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第26章 光の花びらを背景に

 手を繋いで歩くのは、歳の割に背の高い少女だった。長い黒髪をお嬢様結びにしていて、高校2年生くらいに見えるがその実13歳の地球人である。非契約者である為に小型結界装置を持ち、その上でイルミンスールの新制服を着ている。
「別に、普通の私服でも大丈夫だったんだぜ」
「せっかくの機会ですから。この制服、一度着てみたかったんですの。……それに、これは変装も兼ねておりますし」
 ナディム・ガーランド(なでぃむ・がーらんど)の言葉に、少女は改めて自分の服装を見下ろす。少女は、地球では結構な有名人だった。ナディムと出会ったのは、空京にプロモーションに来た折の事だ。その時は1人で困っているところを助けてもらい、災い転じて福と成すでそれなりに楽しい時間を過ごすことができた。
 一期一会というが彼女はそれからナディムが気になり、もう1度会いたいと思うようになった。
(パートナー契約をしていない独り身で可愛そうなナディムをわたくしのパートナーにしてさしあげますわ!)
 ――と、彼との契約を目的に。
 だが、既にナディムはリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)と契約している。遥か昔、古王国時代ならいざ知らず、パラミタ出身者が地球人と複数契約することは不可能だ。
 少女は、それを知らぬままに今、イルミンスール魔法学校の中を歩いていた。
 ナディムと手を繋いで。これは、迷子になられると俺が困るから、とナディムから言い出した事だ。
「どうです? 中々に似合ってると思いませんこと?」
「ああそうだな。似合ってるぜ」
 思うままにナディムは言うが、残念ながら彼女は彼の恋愛対象ではない。彼の好みのタイプは泉 美緒(いずみ・みお)グィネヴィア・フェリシカのような『守りたくなる子』だ。それに加え、外見年齢が微妙に自分より下な女子には興味が無い。だから、この『似合っている』という言葉にそれ以上の意味は無かった。
 こうして少女を案内しているのは、どこで知ったのか彼女の携帯電話から彼の携帯電話に連絡があったからだ。
『貴方にイルミンスール魔法学校がどのような学校なのかを、わたくしに説明する係になる権利を差し上げますわ』
 と言われ、知らない相手でもないし、と案内を引き受けることにした。何故自分が指名されたか、という事に関しては、他に案内を頼めるようなパラミタ人がいなかったのだろうと解釈している。
「ナディム、わたくし、イルミンスールにあるというお花畑が見たいですわ」
「花畑? そういや、この通路の途中に見える所があったな」
 わざわざ学校に来て、なぜ何処でも見れる筈の花なんかが見たいのかよく分からないが、ナディムは彼女をその場所まで連れて行く事にした。この先にある吹き抜けの1番下。記憶が確かならば、そこには、季節に関係なく様々な種類の花が一面に広がっている筈だった。

 その頃、ラグエル・クローリク(らぐえる・くろーりく)は件の花畑で光術の練習をしていた。クリスマスにやる演劇で皆のまわりに花を飛ばす係になり、その花びらを光術で作ろうと思ったのだ。
「ラグエルの上からこの練習見たら、お花畑の中に光のお花が飛んでるように見えて綺麗かもしんないね。ヒラヒラ〜って」
 そんな想像をしながら、ラグエルは光で花びらを作る。たくさん、たくさん――

 ――少女は、光や花を使った幻想的な演出が好きだった。
 イルミンスールには花畑を一望出来る場所がある。その話を耳にした彼女は、契約を申し込む場所としてここを選んだ。学校見学をしに来たふりをして。
「ほら、ここだ」
「まあ……、素敵ですわね」
 そして、少女は吹き抜けから花畑を見下ろし、振り返るとナディムに言った。自らの威厳を損なわないよう、優雅に、自信満々のドヤ顔で。
「ナディム、わたくしとパートナー契約いたしませんか?」
 少女の背後に、光輝く花びらが舞い上がってくる。それはまるで、彼女の未来を、将来を、願いの成就を祝福するかのような光景だった。
 だが――
「…………」
 それに反して、ナディムの表情は浮かなかった。彼女の申し出に驚いて、それから困惑して。
 細かな光が彼の方にまで飛んでくる。“花”ではないそれがどうして下から舞ってくるのか、そんな疑問さえ浮かぶ余裕もなく、ナディムは言った。
「悪いけど……俺はもう、『契約』は出来ねぇんだ」
 成功を疑わない笑顔を浮かべた13歳の少女に、真実を突きつけた。
「え…………」
 信じられない、というように少女の顔が血の気を失っていく。
 ここで「YES」と答えることも可能だった。契約は出来ないということを隠して、頷くことも出来た筈だった。だが彼は――
 嘘を吐くのが苦手だ。
「けどまあ、もし俺より外見年齢が上になったら、契約以外の対象には見てやってもいいぜ」
 だからそう言う他、彼に伝えられる言葉は無かった。