…」
「待たせたな。すぐ休める場所へ連れて行く」
 ヴァイスはルシェンたちのように動けないでいる3人を見つけだし、ドラゴランダーに乗せた。再び歩き出す。
(……朝斗……ずっと、あなたのそばでいたかった……あなたのパートナーとして……あなたの力に…。
 でも、もう……できない)
 アイビスはひっそりと涙を流した。