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劇場版 月神のヒュムーン ~裁きの星光~

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劇場版 月神のヒュムーン ~裁きの星光~

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・Chapter10


『はーい、みんな聞こえるー?』
 衛星βに向かうアペイリアー・ヘーリオスの中で、無限 大吾(むげん・だいご)はドミニクからの通信を受け取った。
 コックピットのモニター越しで、彼女が手を振っている。
「こっちは大丈夫。
 改めてになるけど、小隊を組んでくれてありがとう。それと、小隊長を引き受けてくれたことも」
『なーに、このドミニクさんに任せなさい! アタシがこのブラボー小隊を勝利に導くっ!』
『違(違うでしょ、お姉ちゃん。私たちの目的は任務を成功させること)』
『マルちゃん、ここは勝負に勝つってことにした方が盛り上がるでしょ!』
『何戦(一体何と戦ってるのよ……)』
 この姉妹のやり取りを見て、大吾は今更ながらドミニクに小隊長を頼んだのは間違いだったような気がしてきた。
「とりあえず、皆で頑張ってこう! えいえいおー!」
 サブパイロットの西表 アリカ(いりおもて・ありか)が気合いを入れた。
「ってなわけで、早速敵の反応を捉えたよ。【アペイリアー・ヘーリオス】のレーダーの範囲内には……十二機!」
「その中に、モスキートはなしか」
「管制室からの情報だと、衛星から最も近い位置にいるって。衛星を壊すには、引きはがさないと厳しいかな」
 一筋縄ではいかなそうだ。
「加えて、ステルス装置を使って潜んでいる機体もいる可能性があるときたもんだ。まあ、こっちもステルス機だ、弱点ははっきりしているぞ」
 ステルス状態の時は、基本的にエネルギー武装が使えない。また、実体武装の場合、攻撃の瞬間はどうしても姿が露出することになる。死角や遠距離からの攻撃以外に関しては、注意していれば対処は容易。
「元々レーダーだけに頼るつもりなんてないよ。この目でちゃんと見ないとね」
 アリカが超感覚により、視覚を強化している。宇宙では敵の駆動音が感知できないのが厄介だが、それをおいても「見える」というのは心強い。
『おー、うようよ出てきたね。みんな、準備はいい?』
 ドミニクが小隊全員に確認を取る。
 大吾は操縦をセミオートからマニュアルに変更。
『作戦は単純。敵は振りきれないの以外は無視! デカいのとか黒いのとかは、簡単には行かせてくれないから、誰かが相手にすることになる。だけど、できることなら黒いのには単機で当たって』
『……理由は?』
 ドミニクに尋ねたのは、ソルティミラージュ村雲 庚(むらくも・かのえ)だ。
『陽動。引き付けて注意をそらせば、その隙に他の機体が衛星に近づけるでしょ? マルちゃん、衛星付近――あたしたちから見て後方にいる黒いのの配置って分かる?』
『2、1(黒いの2、デカいの1。黒い方はステルス起動中。あと、その回りに絶賛ステルス中のシュメッターIIがうじゃうじゃ)』
 地上から送られたデータと照合し、マルグリットはステルス機の位置座標を特定したようである。
『……シュメッターリンクIIの対処はどうする?』
 再び、庚。
『そっちは心配無用! ね?』
『ええ、その通りね。なかなか気が利くじゃない』
 ドミニクの声に反応したのは、レイヴンTYPE―Cに乗る葛葉 杏(くずのは・あん)だ。
『……アタシ、こう見えて負けず嫌いなんだよね。ってなわけで、シュメッターはアタシたちが全部引き受けるから』
 オープン回線(実質小隊間でのモニター越しのチャット状態)による一連の流れを追っていた大吾も、その大胆な発言に驚きを禁じ得ない。が、どこかでその気持ちが分かる気がした。
(多少の無茶無謀は、俺だって承知の上だからな)
 元々壁役・囮役を務めることになっている大吾としては、シュヴァルツ・フリーゲIIと一緒にシュメッターリンクIIもくっついてきたら御の字だ。
『……了解だ』
『アタシが合図した後、マルちゃんの攻撃に合わせて、みんなは一気に突破してね』
 敵との距離が詰まっていく。
 4000、3500、3000、2500、2000――、
『マルちゃんっ!』
『……ロック。全弾発射』
 【サンダルフォン】に搭載された多弾頭ミサイルランチャーが火を噴いた。シュメッターリンクII十機とシュヴァルツ・フリーゲII二機の敵中隊の中で、炸裂する。
『エンゲージ……戦闘起動開始……』
 最前線を行くのは【ソルティミラージュ】、【アペイリアー・ヘーリオス】がそれに続く。
『振り返らず、そのまま進んでっ!』
 その叫びと同時にドミニクの顔がモニターから消え、音声のみとなった。戦闘機動中に顔を見て話すのは、通信を担当する方だけだ。
「もちろん、そのつもりだ」
 スロットルレバーを押し込み、【アペイリアー・ヘーリオス】は衛星に向かって突き進む。
「お出ましのようだな……こっちだ」
 【ソルティミラージュ】と【アペイリアー・ヘーリオス】は二方向に分かれ、それぞれでシュヴァルツ・フリーゲIIを一機ずつ誘導した。
 その間に衛星へと進んでいく機体は三機。
  E.L.A.E.N.A.I.、{ICN0004670#Seele―?}、そして、
『……来たよ、ドミニク、マル』
 アカデミーからの援軍である、ファスキナートルだ。
『モスキートは、任せてもらうよ』
 おそらく、残りの三機でモスキートに当たることになるだろう。となれば、肝心の衛星破壊を担うのは、
『敵はなるべく無視って言ったけど……肝心の衛星破壊担当、決めてなかったね。マルちゃん、「例のアレ」、射程はどうなってる?』
 【サンダルフォン】だ。
『短(かなり短い。あと、威力が威力だから、衛星の近くでモスキートと交戦されると、小隊機を巻き込む可能性が高い)』
『じゃあ、マルちゃんはチャンスが来るまで援護をお願い』
 そこで一旦小隊間通信が終了。各自、交戦に入った模様だ。無論、【アペイリアー・ヘーリオス】もである。
「さぁ、掛かってこい! お前たちの相手はこっちだ!」

* * *


「早苗、BMI起動するわよ!」
 【サンダルフォン】による一斉砲火に合わせ、橘 早苗(たちばな・さなえ)がBMIのシンクロ率を上昇させた。負担がかからない限界ラインである、50%だ。
「さすがに宇宙では、スラスター制御が難しくなりますね……」
「大きく動く必要はないわ。
 救いがあるとすれば、高機動タイプの機体ではないという点だろうか。あまり大きく回避行動をすると、姿勢を戻すのに時間がかかってしまう。装甲が厚いことを武器に、多少の被弾は覚悟で最小限の回避行動をとった方がいい。
 幸い、この機体には火力がある。
「コームラントタイプの重火力を見せてやるわ、喰らいなさいよ」
 目くらましにミサイルポッドを撃ち込み、爆発が起こったところでサイコビームキャノンのトリガーを引いた。だが、その反動で機体が回転しかけてしまう。スラスターを吹かせることで、なんとか姿勢を取り戻した。
「く、腕一本か。でも」
 回避行動を取った敵に対し、即座にガトリングガンの銃口を向けた。
「この距離なら、外さない!」
 シュメッターリンクIIに向かって、実弾を撃ち込む。さっきのこともあり、ビームキャノンより反動が小さく、取り回しが効きやすい武器にしたのである。ジェネレーターを被弾した敵機が制御不能に陥り、地球に向かって落ちていった。コックピットブロック以外が、大気圏で燃え尽きる。
「まずは一機撃墜! さぁ、二機目はどこ!?」
 杏はすぐに標的を探した。
 射程圏内からショットガンを構えている機体を見つけ、
「今度はしくじらないわ」
 ビームキャノンを発射。二度目とあって、反動は先ほどより大きくはなかった。
「二機! どうよ?」
 直撃を受けた機体が爆発した。
 どうやら、敵もあまり宇宙戦には慣れていないらしい。
 一方のドミニクは、
『チェストーっ! 四機目!』
 【メタトロン】の旋風回し蹴りが炸裂し、シュメッターリンクIIが衛星軌道の外側に弾き出された。
『無重力って楽しいねっ!』
 速度が落ちないのをいいことに、加速に加速を重ねて繰り出すその攻撃は相手を吹き飛ばすばかりか、敵からの攻撃を無力化すらしていた。
『何も蹴りばかりじゃないよ』
 スラスターを瞬間的に全開にして直線状に飛び込み、機神掌を放つ。
『押し出し! って言うんだけ? 日本の相撲だと。あ、今ので六機目か』
 戦闘開始からものの数分で、敵の第一陣はほぼ壊滅していた。
「……やるわね」
『言ったでしょ、負けず嫌いだって』
 この分なら、もうすぐ前線に合流できそうだ。そちらにも敵はいる。まだ負けたわけではない。
「杏さん、後ろから来ます!」
 早苗の声に反応し、トリガーを強く握った。
 接近してくるのはシュヴァルツ・フリーゲII。しかし、向き直って迎撃するには距離が近すぎる。
 しかし、敵の動きは止まった。厳密には、機体が爆ぜたために、もうそこにはいなかったのである。
『邪魔(お姉ちゃんたちの邪魔はさせない。「勝負」って、そういうことだったの)』
 バスターライフル改で、マルグリットが撃ち抜いたのだ。
 続いて、少し離れたところにいたもう一機のシュヴァルツ・フリーゲIIも、一発で無力化された。絶対命中と高火力があれば、一発で沈めることなど容易いとでも言うかのように、あっさりと。
『……続けて』
 杏の機体を挟み込むように、残り二機のシュメッターリンクIIが旋回しながら距離を詰めてきた。
「杏さん、どうします?」
「これは都合がいいわ、早苗。だって」
 レイヴンの両手に、ガトリングガンがある。
「同時に撃てば、プラマイゼロよ!」
 敵が一定の距離を保っているのが幸いだ。両手を開いた格好となり、その先にあるガトリングガンを同時にぶっ放した。
 多少機体のバランスが崩れるものの、それぞれの反動によって機体の位置は変わらない。だが今ので、相当の負荷がかかったのは確かだ。
 シュメッターリンクIIの片方はそれによって大破したが、もう一方は強化型ショットガンで応戦し、レイヴンのガトリンガンの片方が破壊される。だが、やけになって姿勢制御を忘れ、軌道から外れた敵機は地球の重力に引き込まれた。
「三機、四機……少し追いついたわ」
『やるね〜。そうこなくっちゃ』
 杏たちは次なる敵を求め、前線へと向かった。