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劇場版 月神のヒュムーン ~裁きの星光~

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劇場版 月神のヒュムーン ~裁きの星光~

リアクション


・Chapter17


(おねえちゃん)
(なあに、ねえさん?)
(みーんなやっつけたら、パパ、ほめてくれるかな?)
(ほめてくれるわ、きっと)
(わあい! じゃあ、いこっ、おねえちゃん)
(いきましょう、ねえさん)

((どうちょう……かいし……!))

* * *


「あれは……モスキートのカスタム機!」
 星心合体ベアド・ハーティオンは、その機体の姿を捉えた。外観はモスキートと大差ないが臙脂色と、カラーが通常機とは異なっている。
「モスキート……カ……キンチョール……キンチョール……カトリセンコウ……」
 星怪球 バグベアード(せいかいきゅう・ばぐべあーど)が何やら呟いているが、それは気にしないでおく。眼前にあるあの機体から、異様なプレッシャーを感じる。
「ナオリ、各方面の戦況は?」
 ハーティオンは、前線においてα、β、γの戦況を集約している綺雲 菜織(あやくも・なおり)に通信を送った。
『各方面とも、戦闘経過は順調です。敵の数が懸念されてましたが、杞憂だったようです』
 声は、有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)のものだった。彼女が連絡を担当しているのである。
「ならば、なおのこと行かせるわけにはいかぬな」
 各方面の最大の壁は、モスキートだ。通常機であっても一小隊で挑んで倒せるかどうかという相手なのに、さらにもう一機援軍が加わろうものなら手がつけられなくなってしまう。
「ミライ……マモル……」
「ナオリ、援護する。皆、奴を止めるぞ!」

「さて、慣らしはこんなもので大丈夫か。無重力というのもいいね。地上よりも体が軽い感じがするじゃないか」
「気分が高揚するのも分かりますが、真面目にお願いしますよ。
 ……あれをどうにか抑えなくてはいけないのですから」
 不知火・弐型の宇宙での制御にも慣れ、菜織たちはいよいよ戦闘に突入することになった。
「分かってるさ。冗談はここまでだ。地上の管制からは?」
「モスキート・カスタムの周囲にステルスモードのシュメッターリンクII、シュヴァルツ・フリーゲII、ともにないとのことです」
「情報網の構築には感謝だ。おかげで、より全体の戦況が見通せるようになっている」
 相手が単なる有象無象とはいえ、少数の戦力で有利に状況を運べているのは、戦闘の効率化が図られているからである。彩音・サテライト(あやね・さてらいと)が待機している地上の管制室ではリアルタイムで戦闘の分析が行われており、それは各方面に伝えられている。
「しかし、モスキート・カスタムに関してはまだ、情報が少ないですね」
 一見すると武装は通常仕様機と変わらないが、だからといって対モスキートのセオリーが同様に通じるとは限らない。
「DW小隊へ。今のところ大きな動きはありませんが、敵機体の特性が掴めるまでは慎重にお願いします」
 美幸がダークウィスパー小隊に注意を促す。
『あの博士のことだから、何仕込んでるか分からないからね。了解!』

「……あれをヴェロニカくんや辻永くん、ルルー姉妹たちの所に行かせるわけには行かないしね」
 メイクリヒカイト‐Bstに登場している十七夜 リオ(かなき・りお)は、モスキート・カスタムをじっと見据えた。
「じゃ、久々に……無理せず無茶していくよ、フェルッ!」
「行くよ、【メイクリヒカイト】――ワタシのツバサ!」
 フェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)が、スロットルレバーを押し込む。
(リオ、ルート取りは……)
 精神感応によって、フェルクレールトから機動のイメージが伝わってきた。それを元に、タイミングを合わせて、宇宙用に搭載されたヴァリアブルウィングスラスターを操作する。マニュアル操作のため、二人の息が合っていることが重要になるのだ。
「フェルのイメージに合わせるように……」
 モスキート・カスタムの主砲が放たれた。それをかわしたところに、有線ビットからの砲撃が来る。それを、リオがVWSを調整することによって切り抜けていった。
「……ぐっ、予想以上にGがキッツイなぁ」
 速度を落とさずに細かな機動を繰り返すため、パイロットへの負荷は大きい。それでも、敵機に接近するのが優先だ。

「モスキートは近接武装を持っていませんからね。いかにして接近するかが、攻略のカギになります」
 ルーチェ・オブライエン(るーちぇ・おぶらいえん)狭霧 和眞(さぎり・かずま)に告げた。
 【メイクリヒカイト】とともに前衛を行くのは、トニトルス・テンペスタスだ。
「主砲よりも、あの有線ビットが厄介っスね。あとはミサイルも搭載していたはず。どちらにせよ、突破すればただのデカい的だ」
 モスキート・カスタムへ向かう中で、最初は回避に専念する。【メイクリヒカイト】以上に突進能力に重きを置いた調整にしているため、小回りが利きにくい。逆に、隙さえあれば一気に敵の装甲に肉薄できるのである。
 現在、三つの衛星方面ではこちら側が優位だ。しかし、ここにいるモスキート・カスタム、そして白いシュヴァルツ・フリーゲII――【ヴァイス・フリーゲ】は、どこか異質な機体だ。仮に衛星を破壊したとしても、そこで攻撃を止めるとは限らない。
 危険は多いが、ここで撃退するに越したことはない。
「援護は秋に任せて、リオさんと連携していかないとッスね。ま、リオさんは不死身だからきっと大丈夫ッスよね」
『誰が不死身だって?』
「あんだけ死亡フラグ乱立させてひょっこり帰ってきたんだから、もう不死身でいいじゃないッスか」
 それももう、一年前の話だ。悪運の強い彼女がいるだけで、正直心強い。
「さて、兄さん。有線ビットの解析が完了しました。【メイクリヒカイト】、そして【不知火・弐型】への攻撃パターンから、一定の『クセ』が見えましたよ」
 こちらにもビットからの砲撃が来ている。第一射は正面から。それはかわされることが半ば前提であり、二射目は避けた方向によって、に左右のいずれかから来る。
「一射目は基本的に囮ですね。加えて、回避した後にこちらが距離を詰めることを前提にしています」
 有線ビット数は多いが、それらすべてをバラバラに動かすことは難しいのだろう。おそらく、モスキートも二人乗りだからだ。
 ビットのビームを掻い潜りながら、【不知火・弐型】が有線ビットのケーブルを新式ビームサーベルで薙いでいく。動きを止めることなく、スラスターで緩急をつけ、有線ビットを翻弄していた。
『急制動が難しいのなら、それを踏まえた上でスラスターの制御を行えばいい。そして、勢いは衰えないのだから――』
 複数のケーブルを一気に切断していく。
『今だ!』
 ビットが手薄になったのを見て、【トニトルス】は一気に加速した。
「虎穴に入らずんばなんとやら、です。やってしまいましょう」
 それを、ジャックが後方からの射撃で援護した。

「有線ビットがある限り、実質的な資格はなし……か。だけど、機体とつながっている以上、射程の限界はある」
 モスキート・カスタムの有線ビット射程圏外から、高峯 秋(たかみね・しゅう)はサイコビームキャノンを放った。実弾では、初速が失われないことから味方の援護には向かない。確実に目標に当てられる状況の時に使うのが吉だ。
「主砲がこっちを向く前に……アキ君!」
 距離が離れているがゆえに、敵の主砲は脅威だ。BMIによって常時フォースフィールドを展開しているが、それでもまともに食らえばひとたまりもない。逆に、有線ビット程度ならほとんどダメージを受けずに済む。
 とにかく敵の死角に。エルノ・リンドホルム(えるの・りんどほるむ)は、それを意識して機体位置取りを行っていた。
「ここからなら、スナイパーライフルで狙えそうだよ」
 モスキートは単に装甲が堅いのではない。マルチエネルギーシールドにより、ビーム兵器は大概通用しなくなっている。実体武装に関しても近接武器は有効だが、射撃武器は至近距離からでなければ有効打を与えるのは難しい。
 が、それは地上での話だ。宇宙では、どこから撃とうが実弾の威力は変わらない。
 実弾型のスナイパーライフルF.R.A.G.仕様に換装し、狙うのはモスキートの外部カメラ、センサーだ。
「そこだ!」
 【トニトルス】が向かっているケーブルの射出口の周囲をロックオンし、トリガーを引いた。
『このまま、決めてやる!』
 【トニトルス】が新式ビームサーベルを握り、ケーブルの射出口に突き立てた。火花が飛び散る中、一気にサーベルを振り抜いていき、機体右側にある射出口を完全に破壊した。
『これで、ビットはもう使い物にならないッス。あとは……』
 だが、そんな【トニトルス】が背後から撃たれ、被弾した。
 有線ビットはもう存在しない。そう、「有線」は。
『被弾、右腕損失。兄さん、いったん離脱します!』
 右腕とビームサーベルを失ったが、まだ戦える状態ではある。
「アキ君、ビットが来る!」
「……っ! ここは圏外なのに」
 ケーブルから切断されているのに、それは機能を失っていなかった。むしろ、無線となったことでさらに広範囲をカバーできるようになってしまっていた。

(い い じ ゅ ん び う ん ど う に な っ た よ)
( い い じ ゅ ん び う ん ど う に な っ た よ)

 響いてきたのは、二重に重なった女の子の声だ。

(こ こ か ら は 、 ほ ん き で い く ね)
( こ こ か ら は 、 ほ ん き で い く ね)

 モスキート・カスタムの機体に異変が生じた。
 ――変形を開始したのである。

* * *


「モスキート・カスタムが……!」
 【ヤタガラス】を駆るシフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)も、遠くに見えるその機体が姿を変えていく様を目にしていた。
 しかし、あちらに行くことはできそうにない。
(シフ、左!)
 ミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)からの精神感応で、【ヴァイス・フリーゲ】からのサーベルをかわす。すかさずブレイドランスを突き出した。
 機体を回転させ、【ヴァイス・フリーゲ】がそれを回避。すかさずビームサーベルで切り上げるが、スラスター全開の急制動でそれも避けた。勢いで回転した機体を――いな、その回転を利用した上で逆噴射し、機体を安定させる。【ヤタガラス】とは上下逆さまな状態で対峙している形だ。まるで対極図である。
「この機体……とても人間のパイロットが動かしているとは思えませんね」
 そんな機体と互角に戦えている【ヤタガラス】ではあるが、それはBMIシンクロ率60%による、精神力を使っての空間把握や行動予測があり、なおかつそれを最大限に生かせる機体性能があるからだ。
 宇宙では攻撃、防御手段として炎は使えないが、その発火能力をスラスターの噴射に回すことはできる。念動力は重力の影響を受けず、電撃は真空でも通るため問題なく使用可能だ。真空波は接近しなければ使えない。
「上下の感覚が掴みづらいっていう人は多いと思うけど、発想を変えれば『どっちを下と捉えても問題ない』んだよね。宇宙では。まあその応用を、相手もやっちゃってるわけだけどさ」
 エナジーウィングを展開。急回転しつつその翼で【ヴァイス・フリーゲ】から放たれるガトリング弾を蒸発させる。
「これなら、どうですか!」
 翼を開き、レーザー一斉放出。だが、わずかな隙間を縫うようにして敵機は距離を詰めてくる。
 再びの白兵戦。
(シフ、アクセルギアは?)
(使ってます。五倍まで引き上げた上で。それで、この状態です)
 一点集中。サーベルとサーベルが、ランスとサーベルが、絶え間なく交叉する。そしてここぞという時に、アクセルギアを三十倍に。
(…………っ!)
 わずかにではあるが、【ヤタガラス】の装甲が削られた。かろうじて避けられたが、
(今のは、人間のパイロットには絶対にできない動きでした……)
 三十倍に思考が加速した状態の中、相手が一瞬それを上回る速さを見せた。
 一体、この白いイコンのパイロットは何者だ?