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ひとりぼっちのラッキーガール 前編

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ひとりぼっちのラッキーガール 前編

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第10章


「先輩、邪魔者っすよ!!」
 ブレイズ・ブラス(ぶれいず・ぶらす)は叫んだ。
 彼もまた、数人のコントラクターと共に恋歌のパートナーを救出すべく地下施設に乗り込んだのであるが。

「――その通り、邪魔者だ」
 その途中で、天井をブチ抜いて現れた未来からの使者 フューチャーXに行く手を阻まれたのである。

 ブレイズに先輩と呼ばれた男は、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)。パートナーの龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)と共に、戦闘態勢をとる。
「邪魔者……か。しかしブレイズ、俺達を妨害するってことは、何らかの目的がある筈」
 その後ろから、更に匿名 某(とくな・なにがし)も姿を現した。パートナーである結崎 綾耶(ゆうざき・あや)大谷地 康之(おおやち・やすゆき)フェイ・カーライズ(ふぇい・かーらいど)も同行している。
「そうだよなぁ。ただ暴れたいだけってことはないよな。おっさんの目的を知りたいな。今んとこ、無差別に施設を破壊して回っているってことは分かるけど」

 フューチャーXは牙竜と某を睨みつつ、ゆっくりと口を開いた。

「儂の目的か……それは決まっている。四葉 恋歌のパートナーであるアニーを救出する。それだけだ」

 その言葉を聞いた康之が割って入る。
「なんだよ、俺達と目的一緒なんじゃねーか!!
 俺達も恋歌に頼まれてアニーって娘を助けに行くんだ!!
 目的が一緒なら別に争う必要はねーだろ? ならこの際協力しようぜ!!」
 フューチャーXの目的がアニー救出と知って安心したのか、康之は無造作に近づいてフューチャーXに握手を求めようとする。
 だが。
「――ふんっ!!」
「おわっ!?」
 フューチャーXの回答は握手ではなく、右拳だった。
「康之さん!!」
 綾耶の叫びでフューチャーXの打撃をかわした康之は、大きく跳ねて後退する。
「あぶねーじゃねぇか、何すんだよ、おっさん!!」

 康之の抗議を無視して、フューチャーXは続ける。
「ふん、目的は何か、か。
 そもそも貴様らは、それでいいのか?」
 その問いには、牙竜が答えた。
「いいのか、とはどういう意味だ?」
「儂に目的を尋ね、わしからその回答を得られたとする。だが、それでいいのか?
 嘘を言うつもりもないが、全てを話すつもりもない。
 儂の言葉が真実だと、誰が決めるのだ? 今日初めて会った敵かもしれない男の言葉を信用するのか?」

「――ふん」
 牙竜は冷静に考え、間を置いた。

 だが、某は即座に答えを出す。
「――信じる、と言ったら?」
 そんな某の手を、綾耶はそっと取る。
「某さん……」

 その両者の答えに満足気に頷くフューチャーX。その答えは。

「そうかい小僧。悪いが、儂は他人のことをすぐ信用する奴は信用しないことにしている。
 あと、戦いの場に女子供を連れ出す奴も。
 儂の目的は四葉 恋歌のパートナー、アニー・サントアルクの命を助けること――。
 そしてその為に、貴様らのようにアニーを救出しようとする奴らを妨害することだ!!
 無論、恋歌とアニーを利用しようとする奴らもな!!」

「来るぞ!!」
「カード・インストール!!」
 フューチャーXの殺気を感じた牙竜の叫びで、灯が魔鎧形態に変身し、牙竜に装着される。
「変身、ケンリュウガー! 剛臨!!」

「ち、結局邪魔するだけの変態か、変態が綾耶に関わるとろくな目に合わない。
 早々に射殺しなければな」
 フェイは動きを見せようとしたフューチャーXの機制を先んじて、二丁拳銃からの弾幕援護で銃弾を浴びせる。

「ぬおおおおぉっ!!」

 フューチャーXはその銃弾に耐え、警告の叫びを挙げた。

 その様子を見た牙竜は一瞬腰を落とす。
「――こっちも本気でかからないといけないようだな」
 その牙竜を見てフューチャーXはぼそりと呟く。

「ほう……思い出したぞ、その姿。貴様……」
「……知っているのか、俺も有名になったもんだな」
「ああ、知っているとも。ケンリュウガーこと、武神 牙竜――」


「またの名を、半ケツサボテン」


「それじゃねぇぇぇっ!!! てめぇの情報網はどうなってやがるうううぅぅぅっ!!!」


                    ☆


 閑話休題。

「……のぅ、ところで」
 と、ツァンダ付近の山 カメリアは呟いた。
 妙にくぐもった声が地下施設の廊下に響く。
「しっ、喋っちゃだめよ、カメリア。せっかくここまで見つからずに侵入できたんだから」
 カメリアをたしなめたのは小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)である。
「そ、そうだね。ラッキーだったね」
 と、一応賛同の意を表したのはコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)
「……ここの警備って、どうなっているんでしょうか……」
 そしてそこに疑問を投げかけたのはベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)であり、いずれも美羽のパートナーである。

「もう、ラッキーでも警備の怠慢でもないよ、私の作戦が良かったからじゃないの!!」
 むくれる美羽。しかし、カメリアもまたコハクやベアトリーチェのように疑問を持たざるを得ない。


「作戦って……このダンボールのことか?」


 そう、美羽一行とカメリアは、一人一個のダンボールを頭から被って大絶賛潜入中だったのである。
 しかし、とりあえずこの作戦でワリと内部まで潜入できている辺り、むしろベアトリーチェが正しいといえよう。

「まぁ……他のところで騒ぎも起きておるし……なんか先に入り込んで小細工しとるのもいるようじゃから……こっちまで手が回らんのじゃろ」
 呆れ顔のカメリアに、美羽は更にむくれる。
「あー、カメリアひどーい! ダンボールは由緒正しい敵地潜入の正装なのよっ!!」
「……コハク、このズレた女のどこがいいんじゃ」
「え、いやそのカメリア。今はそういう話をその」
「あ、そういえばカメリアさん。美羽さんとコハクさん、ようやく結ばれたんですよ」
 ベアトリーチェから思わぬ報告を受けたカメリアは、ダンボールの中でにやりと笑った。
「ほう、そうなのか!! で、式はもう済ませたのか、新居はどのへんにするんじゃ?」
「いやその、結ばれたって言ってもまだキスだけで」
「ちょ、ちょっとコハク! 照れ隠しに何口走ってるの!!」
「いやそのだってあばばば」
「照れるでないわ、若いんじゃからすぐじゃすぐ!! こういうのは勢いが大事じゃぞ、子供は何人――」


「いたぞ、そこのダンボール四個に敵が入ってる!!」


 ですよねー。


「見つかったわ! みんな、全力で逃げるよ!!」
 ダンボールを跳ね飛ばして、美羽が合図をした。
 前方には、幸輝側のコントラクターが数人。
「うん!!」
「ええ!!」
 コハクとベアトリーチェ、そしてカメリアもダンボールを弾き上げて、走り出した。
 カメリアを抱えて、コハクが叫ぶ。
「カメリア、しっかりつかまってて!!」

 前方へ。

「ええええええぃっ!!!」
 美羽のスタートダッシュで前方の敵を弾き飛ばして、一行はひたすら前方へと走り出す。

「このまま奥まで逃げ切るよーっ!!」


 閑話休題、終了。


                    ☆


「成敗!!」
 牙竜の必殺の一撃が、フューチャーXを捉えた。
「ぬあああぁっ!!」
 ひるんだところに、康之のファイナルレジェンドが炸裂した。
 そして、某のレジェンドストライクを込めた蹴りがヒットし、研究施設の壁を数枚ブチ抜く勢いで、フューチャーXは激しく吹き飛ばされていく。

「やったぜ!!」
 ブレイズ・ブレイズは歓声を上げた。
「……いや、まだだ」
 しかし、牙竜はまだ手応えが少ないことを感じていたのか、警戒を解かない。


「フーっ……なかなかやるじゃねぇか……並みの契約者なら3回は死んでいるところだ……」


「そんな!?」
 綾耶が驚きの声を上げる。
 牙竜の言葉通り、フューチャーXは瓦礫の中から平然と姿を現す。
 胸元に金色の光が見える。何らかの力がそこに隠されているのだろうか。
「ちぃっ!! そんなら俺も変身だ!!」
 ブレイズは懐から白いマスクを取り出し、眼前に装着する。それにより彼は、自称正義のヒーロー『正義マスク』に変身するのだ。・

「いくぞじいさん、この『正義マスク』ブレイズ・ブラスの攻撃を――」
「ほう――正義、だと?」
 変化が起こった。ブレイズが名乗りを上げた瞬間、フューチャーXの姿が消える。
「!?」
 一瞬だった。
「ぐふぅっ!!」
 その一瞬の間に、フューチャーXはブレイズとの間合いを詰め、その右拳をブレイズの腹部に打ち込んだのだ。
 悶絶するブレイズ。その視界の端に、キラリと光るものが映った。
「……それは……!!」
「安っぽい正義なんか振りかざしてんじゃねぇよ――男なら自分の拳で語るんだな、ビビィ」

 ブレイズの意識がブラックアウトする。空を掴んだ手がフューチャーXの胸元に引っかかり、コスチュームから金色のペンダントを引っ張り出した。
「おっと」
 それは、竜の顎を思わせるモチーフの、金色のペンダントだった。

「ブレイズ!!」
 一瞬でブレイズを昏倒させたフューチャーXに、牙竜が襲い掛かる。
 だが、フューチャーXはひらりと身をかわした。

「おっと、お前らほどの腕利きとまともにやり合う気はない。そこのガキのお守りでも適当にしとくんだな」

 間合いを空けて、牙竜と某に投げつけたものは――機晶爆弾。


「危ないっ!!」
 康之の叫びと爆発が起こるのは同時だった。


                    ☆


「また爆発か……」
 柊 真司は呟いた。アレーティア・クレイスがハッキングして得られた情報を元に、リーラ・タイルヒュンと共に施設を進んだ真司は、かなり奥まで侵入することができていた。
 ポータラカ人であるソーマ・ティオンがナノマシンに拡散した状態で斥候し、アレーティアが入手した施設の情報で先に進む。
 天貴 彩羽が幸輝を裏切ったことにより、施設の情報は比較的簡単に入手できていた。
 トラップや敵陣営のコントラクターは、ソーマが注意深く回避した。

「思ったより大きな騒ぎになりそうね」
 魔鎧として真司に装着されたリーラは呟いた。
「そうだな」
「それにしても……契約者を雇ってまで隠したい研究って……いったい何なのかしらね?」
 リーラの疑問に対して、しかし真司は別な答えを出していた。
「研究……隠したいのは、研究そのものじゃないのかもな」
「どういうこと?」
「この施設の構造……変に入り組んだ通路に、トラップを仕掛けてある研究施設ってのもおかしい。
 おそらく……四葉 幸輝はこのビルが完成した時に、娘がこういう行動に出ることが予想できていたのかも……。
 それを迎え撃つために、こんな施設を作ったのかもな……」

 真司は言いながらドアを開ける。
「おそらく、ここが最後の部屋だ」

 そこは少し広めの空間になっていて、ある程度の人数が収容できるようになっていた。
 そして、白津 竜造が率いるコントラクターが真司を迎える。

「いよぉ、遅かったじゃねぇか……待ちくたびれたぜ」

「主っ!!」
 危険を察知したソーマが大剣の姿へと戻り、真司の右手に装着される。
「そうか、それは悪いことをしたな……。
 だが、ここを目指しているのは俺達だけじゃない。じきに続々とここにコントラクターが詰め掛けることになる。
 ……逃げるなら、今のうちだぞ」
 真司の警告は真実だった。

「こうなれば情報は流し放題じゃ……迷いなく目的地にたどり着けるじゃろうて」
 研究施設にハッキングを続けていたアレーティアが、真司達のほかにも施設に侵入しているメンバーに情報を流している。
 それに、不特定多数の人間にも閲覧可能な状態で施設の構造を流したせいで、今や誰でも施設の構造を知ることができるようになっていた。

 だが、竜造はその状況にも臆することはない。
「へっ……つまりここにいりゃあ、次々と敵が現れてくれるってことだな……やっぱりこいつは楽で楽しい仕事だったぜ。
 しかし解せねぇな。てめぇらのようなお人よし連中がこんな研究施設を襲おうって目的は何だ?
 まさか悪党に鞍替えってわけでもあるめぇしよ」

「……雇われているワリに知らないのか。
 この施設の持ち主である四葉 幸輝は娘のパートナーを不当に幽閉している。
 その娘のたっての願いだ……パートナーを救い出してほしいとな」
 真司もまた、ソーマを構えて竜造を見据える。

「……ホント愛と勇気と正義が大好きなやつらだな。
 お前らもう、それだけで生きてんのか? それが仕事なのか? そんなんでメシ食えてんのか?
 ……まあいいさ、それなら俺が最後の関門って奴だ。お察しの通り、娘はこの奥にいる。
 殺す気でかかってこいや!!」


 竜造の咆哮を合図に、戦いの火蓋が切って落とされた。