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あの頃の君の物語

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光を失ったあの日〜冬蔦 日奈々〜

 夏休み。
 冬蔦 日奈々(ふゆつた・ひなな)にとって7歳の夏休みは楽しいものだった。
 両親は生まれたばかりの時に死んでしまい、養ってくれている親類は仕事で飛び回っていて、日奈々は旧家の大きな家で寂しく暮らす生活をしていた。
 しかし、小学校に行き、友達が出来た。
 その友達との夏休み。
 日奈々は初めて親戚以外の人に誕生日をお祝いしてもらって、夏休みに遊ぶ約束をたくさんした。
 プールに行って、バーベキューをして、学校でも夏の行事があって。
 ただ家で過ごすだけの夏じゃない日が来ようとしていた。


 その日、日奈々は夏祭りに行く約束をしていた。
 集合場所は近くの神社。
 お気に入りの白いワンピースを着て、頭に麦わら帽子を被って。
 お小遣いを入れたお財布やハンカチなどを入れたバッグを持って、日奈々は神社に向かっていた。
 日奈々の歩いていたところは大きな国道の歩道だった。
 ガードレールもきちんとある場所で、日奈々は安心して歩いていた。
 
 でも。

 音が、した。
 メキメキというべきか、バキバキかベキベキか。
 こういう時の音はなんと表現したらいいのか分からない。
 ただ、覚えていることは。

 日奈々が人生最後に目にした空は、とても青かったということだけだった。


 
「……大変だったね、日奈々ちゃん」
 お見舞いに訪れた友達は目に包帯を巻いた日奈々を見て、息を呑んだ。
 そして、元気づけるように日奈々の手を持って言った。
「お祭り行けなかったけど、来年は行こうね」
「プールは無理かも知れないけれど……歩けるようになったらバーベキューしよう」
「学校のイベント、夏だけじゃなくて、秋も冬もあるんだって。そこで一緒にやろうね!」
 友達が口々に励ましの言葉を贈る。
「みんな……ありがとう」
 親戚は入院の手続きだけすると、病院に来なくなってしまった。
 だから、友達のお見舞いが日奈々にとってはとてもうれしかった。
「それじゃ、また来るからね!」
 友達はそう言って帰っていった。


 夏休みの間、代わる代わる色々な友達が来た。
 幼稚園の頃に一緒だった子も来てくれたり、先生もお見舞いに来てくれた。
 普段はお正月しか顔を合わさないような親戚も来てくれたりして、日奈々の病室は賑やかだった。
 ちょっとした人気者になったような気にさえなった。

 夏休みが終わると、先生がみんなからの寄せ書きを持ってきてくれた。
 字が見えないから、先生が一つ一つ読んでくれた。
 友達からのメッセージを、日奈々は熱く胸に刻んだ。

 秋が来る頃。
 日奈々の病室を訪れる人は減っていった。
 来ていたお手紙も、まれになった。
 そうこうしている内に、日奈々の視力の回復は無理という判断が下り、日奈々は家に戻ることになった。

 家に戻ると、誰も訪ねる者はいなくなった。
 時々、担任が訪ねてきたが、日奈々は会わなくなった。
 日奈々の家は旧家で、まだ家に遊びに行くほど仲が良くなっていなかった友達たちは、その雰囲気から近寄りがたさを感じていたのだが、当時の日奈々にはそういうことは分からなかった。
 ただ、誰もいなくなって、寂しさだけが胸に残った。
「私……邪魔なの……かな」
 先日は親戚たちが日奈々のことをどうするのだと話していた。
 でも、日奈々自身に声をかけるものはいなかった。
 学校の先生だって、学校においでと言うけれど、本当に学校に行ったら迷惑かも知れない。
 それに今さら学校に行ったって、友達の輪には入れないかも知れないし、授業だってついていけないかもしれない。
 日奈々はぎゅっと部屋の枕を抱いた。
 外に出たいとは思わなかった。
 日奈々にとって、外の世界はとても恐ろしいものになってしっていたから。
 リハビリもしなかった。
 そんなことに意味があると思えなかったから。
 あきらめて、妥協して、期待なんてしない。
 
 その後、日奈々にとって一番大事な人に出会う日まで、日奈々は闇の中で暮らす生活を送ることになる。