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リアクション
その頃、役所内の長椅子では緒方 太壱(おがた・たいち)とコタローが樹たちの帰りを待っていた。
「……コタ姉、親父とお袋、ヤケに遅くネェか?」
「う〜? かにゃめ(要)しゃんと、うみか(悠美香)たんも、けっこんとろけ、出してうんれすお」
「あっそ、あの2人も届け出すのね」
太壱は、パラミタがくしゅうちょうに落書きをしているコタローから目を離し、壁に掛かっている時計を見た。
「いりょいりょ、ねーたんたちが、教えてうみたいなんれす! らから、おしょくてもふつーなんれすお!」
「なるほどな。……うにゃーさん、コレ渡すから、コタ姉のお絵かきの相手してやって」
「みゃう!」
太壱は従者のミャンルー・うにゃーさんに、ハンドベルト筆箱とパラミタがくしゅうちょうを渡した。
コタローたちが落書きをしているのを眺めていると、ようやく樹や章たちが帰ってくるのが見えた。
「親父、お袋……それと、要に悠美香、全員手続きは終わったのか?」
「お待たせ、手続きは全て終了したよ」
章の手には、書類が握られている。
「……って、何持ってるんだ親父……?」
「ん? 新しく出来上がった戸籍謄本……太壱君も目を通してごらん?」
章から戸籍謄本を受け取った太壱は、その中に目を通した。
(今日の日付で『養子・緒方太壱』と記入されている)
……なんで、何でこんな事になってるんだ?
「見たままだ、お前の戸籍だ」
樹が横から口を挟んだ。
「未来から来たお前には、正式な籍など無かったであろう? それをしっかり作ってやろうというのが、我々の企みだったのだよ」
「うふ〜、しゃくしぇんせーこーなのれす! たいも、あきと、ねーたんと、こたと『家ぞく』になったれす!」
コタローが嬉しそうに言う。
「強化人間用の戸籍を準備したり、各方面に手配をしたりして、案外手間がかかったのだぞ」
「僕達の『長女』はコタ君で、『長男』は太壱君、君だけだからね」
にっこりと笑う章と樹を交互に見る太壱の目に、みるみるうちに涙が溢れてきた。
「おやじ、おふくろぉ……」
「……う? ないてうんれすか?」
「泣くなバカ息子……いや、太壱」
ぼろぼろと涙を零す太壱の顔を、コタローと樹が覗き込む。
「涙は別の時に流せ、自分を鼓舞するために流せ。嬉し涙は、流した涙の分幸せがこぼれると聞く。……勿体ない事だと思うぞ、太壱」
「……う、はんかち……」
コタローはポシェットからハンカチを引っ張り出すと、太壱の目元をごしごしと拭いた。
「コタ姉もありがと、な……そんなにぐいぐいやらなくたって拭けるよ、大丈夫だって!」
太壱の涙が収まってくると、樹がゆっくりと口を開いた。
「次は、お前が幸せになれ……お前が信じた道で幸せになれ! それ以上は言わぬ、お前が自分で考えろ、我々の子供なんだろう、太壱?」
「俺、この時代に来て、良かった…親父達の息子で、良かった…」
樹や太壱たちの様子を見ていた要と悠美香は、微笑んで顔を見合わせた。
「ーーどうする? 一旦帰る?」
「記念に2人で何か食べに行こうよ。結婚生活、最初の1日目ってことでさ」
「良い案ね。行きましょうか」
樹たちに向き直り、別れの挨拶をすると要たちは去って行った。
「樹ちゃん……やっと太壱君の名前が呼べたね」
要たちの姿が見えなくなると、章は樹の頭を撫でながら笑った。
「ありがとうアキラ……私も強くなれたと思う」
樹は、自分の手を握ったり開いたりして、どこか遠くを見るように空を見つめた。
「まだ他人に対する警戒心は強いままだが、それでも大丈夫だといってくれる存在がある限りーー私は負けずにいられるんだと思う」
「え? お袋?! ……それ、どういう意味だよ?」
太壱の胸ポケットに入れた、携帯の着信音が聞こえた。
「……ツェツェ?」
表示された差出人の名前を見て、太壱は口の中で小さく呟いた。
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